暁の空へ番外編 | ナノ


  俺は"忍足謙也"


・・
彼女を知ったのは、インターネットの中だった。


《今日は私の大親友の"雫色"が来てくれましたー!》
《はじめまして、雫色です》


それは親友の俊が好きな"夕月"という歌い手の生放送だった。


ちょっと話してみたいな。


そんな小さな好奇心から、俺は某通話アプリで二人の生放送に参加した。


《はーいこちら夕月。そんなあなたは?》
「どーもー木陰です」
《はじめまして。雫色です》
「はじめまして。よろしくなー」


最初の印象は"物静かな子"だった。
落ち着いた喋り方、安定した受け答え。
自分と同い年とは思えないほどだった。



それが、彼女との初コンタクト。






「え、オフ会?」
「そそ。皆これから部活やらで忙しくなる人もいるじゃん?だから、忙しくなる前に一回皆で集まらないかって」


インターネット上で知り合った人たちで集まって親睦を深める。それがオフ会。
その誘いが俊を通して俺にもやってきた。


「ちなみにメンバーは?」
「俺とお前と夕月と夜ちゃん……真昼の夜と、あと雫色!」


雫色


その名前を聞いて、俺は何故だかすごく楽しみになったんだ。


「行く!」
「っしゃ!」


オフ会当日は、"彼女"と初めて出会った日であり……


……そして、別れの日でもあった。


俺たちはこの日、夕月を目の前で亡くし、さらに俺たちは摩訶不思議な体験をすることになる。



……そう、俺は"忍足謙也"に転生したのだ。

オフ会の日の……"あの事故"の日の記憶だけがない"竹城颯太"が、"忍足謙也"に。





今なら鮮明にあの日のことを思い出せる。

雫色。
本名は鷺坂結衣。
ふわふわした髪が印象的だった。

俺は何だか彼女と接するのが照れくさくて、ぎこちなく笑っていた気がする。


今なら、はっきりとあの感情を言葉にできる。


あれは"恋"だ。


俺は鷺坂結衣に恋をしていたんだ。


あの日から、ずっと、忍足謙也としてこの世界に生を受けても、この感情は俺の心の隅にいつもあった。



でも……


「"雫色"は僕だ」


俺は、どうすればいい?


「不二が、雫色……」


この想いを、俺は、どうすればいい?


「キミは、"木陰"だね」


行き場のない、この想いを、俺は……どうすればいい?


「僕、キミにもう一度会えたら、言いたいことがあったんだ」


"竹城颯太"が"忍足謙也"になって、14年とちょっと。
その間に、知らず知らず大きくなっていたこの感情を、俺は――



「――"鷺坂結衣は、颯太が好きだった"」



「――え、」



今だから言えるんだけどね、と不二は悲しそうに笑った。
でもその表情は、どこかスッキリした様子で……


ああ、そうか――


「……"竹城颯太も、結衣が好きだった"」


言葉にした瞬間、何かが弾けて世界が明るく見え始めた。


"竹城颯太が"好きだったのは"鷺坂結衣"。
俺が不二周助をそういう意味で好きなんじゃない。


不二は一瞬驚いた表情を見せたが、また笑う。


「なんだ、両想いじゃないか」
「幸せ者だな」


今度は二人して笑った。




俺は、自分の胸に手を当てた。









……なぁ、颯太。


お前が好きだった"鷺坂結衣"はもういないけど、


お前の想いは、ちゃんと、届けたからな



俺は今、幸せだぞ



















俺は










"忍足謙也"だ

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