2 菅原さんちの双子のお兄さんは諦めが早い
菅原さんちの双子のお兄さんは諦めが早い「……」
事件が起きたのはあれから3日後のことだった。
2日間何もないからもう大丈夫だと思ったじゃん?
いやあ、油断大敵だよね。忘れたころに、ってやつ?
まさかいつも通り屋上で寝て、ふと目を覚ましたらバレー部の連中に囲まれていたってなんてホラーなんでしょう。
かごめかごめでもやるんですかあんたら。
「……及川くん、これは何かなー?」
「うん、話をする前にさ、その眼鏡とウィッグ、取ってくれない?菅原悠支くん」
やけに"菅原"を強調した及川。
……なるほど。
どこから情報を仕入れたのか知らないけど、お見通しってことね……
「……いいけど、囲むの止めてくんね?逃げないから」
「わかった」
及川は囲んでいた部員たちを及川の後ろか横に移動させた。
俺はやっと起き上がって伸びをする。
「菅原くん」
「はいはい、取ればいいんでしょ」
眼鏡とウィッグ。
もう3年生だしそろそろバレてもいいかな、なんて思っちゃったんだよね。
いろいろごまかすのもめんどくさいし。
ちら、とバレー部を見ると、及川と岩泉以外は何が起こるのかわからないようだ。あ、国見はポーカーフェイスだから論外ね。
まず眼鏡を外してポケットに入れる。
そしてウィッグをとめていたピンを1本ずつ丁寧に外した。
パサ……
視界に銀髪が揺れる。
「「「「「な……っ!!」」」」」
「何で、烏野の……!」
花巻が呟いた。
ああそうか、同じ部活だもんな、孝支のこと知ってるか。
……ま、ムリもない。
俺の今の姿は "烏野の"菅原そっくりだから。
「悪いな花巻。俺は"烏野の菅原"じゃない。"烏野の菅原"の双子の兄貴だ」
「「「「「双子!?!?」」」」」
ああうるせ、
でもそのびっくりした顔面白いな
「ふふん!及川さんの情報網によれば烏野のスガちゃんと誕生日とか身長とか苗字とか一緒だったからね!調べるのは楽だったよ!」
「うわキモッ」
「菅原くんキャラ変わってない!?!?」
「これが素ですが何か?」
にこりと笑うと及川はヒクリと頬を引きつらせた。
せっかくのイケメンが台なしですよー(棒)
「まあ、それはいいや。でさ、話っていうのは」
「お断りします」
「……何も言ってな」
「何か厄介事の臭いがぷんぷんするんでお断りします」
「話だけでも聞いてよ!」
「話だけ聞いてやってくれないか菅原……本当に悪い」
「岩泉が言うなら聞いてあげないこともない」
「君は岩ちゃんの何なのさっ!!……ああ、いや、まあそれは置いといて……」
及川が何やら古臭い手の動きをしたことはつっこまないでおこう。
「菅原くんには、やっぱりバレー部に入って欲しいんだよね」
「選手なら優秀な人材がそこにたくさんいるじゃん。てか何で今の時期……3年もうすぐ引退じゃねえの?」
「残念ウチは今年の春高まで残りますぅー。てか菅原くんには選手じゃなくて、マネージャーやって欲しいのよ」
「マネージャー?」
それ女子のが良くない?
てか強豪なのに何でマネージャーいないの?
「マネージャー不足は主に及川が原因だ」
「よくわかった」
「人聞きの悪いこと言わない!納得しない!……ね、どう?」
……そう言われましても。
つまり女子マネージャーは及川のせいでめんどくさいことになってるから、男の俺に頼みたいってことだろ?
「……前も聞いたけど、何でそんなに俺に執着するわけ?他にもいるじゃん、適材が」
「そうだね」
及川は笑った。
やべ イラッときたわ
「でもね、俺は菅原くんがいいんだ」
「何で」
「その手が好きっていうのもそうだけど……この前部活来てくれた時、あれ岩ちゃんの"本当のベストポイント"を見抜いてたんだよね?」
……バレてたか。
バレーやってる人見ると分析しちゃうのが俺の悪い癖だよなあ
「その目が、脳が欲しい!すなわち菅原くんが欲しい!!」
「熱烈な告白どうもありがとう厳正なる脳内審査(0.1秒)の結果残念ながらお断りさせて頂くことになりましたので失礼します」
「待ったあああああ!!」
がし、と逃げようとした俺の足を及川が掴む。
キモッ離せ
「こうなったら最終手段だ……」
「はあ?」
及川は俺の足を離さずに話し始めた。
「実は今度、東京での合宿が決まってねぇ……1〜2週間も続く長期合宿なんだけどさ」
「へー」
「その合宿、烏野も参加するみたいなんだよね」
「ふーん……え?」
「つまり、君の "弟くん" も参加するんだよ」
東京での 長期合宿に 孝支が 参加 する ……?
なななななななななんだってええええええええええええ!?!?!?!?!?
ちょちょちょちょちょ待て待て待て待ておおおお落ち着け俺!!
合宿に参加しなかったら孝支と1〜2週間会えない……
参加すればずっと一緒……
いやいやいや絶対後者だろ!!!!!!!
つか何で及川は俺のブラコンラブラブ度まで知ってるのさ!?!?
「〜〜〜だぁああああ……クソ……わかったよやりゃあいいんだろやってやんよマネージャー……」
「!!本当!?」
「え、待て待て待て、お前何で今ので承諾しちゃうの?」
「うっせーどーせ俺は自他共に認めるブラコンだよこんちくしょー孝支大好き孝支愛してるんだよこんにゃろー」
「喋り方どうしたよ」
だって……だって……!
孝支とその他天秤にかけたら断然孝支でしょ!?ばかなの?ばかなの?
そうだよばかは俺だよ!!
でもこれは孝ちゃんが可愛く生まれた時既に決まっていた宿命なんだよ!!
「とにかく!菅原くん!今日からマネージャーよろしくね!」
「……へーい」
ってことで菅原悠支。
人生の転機が訪れた模様でございます。
あー帰りてえ
……待てよ、部活して帰るとか帰り遅くなるじゃん?
孝支とのイチャイチャタイム減るじゃん?
俺死ぬじゃん?
「……及川やっぱ今の無しに」
「合宿連れて行かないよ?」
「すみませんでしたああああああああ!!!!」
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