ひだまり日記 | ナノ


  50 からっぽ[日吉side]


跡部さんは鳳を睨んだ。


「終わり、だと……?」
「俺たちは間違っていたんです。もう、仲間を傷つけるのは、終わりにしましょう?」


みんなが跡部さんを見る。
跡部さんはまた唇を噛み締めた。


「……俺は、間違っていない」
「跡部、」
「あのお方は、"俺"を見てくれた」
「跡部さん……?」


跡部さんは下を向き、皆とは決して目を合わせず、話し出す。


「どいつもこいつも"跡部"と聞くだけで、俺への態度を変える……。"跡部"と仲良くすりゃあ、都合が良いからな」


そういえば……跡部さんは財閥の息子だったっけ。


「周りは俺に勝手に期待して、勝手に幻滅する。どんなに頑張っても、期待には応えられなかった。……そんな時、あのお方は、俺を……"俺自身"を見て下さった」


"跡部くん、君は素晴らしいアリスを持っているね"


「……初等部校長か」
「あのお方に、尽くすと……、俺は、決めた。いつだって、あのお方は正しかった。……正しいのは、あのお方だ」
「……跡部」


不意に、今まで黙っていた芥川先輩たちが跡部さんに近づいた。


「その頃の跡部は、"からっぽ"だったんだね」
「……何?」


跡部さんは顔を上げ、眉間に皺を寄せる。


「"からっぽ"だったから、差しのべられたその手に、縋ることしかできなかった」
「は……?」
「でも、跡部さん。今は俺たちがいます!!」


鳳が跡部さんに笑いかける。
それに続いて、四天の奴らも跡部さんに近づく。


「仲間がおるで」
「ここでは財閥も何もあらへん!」
「跡部は跡部や!」


跡部さんの瞳が揺らぐ。


「……俺は」

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