菅原さんちの双子のお兄さん | ナノ


  3 菅原さんちの双子のお兄さんはやっぱり弟が大事


「……」



こんにちは読者様。
俺は今、人生最大と言ってもいい危機に瀕している。




菅原さんちの双子のお兄さんはやっぱり弟が大事





ついさっきの昼休み、屋上で俺のこととかバレたりいろいろあって、バレー部に入部することになった俺。
昼休みも終わりに近付いていたのでバレー部はパラパラと教室へ戻っていった。

俺はというと、何故だか、とってもとっても疲れていたので午後の授業もサボって屋上で寝ていようとごろんと仰向けになった。
そんな俺を見た岩泉が俺を覗き込んで言った。



「バレー部入んなら授業もちゃんと受けろよ」

「えー」

「そうだよ〜バレー部の印象悪くしないでよ?」



岩泉に乗っかって及川も岩泉の後ろから顔を出す。
……何だろう、岩泉には何とも思わないのに、及川はめちゃくちゃ殴りてえ。



「別に成績良けりゃ大丈夫だろ。それに俺がいないなんて誰も気付きゃしねぇよ」

「え、菅原くん頭いいの?」

「ここに特待生で入って学年1位キープして授業料免除してもらってますぅー」

「うっそ……!!」



だってねえ……私立なんて授業料免除じゃないと。ウチにはそんな財力ないから。



「でもそれとこれとは話が別だ。入部するからには授業に出てもらう」

「えー」

「合宿連れて行かないよ?」

「すみませんでしたああああああああああ!!!!!」



ガバッと起き上がって土下座をする。
孝支と1週間も会えないなんてごめんだ!



「ちゃんと授業に出てるかはマッキーに随時報告してもらうからね!」



俺の様子を見て大丈夫だと思ったのか、及川と岩泉は屋上を出て行った。

ぽつんと屋上に残された俺。
めんどくさいな、と立ち上がり空を見上げた時、日の光に照らされて輝いた自分の銀髪を見て、変装していなかったことに気付いた。

ウィッグつけなきゃ、と思い、先程まで自分がいた場所を見る。



「……ん?」



そのままぐるりと屋上全体を見渡す。
あれはそんなに小さなものじゃない。



「……ウィッグが、ない……」



……。





…………うっそだろ………!?!?!?!?





え、待ってあれをなくしたら俺青城で生きていけないんだけど!!
てかウィッグなくすって何!?
何であんな大きなものなくすの!?



……待て待て待て。
これで授業サボったら合宿に行けない、つまり孝支と離れ離れ。

このままの姿で授業受けに行ったら、……大騒ぎ……




断っっっ然 後者だろ!!!!!!




そうして悩んでいるうちにいつの間にかチャイムは鳴っていたようで。廊下を覗くと人は誰もいなかった。

つかほんとウィッグどこいった……ウィッグって結構高いんだぞ!?

他のクラスの奴に見つからないように壁に張り付きながら歩いてきて、ようやく自分の教室の前に着く。
聞こえてくる声は英語。英語の授業か……

ちらりと教室の中を覗く。

おー勉強してんなー……あれ、あの席にあんな奴いたっけ?
あそこには黒髪じゃなくてもっと派手な桃頭……

……桃頭?



「っ花巻いいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」



ガラララッと盛大にドアを開け、花巻に向かって突っ走る。
授業中?そんなの関係ねぇ!!!
花巻は黒髪を揺らして うわああっ、と後ずさった。
うわああじゃねぇよ!!!!!!!!!!



「ウィッグ返せゴルァああああああああ!!!!」



バシィッと花巻の頭の黒髪を奪い取ると、いつもの桃頭が顔を出した。
畜生、こいつがパクってやがったのか!!!



「俺がどんだけ困ったと思ってんだ、あ゙?」

「まじごめん」



ガタガタと震える花巻を見て俺は ふぅ と溜め息をついた。
これでまた変装できる!

……あれ、何か忘れてるような



「……誰?」



クラスの誰かが呟いた。

俺はハッと顔を上げた。
先生から生徒まで、全員の視線が俺に集まっている。


――銀髪綺麗……
――てか可愛くない?
――制服着てるけど……転校生?
――花巻の知り合い?


