33 記憶[主人公side]
確かに、さっきの不二先輩の風は、冷たくて強暴だった。
でも――
『さっきの風は……不二先輩の風じゃない。不二先輩の"心の闇"の風です』
「心の……闇?」
『冷たくて強暴でも……"哀しい""辛い"と、"風"が訴えているようでした』
アリスは嘘をつかない。
あれは……"哀しい""辛い"というのは、きっと、不二先輩の本心。
「勘違いだよ。僕は学園を憎んでいるんだよ?」
『学園は憎んでいても、私たちは憎んでいませんよね』
「……」
不二先輩は黙り込む。
「……僕は学園に拉致されたんだ。学園を滅亡させる為なら、僕は仲間をも裏切るさ」
拉致、か……。
私は妙な違和感を覚えていた。
いくら学園でも、拉致まではしないはず。
『リョーマ』
「なに?」
『本当に不二先輩は学園に拉致されたんだと思う?』
リョーマは呆れた顔で溜め息をついた。
「違うね。いくら学園でもそこまではしない」
「、でも、実際に僕は、」
「多分、その記憶は埋め込まれたもの、っすよ」
――やっぱり。
「埋め込まれたもの……?」
「……信じられない、って顔してますね、先輩」
リョーマが一歩、一歩と不二先輩に近づく。
「……なら、アンタがどうやって学園に来たか、思い出させてあげますよ」
――リョーマの記憶操作の手が、不二先輩の頭を捕らえた。
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