菅原さんちの双子のお兄さん | ナノ


  4 菅原さんちの双子のお兄さんの家庭事情



菅原さんちの双子のお兄さんの家庭事情






「今日からマネージャー的なのにされました3年1組菅原悠支です。よろしく」



時は過ぎて放課後。

俺はバレー部が練習する体育館に来ていた。
いや、本当は逃げたかったんだけどさ……
逃げようとしたところを花巻に捕らえられ。それでも逃げようとしたら合宿連れて行かないと脅された。卑怯者め。

俺が自己紹介すると、何となく事情を察したらしい部員たちは軽く挨拶して練習を始めた。

急激に心細くなった俺は及川を通り越して岩泉の元へ行った。何か及川が叫んでるけど知らない知らない聞こえない。



「マネージャーって具体的に何やればいいの?」

「あーそうだな、とりあえず今マネージャーの仕事は1年がやってっから……おい国見!ちょっと教えてやってくんね?」

「……いいですよ」



国見はいつものポーカーフェイスで承諾した。
これが頼んだのが及川とかだったら拒否するんだろうなあ……



「悪いな国見」

「いえ。じゃあまずドリンクの作り方教えます」

「よろしく」









マネージャーの仕事は主にドリンクの準備、選手が怪我した時の手当て、その日の練習の記録。タオルはいいのかと聞いたら、だいたいは自分で持ってきているのだそうだ。



「これ全部1年がやってたのか……大変だな」

「全くです」



国見とドリンクを作りながら、俺は呟いた。
青葉城西は強豪校のはずなのに、マネージャーがいなければ確実に1年の成長が遅れる。これは痛い……
まあそれもこれも及川のせいなんだけどね!



「……菅原さん」

「ん?」

「菅原さん、どこか身体悪いんですか?」



ぴたり、とドリンクを振っていた手が止まった。
国見は気にせずドリンクを振り続ける。



「……何で、そう思った?」

「……別に……あんなにバレー上手いのに、何でバレー部入んなかったんだろうって思ったからです」

「……そうか」



俺は止まっていた手をまた動かし始めた。



「……別に何ともないよ」


……今は、ね。



「……そうですか」

「バレー部入んなかったのは、家のことを優先したかったからなんだ。……うち、父子家庭だから」

「え、」

「母親は俺が小学生の時に死んでねぇ……親父は何もできないから、家の長男たる俺が頑張らなきゃーって思ってさ」



ま、高校生にもなったし、家のことは別にもう大丈夫だけどね、と言うと、国見はドリンクを振る手を止めた。



「……すみません、深入りするつもりは無かったんですけど」

「あーいいのいいの。昔のことだし。それより早くドリンク作れよ。お前のそれが最後」

「あ、すみません」



国見はまた急いでドリンクを振り始めた。そしてふと出来上がったドリンクを入れたカゴを見た。



「……菅原さん何本作りました?」

「ん?んー4分の3くらいじゃね?」

「……得意なんですか、こういうの」

「まあ、そうだな。好きだし」



ドリンクは毎朝孝支の作ってるもの……!
毎日やれば慣れるわ。

俺は出来上がったドリンクのカゴの一つをどっこいしょと持ち上げた。もう一つのカゴは国見が持つ。



「今日は俺が一緒にやりますけど、明日からは一人で出来そうですか?」

「ああ、この分なら大丈夫そう。わかんないことあったら聞くから」

「いつでも聞いてください」



ドリンクのカゴを体育館の壁際に置くと、国見は練習に戻って行った。



「……あ、国見!」

「?はい?」

「"菅国"もいらないからー!」

「……俺もいりませんよ」














「じゃあ今日の部活終わり!解散!」
「「オース!」」



ドリンク配ったり記録の書き方教わってたりしたらいつの間にか部活が終わっていた。

やばいな……結構忙しい。
部活風景見るつもりだったのに今日全然見れなかった……
つか記録やるんだったらドリンクってその前に用意しとかなきゃじゃん。明日から昼休みに作り置きしておくかな……

空になったボトルを洗いながらそんなことを考える。
でもまあ、これくらい忙しいのがちょうどいいのかもしれないな。余計なこと考える暇ないし。



バァン……



ボトルを運んでいると、体育館からボールが跳ねる音がした。
まだ誰か残ってんのか?

ひょいと体育館の中を覗く。


……そこには、サーブの練習をする及川がいた。

他は誰もいない。


……なるほど、及川のバレーは "才能" じゃなく "努力" ってことか……


及川はまたサーブを打つ。
ムカつくほど綺麗なフォーム。
凄まじい威力。
そしてコートの隅を狙う抜群のコントロール力。


正直に凄いと思った。



「……菅原?まだいたのか」

「、おう、岩泉お疲れ。俺はボトル洗ってた」

「そうか。お疲れ」



エナメルを肩にかけてこれから帰る様子の岩泉が声をかけてきた。
そして体育館の中の及川に気付く。



「及川か……あいつは毎日残ってるよ」

「毎日?」

「毎日。オーバーワークにならないようにちゃんと制限はしてるから安心しろ」

「……そう」



それから二人で、無言で及川をぼんやりと見ていた。
俺たちが見ているとも知らずに、集中力を切らさずにサーブを打ち続ける及川。



「……帰るか」

「……ああ。菅原は歩きか?」

「いや、地下鉄とバス」

「マジか。遠いのか?」

「んーそうだな、ちょい遠い。烏野の近くだし」

「山1つ越えんじゃねえか」



岩泉と他愛ない話をしながら、俺は及川に背を向けた。














「ただいまぁー」

「悠支いいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

「孝支……!!!」



例のごとくがしぃっと玄関で抱き合う。
あー疲れが癒されるー……



「今日も学校残ってたの?」

「うん……ごめんな、遅くなって」

「最近物騒なんだし気をつけて帰って来てな?迎えに行けたら行くし」

「孝ちゃんのが危ないからだーめ」



ぶぅーと頬を膨らます可愛い孝ちゃんの頭をぽんぽんと叩き、またぎゅっと抱きしめた。
ほんとくそ可愛いなんなのこの小動物……!



「あ……悠支、あの……さ」

「ん?」



少し身体を離して何かを言いづらそうにもじもじとしたり視線をウロウロさせる孝支。ああもう可愛い抱きしめたい



「あの……実は、部活で東京遠征することになって……」

「うん」

「……い、1週間ほど、家をあけることに……なりました……」



しょんぼりと俯く孝ちゃん。



「そのことなんだがな、孝支……」

「ん?」

「実は、俺もその遠征に行くことになったんだ!!」

「ええええ?!?!」



がっしぃとまた孝支に抱き着く。



「え、ちょ、ま、え!?本当に!?」

「本当。実はかくかくしかじかでバレー部のマネージャーになったんだよね」

「ええええ初耳なんだけど!でもこれで1週間離れずに済むってことだよね!?」

「そうだぞ孝支いいいいいいいいいいいい!!!」

「大好き悠支いいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

「俺は愛してるうううううううううううううううう!!!」



そのまま玄関でイチャイチャしてると、ご飯まだー?と空気の読めない親父が顔を出したので、うるせえ髭親父邪魔すんなと言う顔で睨んでおくと、親父が ひぃっと言ってそさくさとリビングに戻って行きました。


そんなことより孝支と遠征楽しみだぜ!!!!!!!!


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