ハイキュー短編 | ナノ


  俺は"黒尾鉄朗"【成り代わり】


俺は"黒尾鉄朗"【成り代わり】




【attention】

・かっこいい黒尾がいない
・いるのは穏やかな黒尾とビビリな黒尾
・研磨が辛辣
・夜久が天然
・烏野ちょっとしか出てこない


それでもOKだよって方はどうぞ!















「俺たちは血液だ!」



あー……恥ずかしい……





俺は"黒尾鉄朗"





俺が"黒尾鉄朗"という名前になって早18年が経とうとしていた。


俺は、黒尾鉄朗ではない。


いや、実際俺は黒尾鉄朗なのだろうが、前世の記憶を持ったまま生まれてきてしまったのだ。

それも……"ハイキュー"という漫画を知っている、前世の記憶を。


生まれたばかりの頃はまだぼんやりと、「あ、俺って前世の記憶あるんだなー」くらいにしか思っていなかったけど……

"黒尾鉄朗"という名前。
やけにバレーボールをしたがる幼少期。
二つの枕で頭を挟まないと落ち着いて眠れない身体。
街ですれ違う"NEKOMA"と書かれた真っ赤なジャージに思わず奪われる目。

気付くきっかけはいくつもあった。



あ、俺 ハイキューの黒尾鉄朗になったんだ



って。


でも原作の黒尾鉄朗と俺とはかなり性格的にも精神的にも違いがあって、
「このままじゃもしかしたら原作通りにいかなくなって、ごちゃごちゃになったこの世界から追放……」
なんて考えが当時3歳の俺を駆け抜け、要は"黒尾鉄朗"を演じることが普通になっていた。
だから……



「恥ずかしい……もうやだ……」

「じゃあ言わなきゃいいじゃん……」

「いやだってこれ言わなきゃ黒尾鉄朗じゃないじゃん!」

「黒尾鉄朗はお前だ馬鹿クロ」

「今日の研磨氷点下……」



こんな姿、絶対に誰にも見つかってはいけない。
……研磨以外。
研磨は幼なじみで昔から俺のことよく知ってて、唯一俺の素を見せられる場所だ。そして……



「早くおれから卒業してよクロ……」

「むりむりむりむりむりむり死ぬ!!」

「じゃあ死ね」

「それはあんまりだよ研磨!!」



なんだかんだ言って、一番心地好い場所なんだ。



「明日は烏野と試合なんだからね?しっかりしてよ主将」

「ゔ……何で俺主将なの……」

「知らないよ引き受けたのクロでしょさっさと寝れば?」

「研磨ァ……」

「一緒になんて寝ないからね暑苦しい」



いつも以上に冷たい研磨はスタスタと部屋へ戻っていった。
そう。今はなんと俺の出身地、宮城に来ている。
あ、前世の俺仙台に住んでたんで。懐かしい。

そんでもって明日は所謂"ゴミ捨て場の決戦"。
宮城の烏野との練習試合。



そりゃ、緊張、するわな。



買ったばかりのホットミルクをガタガタと震える両手で握り締める。

確か烏野には……まず主人公の二人だろ?日向と影山。
それから、主将の澤村。副主将菅原。エース東峰。リベロ西谷。スパイカー田中。ブロッカー月島。
あとは……山口、縁下、木下、成田……マネージャーの清水さんと谷地さん。あ、谷地さんはまだいないか……

あれ、割と覚えてたわ凄くね俺。

ってそういうことじゃない!
問題は皆が皆怖いってことだ!

漫画の中でもあの真っ黒な感じ怖かったのに実際に会ったらどうなるわけ!?
最悪恐怖で泡吹いて倒れてアウトだよ!?ノックダウンだよ!?もしや俺氏死亡までカウントダウン始まってる!?