こしょこしょとクラスの奴らが話しはじめる。



「……おい。誰だか知らないが授業中だぞ」



英語の先生が俺を睨む。



あ、これ 死んだわ



「あ……えと……」



冷や汗がどっと吹き出す。
ごまかせ、ごまかすんだ。どうにかして……

そんな俺を見てか、隣にいた花巻がクスクスと笑い始めた。



「花巻……笑ってんなら助けろまじで」

「だ、だって……ぶふっ」

「お前の桃頭を蛍光色にしてやる」

「ちょ、やめ……ぶはっ」



花巻は涙を零しながら笑いを耐える。いや、耐え切れてないけど。



「だ、だって……同じクラスなのに……っ、しかも今まで話題にも上がらなかった青城一の地味男が可愛いとか……っはははははは!!!!!」




「……」



……花巻。
お前に助けを求めた俺が馬鹿だった。



呆然として俺を見ている皆をぐるりと見渡し、俺は腹をくくった。



「どーも。青城一の地味男こと菅原悠支です」



チョリッス、とポーズを決めた瞬間




教室内は強烈な悲鳴に包まれた













「ねぇねぇ、何で今まで変装してたの?」
「こんな可愛いのにもったいない!」
「これ地毛なの?」
「花巻とどんな関係?」



休み時間。
俺の周りは女子女子女子。
どこからか噂を聞き付けた他のクラスの奴らも教室のドアからぎゅうぎゅうと顔を覗かせている。
こんなモテ期いらない。
もともと俺あんまり喋るの得意じゃないし。特に女子!!!



「ねぇ菅原くぅん」



隣にいた女子が俺の肩に手を置いた。
ゾワッと何かが身体を走り、思わずその手を跳ね退け、立ち上がった。



「あ、……」



手を跳ね退けられた女子を含め、その場にいた女子がぽかんと俺を見た。
……や、ヤバい、やっちまった……



「……ご、ごめ」

「はぁいそこまでー!」



楽天的な声と共に、俺は誰かに後ろから抱き着かれた。

ピギャーと女子たちが騒ぎ出す。
俺は後ろから抱き着く奴の顔面に拳をめり込ませたい衝動を抑えて言った。



「……何してんの及川」

「お困りの菅原くんに助け船出そうかなって!ほら、及川さん女の子の扱い慣れてるし?」

「……」

ドヤ顔をする及川に何とも言えない苛立ちを覚えたが大人な俺は黙っていることにした。
ここは及川に任せた方が良さそうだ。



「菅原くんね、今日からバレー部の一員なんだ!だからあんまり刺激しないで欲しいんだよねー部活に支障出ちゃうから」



ウインクでもしたのだろうか、また女子たちがピギャーと黄色い悲鳴をあげた。



「今まで変装してたのって、実はこういうの苦手だったからなんだ。でも俺のわがままでばれちゃって……ごめんね、菅原くん」

「え、ああ、いや……別に」



見るからにしょぼんとする及川。お前役者になれるよ。
及川に合わせた俺に満足したのか及川はにこりと笑って俺をギュッと抱きしめた。



「てことで菅原くんは及川さんのだから邪魔しないでね☆」



ヒンギャアアアアという、さっきの悲鳴の倍以上の女子の悲鳴が教室に轟いた。













しかし俺は聞き捨てならない言葉を聞き逃さなかった。




"菅原くんは及川さんの" だぁ……?



「……及川」

「ん?なぁに菅原くん!」

「歯ぁ食いしばれ!!」

「ごっふぅ!?!?」



俺の肘が見事に及川の鳩尾に入った!
及川は苦しそうにうずくまる!



「げほっ、ちょ、菅原くん、ごほっ、助けてあげたのに、げふぅ」

「ああ、悪い。助けてもらったのは感謝してる。が……」



俺は拳を握りしめ、バキバキと指を鳴らした。



「この小説に "及菅" はいらねぇんだよ」

「え」

「寧ろこの小説に必要なのは "菅菅" !!そう!!純粋兄弟愛菅菅だ!!及菅なんて俺が滅してやる」

「何の話してんの菅原くん」

「とりあえず俺はお前なんか眼中にねぇ!」

「えっ待って何で俺がフラれたみたいになってんの!?」



その後 "菅原悠支が変装をしていた" ということよりも、 "菅原悠支は腐っているらしい" という噂が青城を駆け抜けた。

一応言っておくが俺は腐ってないぞ!ただ孝支が大好きなだけだ!!!!!←



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