4 先入観はあまり信じるな
「桃城!海堂!越前!菊丸!おい、どうしたんだよ!おい!」
悲痛な俺の叫びは届かない。
手塚と大石は手を出す事が出来ず、こちらを少し離れたところで見ている。
みんなやられた、桃城も海堂も越前も菊丸も……。
俺は…、無力だ……!!やられて行くあいつらを、ただただ黙って見ていることしかできなかった。ああなる前に、止められたかもしれないのに。
唯一残った周助も、何故か俺の逃げ道をふさぐように後ろからじりじりと距離を詰めてくる。やめろ、やめてくれ!
「斗真、いい加減諦めたらどうかな。君は、こうなる運命なんだよ」
「しゅ、周助…」
一メートルほど後ろで立ち止まった周助が、笑顔で言った。
それから、俺の脇を通り過ぎて目の前に立っていた乾から"例のモノ"を受け取ると、"例のモノ"を持った手を腕ごと俺の方に突き出した。
「ほら、早くしなよ」
「お、俺は……絶対、絶対に
乾汁なんか飲まないからな!!」
目の前に差し出されたエグイ緑色をした"例のモノ"――乾汁を全力で拒否した。
練習で失敗した俺は飲まなくちゃいけないんだろうが、アニメや漫画で見ていた時とは違う。
「ぜったいに、飲んだら何かよくない事があるだろコレ」
「それは問題ない。材料はすべて計算したうえで配合しているからな」
「いや、そうじゃないくて…」
「僕的には、もっと鷹の爪とか入れたらいいと思うんだけど」
「もうやめろよお前」
俺達が今日やったメニューは原作で出てきた、コーンに同じ色のボールを当てると言うものだった。動体視力や、その場の判断力などが養われるトレーニングだ。
ちなみに言うと、俺は動体視力には自信があった方だから行けるんじゃないかと思っていた。
が、ボールを出す相手が悪かった。
「なんでお前なんだよ………周助」
てか、あいつさっきやってたけど、わざと失敗して笑顔で乾汁飲んでた。ホントにあれうまいって言いながら飲めるんだな。俺は…絶対に無理。
「誰かが必然的にやらないといけないんだ、別に僕でもいいでしょ。それとも、斗真は僕で何か不満でもあるの?へぇー、ふぅーん?」
「トクニナニモ」
俺の第六感が逃げろと命じた。
「行くよー」
「おー、」
逃げろと命じられても逃げられないわけで、気の抜けるような返事をして目の前に迫ってくるボールを瞬時に判断すると、赤色のコーンへと打ち返した。
「赤!」
打ち返したボールがしっかりと赤いコーンに当ったのを確認すると、次のを向い打つために腰を少し落として前を見据えた。
原作で読んだときは、周助と大石の会話を聞いて結構難しいものだと認識していたが、やってみると聞いてみるとじゃ全然違う。
案外いけるかもしれない。
「次行くよっ!」
「…青!」
「赤!」
「黄色!」
――
―
「あ゛、」
飛んで行ったボールは、俺が考えていた所から数センチ外れてコーンの脇をすれすれに飛んで行ってしまった。
なんてこった……。
ラスト三球というところで、とんだポカをしてしまった。
「桐生も最後まで行くと思ったんだけどな……ま、まぁ頑張ってくれ」
大石が後ろから肩に手を置いた。
まじか。
んでもって最初に戻る。
倒れてたやつらは、俺の前にやっていて乾汁の被害にあったりだとか、俺がやっている間に被害にあったりだとかでそのへんに転がっていたらしい。
に、しても…
「これ、飲まなきゃいけねえの?」
「そういうルールだ」
「…ペナルティーにしては重すぎるだろ」
「僕はうまいと思うけど」
「だからもう黙れよお前」
出てくるとややこしくなるんだよ。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「……飲む」
「え、本気っすか、やめておいた方がいいと思うけど」
「飲むのは嫌だけど、お前らだって飲んでんだろ?それに、ここで腹をくくらなきゃなんも進まないだろ」
今俺のセリフかっこいいとか言った奴出てこい。今なら特別にサインやるから。
周助からコップを受け取ると、一気にそれを仰いだ。
どろりとしたものが口に入り、のどを通って行く。
こ、これは…!
「う、」
「「「う?」」」
「うまいな、コレ」
「「「な、なんだってっぇぇぇぇえええ!!!???」」」
「だから言ったでしょ」
案外うまかった。結構いける。
とりあえず、おかわりもらえっかなコレ。
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