ああああどうしようどうしよう頑張れ、頑張るんだ俺頑張れ頑張れ頑張



「黒尾?」

「うわああああっ!!!」

「うおっ」



びっくりしすぎて飛び上がった拍子に落ちそうになったホットミルクをなんとか手の中に収め振り向くと、夜久が若干引いた様子で立っていた。



「わり、そんなに驚くとは……」

「ちょ、ちょっと考え事しててな……。夜久こそどうした、喉渇いたのか」

「いや、お前の背中見えたからさ。何か思い詰めてんなーって」



やだ夜久かっこいい抱いて。



「……俺にだって、不安になる時くらいある」

「ぶっふぉっ不安?お前がぁ??」

「笑いを隠し切れてないぞ夜久」



牛乳片手にぶるぶると震える夜久。
前言撤回。



「お前の不安は負ける不安か?勝つ不安にしとけよ」

「ポジティブだな」

「今までそうやってきたからな。つか まぁ、実際大丈夫だろ。あっちは入ったばっかの1年入ってんだし」

「……まぁ、そこは心配してない」

「あ?じゃあ何が心配なんだよ」



A.俺が倒れる心配です。



「いや、ほんと何でもない。気にすんな」

「そうか?」

「山本の悩み並のアレだから」

「ならいいか。じゃあ早く寝ろよー主将」

「おう」



ごめん夜久。俺、明日できるだけ頑張るから……










「こ、こんにちは。音駒3年 主将の黒尾だ。今日はよろしくな」

「烏野3年 主将の澤村だ。こちらこそ、今日はよろしく頼む」



頑張ってにこりと笑うと、澤村もにこりと笑って、手をぐっと握り締めてきた。
生烏野怖いナニコレ手の骨折られそう。

ただでさえこっちは寝不足だというのに何て爽やかな笑顔なんだ澤村クン!
爽やかなのは菅原だけでいいじゃん!!



「大丈夫?クロ……」

「……もしもの時は頼んだ研磨」

「は?やだ」

「そこをなんとか」

「……そのでかい図体を5分の1くらいにしたら考え直すよ」

「え、それは無理だよね?え?骨格をどうにかしろと?」

「全身複雑骨折すればいいんじゃない?」

「それはホラーかな?」



皆から少し離れた所で研磨と喋る。朝もこいつふらーとどこか行きやがって大変だったから俺が隣で監視してるだけだけど?

……という建前で研磨の隣確保して不安を少しでも和らげようとしているだけですはい。



「音駒の主将の……黒尾さん!」

「ひっ!?」

「しゃきっとしてクロ」



バンッと丸まった背中を研磨に叩かれる。
名前を呼ばれた方を見ると、澤村クンが俺の方に駆け寄ってくる所だった。
俺は音駒主将黒尾鉄朗俺は音駒主将黒尾鉄朗!!!



「何か?」

「試合開始は30分後でいいか?」

「……んー、じゃあそれでお願いします」

「わかった。じゃあ30分後に」



おー、と言って澤村クンと別れる。



「こ、怖かった……」

「……」



力を貸してくれ黒尾鉄朗……








「あ、大地ー音駒の主将どんな感じだった?」

「んー……見た目の割に意外と丁寧だし、主将っぽくなかった」

「マジか」

「割と話しやすかったから後でお前も話してみろよ、スガ」

「えーちょっと勇気いるわー」








30分後。ネットを挟んで烏野と対峙する。やっぱり怖い。つーか、怖い。怖い。



「主将から何か一言ないのか?」

「え゙」

「え?」

「え、えー……俺たちは血液」

「以外で!!」



おい夜久……お前昨晩のイケメン夜久はどこいったんだよ……
無茶ぶりばっかしやがって……



「……バレーはボールが落ちたら負けだ。烏野の攻撃、全部拾うぞ!」

「「オオー!!」」



「音駒気合い入ってんな……俺たちも負けずにいくぞ!!」

「「オーッス!!!」」







練習試合の結果は音駒の全勝。
もう一回もう一回と言う日向を宥めて片付けが始まった。



「……割と大丈夫だったじゃん、クロ」

「試合になるとスイッチ入るからな……でも今思い出すと……あああ……」



ぶるっと身体が震える。
そんな俺を研磨はため息をついた。

にしても本当に怖かった……
変人速攻マジで速いし……
澤村クンマジで怖いし……
東峰クンもアレ本当に高校生なの……!?



「なぁ研……アレ、研磨?」



隣にいた研磨に話しかけようとしたらいつの間にか研磨は他のところへ行っていた。
……あ、影山に見られてる見られてる……あ、逃げた

あっちでは犬岡と日向がピョコピョコしてるし……

……てか、本当に俺ハイキューの世界に来たんだなーって、今日改めて感じた。これからこいつらが成長していくんだ……


ぼんやりと眺めていると、月島が日向たちの方を見てため息をついていた。



「お疲れ、えーと、月島?」

「、どーも……」



あ、やべえ月島でかいから久しぶりに視線まっすぐだわ嬉しい



「……何ニヤニヤしてんですか」

「ああ、わりぃ。目線の高さが一緒なの久しぶりだからさ」



はは、と笑うと 月島が少し驚いた様子で俺を見てきた。



「……あの」

「ん?」

「……ブロック……の、コツとか、ありますか?」

「……え」



月島を見ると、いつになく真剣な顔で俺を見ていた。
あれ?こんなシーン原作にあったっけ?



「……そうだな、今は時間ないから……連絡先教えて?」







「次は負けません」



これまた爽やかな笑顔で澤村クンが手を握ってきた。
俺もはは、と笑って 次も負けません、と言って握り返した。



「次会うのは東京、オレンジコートだ。負けるなよ」

「そっちこそ。レシーブ頑張れよ」

「……おう」



ニカッと笑って澤村クンの背中を叩き、背を向けた。
だ、大丈夫だったかな怒ってないかな!?

