【あかやち】一本取ったのは、
元ネタ提供はフォロワーさん! ありがとうございました!!
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合宿の夜。
谷地はなんだか寝付けなくて、一人飲み物を買って飲んでいた。
「谷地さん?」
「ひぁああ!?!?」
突如、後ろから聞こえた声。
足音も何も聞こえなかったので谷地は飛び上がって驚いた。
声を掛けた人物も、予想以上の谷地の反応に少し驚いた様子だ。
気持ちを落ち着かせて谷地が後ろを振り返ると、笑いを堪えた、もう見慣れた顔がそこにはあった。
「あああ赤葦しゃん!こここんばんは!!」
「どうしたの?眠れないの?」
俺もだけど、と言いながらストンと谷地の隣の席に腰を下ろした赤葦は、谷地に優しく聞いた。
「う……はい。なんだか寝付けなくて……飲み物でも飲んで落ち着こうと思いましたら、月が綺麗だったので眺めてました」
ここから綺麗に見えるんですよ、と谷地は窓の外を指さした。
赤葦も谷地の指の先を辿って見ると、綺麗な満月が闇夜に浮かんでいた。
雲一つない漆黒の夜空に浮かぶ満月は、谷地と赤葦の顔を煌々と輝いている。
赤葦はその月を見て、先日受けた現代文の授業のことを思い出し、反応の面白い谷地を少しだけからかうことにした。
「月が綺麗ですね」
ニヒルな笑みを浮かべて谷地に向けていう赤葦。
谷地は一瞬その意味を理解しなかったが、ピンときて ニヒルな笑みを返した。
「わたし、死んでもいいわ」
谷地のその言葉に赤葦は目を見開く。
「なんだ、知ってたの」
「進学クラスですから」
ドヤァと無い胸を張る谷地。
『月が綺麗ですね』――これは、かの有名な夏目漱石の『I love you.』の訳だ。
『わたし、死んでもいいわ』――これは、二葉亭四迷の訳。
二年生の赤葦がつい先日授業でやったことを、一年生ながら進学クラスの谷地はすでに学習していたのだ。
「ちょうどおととい?だったかな。現代文でやったからさ」
「ふふふ。赤葦さんから一本取りました」
ニシシ、と笑う谷地に少しむっとする赤葦。
そんな赤葦を見て谷地は今度はくすっと笑った。
「赤葦さんなら、何て訳しますか?」
「え?」
谷地の無茶振りに赤葦は一瞬戸惑ったが、いいことを思いついたように、またニヒルな笑みを浮かべた。
そして、顔を谷地に近づけ、その耳元で囁いた。
「谷地さんがいない世界なんて考えられない」
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