12 優しい人
『ちょ、痛い痛いっ、痛いってば』
私は今
ますめくんに手を掴まれて引きずられるように引っ張られてます。
手ちぎられそう何これ何でこんなに怒ってんの
『名前間違えたことは謝るから
夏男くん!』
「
棗だ。別に名前間違えられたことには怒ってねぇ」
『じゃあ何に怒ってんだよーあ、あれか! もしかして寝てる時にエロ本探ししたことを怒ってるのか!』
「
初耳なんだが。何やってんだよ初対面の男の部屋で」
『男のバイブルでしょあるんでしょ』
「
無ぇよ」
あつめくんは人気のない所までくると、やっと手を離し、私の方を向いた。
でもやっぱりその顔は怖くて。
「お前、何で危力系に入った」
…そういうことか。
『情報が早いなぁ…』
へらっと笑った私の肩を掴んだ彼は、もっと怖い顔で…
でもどこか、悲しい顔で…
それが、とても悲しかった。
「危力系がどういう所かわかってん
『わかってるよ』…は?」
『わかってる』
私はもう一度強く言った。
『私ね、実はコピーのアリスも持ってるんだ』
「…」
『あれ? 驚かないんだ』
「…お前、俺に治癒のアリス使っただろ」
…やっぱり起きてたんだ。
『…私はね、学園を守りにきたんだ』
「、は?」
私の頭の中で、お父さんとお母さんに言われた言葉が蘇る。
【近い将来…1ヶ月もしたら、学園が危ない】
【学園は最大の危機に見舞われることになる】
『今言えるのはこれだけ。時が来たら、きっと全てを明かすから。だから――』
「…わかった」
まだ納得のいかない顔をしているが、どうやら何を言っても無駄だということに気付いたようだ。
「無茶はするな。あと、任務関係で何かあったら言え」
『うん、ありがとう』
なんだかんだで優しい人だということがわかった。
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