研磨……研磨はどこだ……と探していると、日向と話しているところだった。仲良いよなあの二人……

軽く研磨に声をかけてからバスに乗る。

席に着いてからなんとなく烏野の奴らを見ると、月島と目が合った。月島が軽くお辞儀をしたのでつられて俺もお辞儀をした。
月島とはあの後ラインを交換したのでこれから度々絡む機会が増えていくだろう。
……果たして原作じゃこんなんだったのだろうか……


研磨が乗り込んできて俺の隣に座ると、バスが出発した。

さらば烏野。
さらば宮城。
次会う時はせめて怖さ半減してますように……








「……なぁんか、調子狂ったなぁ」

「黒尾か?」

「そうそう。何か、どこか張り合いがないと言うか……」

「ああ、あの人ラインも本名フルネームでプロフィール画像黒猫でしたし、割と質実剛健なのかもしれませんよ。……見た目によらず」

「!?つ、月島、黒尾とライン交換したのか!?」

「?はい。ブロックのコツ聞きたかったんで」

「……あの、月島が……」

「心開いてる……」

「は?開いてません」

「……俺らが月島のラインゲットしたのって」

「……先週」

「……すみません。忘れてたんです」








帰りのバス。
ほとんどの奴は夢の中へと旅だっていて、とても静かだった。

……にしても月島に俺なんかが教えちゃっていいのだろうか……
俺には黒尾みたいな潜在能力ないから……小さい頃から、いろんなバレーの本読んですげぇ勉強して……
つまり、教科書に載ってあることと同じことしか教えられない。

つか、確か東京で合宿あるよな?その時……あれ?その時じゃね?月島がやる気出すの……

あれ、もしかして今俺原作と違うことしてる?
それってやばくね?
あれ、俺氏死亡フラグ?

あっ……(察し)



「クロ死んだ?」

「え、いきなり何死んでないけど生きてるけど?!」



隣でずっとゲームをしていた研磨が呟いた。皆寝ているので俺は小声で喋った。



「何かそんな顔してたから」

「……研磨……」

「どうせまたネガティブ思考になってたんでしょ」



おっしゃる通りで!



「……こんなんじゃ黒尾鉄朗じゃない、よな。ポジティブにいかないとな」

「……最近よくそういうこと言うけどさ、クロはクロなんだよ?」

「……うん?」

「どんなに理想のクロになろうとしても、それは別の誰でもないクロ自身なんだからさ……だから、……」



そこまで言って、研磨はぷいっとそっぽを向いた。
研磨……何かすごくいいこと言ったよな?もしや照れてんのかこいつ可愛い……!



「研磨……」

「……だ、だから!……諦めなよ」

「え」

「もうクロがそんなふうに生まれ育ってきた以上それは事実なんだからさ、受け入れて諦めなよ……ぶふぅ」

「……」



俺を見てまたぶふっと吹く研磨。
……前言撤回。全然可愛くねえや。

ひとしきり喋りきったのか、研磨はまたゲームに集中し始めた。


……俺は俺、か……



「……そうだな」



いっちょ頑張ってみますか!








俺は









黒尾鉄朗だ

















おまけ




片付け中。


「あ、夜久くん、そこのごみ箱にこれなげといてくれない?」

「おう!(……え?投げる?……投げ……)……投げる!!」


ポーイ


「うわあああ夜久くん何やってんの!?」

「え、だってスガくんが投げてって……」

「ああああそれこっちの方言で捨てるって意味だから!」

「おうふ……」





「おーい澤村クン」

「ん、何だ黒尾」

「これはどうすれば?」

「ああ、それはなげといていいよ」

「おっけ。あそこのごみ箱でいい?」

「おう。さんきゅ」


「あ、おい、今 "なげろ" って言わなかったか?」

「?ああ。捨てるやつだったから」

「じゃなくて!なげろって言ったら本当にポーイって投げちゃうって!」

「……あっ方言か!!ヤバい黒尾……あれ、黒尾……」

「………………普通に……捨てた……」

「……てことはあいつ……もしかして」


「「宮城の方言まで勉強してきたのか……!?」」



A.黒尾の中の人の前世が宮城出身だからです。












おまけ その2



【黒尾鉄朗 と 月島 のライン】


月島:今日はありがとうございました

黒尾鉄朗:いえいえ
黒尾鉄朗:こちらこそありがとな
黒尾鉄朗:頼ってもらえて嬉しかったよ

月島:一つ聞いてもいいですか?

黒尾鉄朗:ん、何でもどうぞ?

月島:黒尾さんってビビりなんですか?

黒尾鉄朗:



【黒尾鉄朗 が退出しました】





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