【菅潔】そんな君だから好き
「……そういえば、菅原ってMだったんだね」
「「「……は?」」」
いつも通りの部活の時間。
だがしかし体育館は午前にあった卒業式の後片付けをやっていて使えず、外は生憎のにわか雨。
後片付けはすぐに終わるから14時に部活を始めて、それまでは各自昼ご飯を食べること、と主将の澤村は部員に指示を出した。
澤村はいつも通り、菅原の教室で昼ご飯を食べようとすると、行く途中で東峰と清水と会い、どうせだから一緒に食べることにした。
他愛のない話をしながらすぐにご飯は食べ終わり、暇になってきた所で清水が冒頭のとんでもない発言をした。
「……し、清水?どうしてそんな事になった?」
「え、だって菅原って辛いもの好きなんでしょ?」
「うん、そうだけど?」
「"辛い"って味覚じゃなくて痛覚なんだって。だから菅原、痛いの好きなのかなって」
何か変なこと言った?とでもいうような清水。
そんな清水の爆弾発言に菅原は笑ったが周りの二人は固まっていた。
「ははは、面白いな清水は。……俺が本当にMか試してみる?」
「え、どうやって?」
「どうやってって、それは、ねぇ?」
「……こっちを見るなスガ」
「……こっちも見るなよスガ」
ま、冗談だけどね、と言って菅原はまた笑う。
そんな二人の様子に清水は首を傾げた。
「MかSかで言ったら、俺的にはSのつもりだったんだけどなぁ〜」
「でも生物学上ではMだって……あ、そうか」
清水は ぽん、と手を打った。
「他人から見てMで自分ではSって思ってるってことは、自分に厳しく他人にも厳しいって事でしょ?だから菅原は頼れるセッターになったんだね」
そうでしょ?と少しドヤ顔で語りかけてくるマネージャーを見て、菅原も澤村も東峰もしばらくぽかんと口を開けていた。
しかし突然、菅原があはははと笑い始めた。
「ははは!俺清水好きだわー」
「「えっ」」
「ほんと?私も、ふふっ」
「「え!?」」
「あ、もちろん澤村と東峰も好きよ」
「あ、ああ……」
「ありがとう……」
何だそういう意味か、と澤村と東峰は安堵した。
ふと時計を見ると、針は13時45分を指していた。
「私そろそろ着替えて準備してくるね」
「おう。俺たちもそろそろ行くか」
「そうだな」
じゃあまた後で、と清水が教室を出ていく。
その瞬間、菅原が はああああっ、と大きく息を吐いて机に突っ伏した。
(やっぱり伝わらなかった、か……)
(いきなりあんなこと言うからびっくりした……勘違いするところだったじゃない)
(……でも)
(……でも、)
そんな君だから好きなんだ。
「あ、ねぇ東峰。澤村ってSなの?」
「もうその話題止めようよ清水……」
*
「って言う下りを去年したなーって思い出してた」
「そういえばそんなこともあったね」
卒業式の後。
バレー部皆で集合写真を撮ろうということになって、菅原と清水は一番乗りで集合場所へ来ていた。
まだ皆が来る気配はない。
「皆遅いね」
「大地は道宮に捕まってたし、旭はクラスで何かやってたしな」
1、2年は今部室を装飾してる頃だし、もうしばらく誰も来ないだろう。
「去年は前日に送別会したんだっけ」
「そうそう。黒田さんが卒業式の後すぐ東京行くからって、前日に」
その時、サァ、と冷たい風が二人の間を駆け抜けた。
「風冷たいな。中で待ってる?」
「ううん、大丈夫。菅原は?」
「俺も平気。陽射しがあったかいから」
「そうだね」
二人して、青い空を見上げた。
「……清水は、俺らのことよく見てるよな」
「え、」
「体調悪いとすぐバレるし、誰がどこ行ったかちゃんと把握してるし」
「……だって、マネージャーだから」
清水のその言葉に、菅原は首を振った。
「それは違う。"マネージャーだから" じゃなくて "清水だから" だよ」
「……そんなこと、」
「清水だから、皆のことよく見てたんだよ。……それに助けられたこともあったし、改めてありがとな、清水」
「……うん」
清水は頬を少し赤く染めて俯いた。
そんな清水を見て、菅原は思わずそっぽを向いた。
「あーあ、やっぱり"俺清水好きだわー"」
どこかで聞いたことのある台詞。
それを聞いて、清水は顔を上げ、見た。
……菅原の後ろ姿……もっと言うと、真っ赤になった菅原の耳を。
「……"ほんと?私も"」
清水は クスッと笑って、菅原の背中に抱き着いた。
(やっとか……)
(やっとくっついたか……)
(めげずによく頑張ったなスガ……!)
(あれ、くっついたと言えばお前、道宮は?)
(え?あー……実はさっき第二ボタン渡し逃げしてきた)
(……ちゃんと伝えなよ)
(おう。スガ見たら勇気もらったわ)
(……俺も、頑張らないとな)
烏野3年に、幸あれ。
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