幸せのアンテナ 4「それはナルトの言い方にも問題アリよ。足見せろって……変態みたいじゃない」 「……は?」 何で変態なんて言われなくちゃなんねーんだ?と、抗議の意を籠めていのを見やると、いのはそんなものじゃびくともせずに説明しはじめる。 「女の子だったら、誰でも思わず身を引いちゃうわよ。アンタ、女の子の生足、普通に見れると思ってんじゃないでしょうね」 言われている意味が判らず、オレがキョトンとしていると、いのが人差し指をピッと立ててオレの目の前に突き出した。 「仮にも男でしょ?異性にいきなりどっか見せろって言われたら、ビックリすると思わない?」 漸くいのの言っている意味がわかって、オレは合点がいった顔をした。 そっか、オレの言い方が悪かったんだな。 「あー、すまねェってばよ。そういう意味で言ったんじゃねーんだけど」 「う、うん、わかってるよ。た、ただ、ビックリしちゃっただけというか、反射的にというか」 「この前変な男に、胸見せろって言われたところだったもんね、ヒナタ」 「はぁっ!?」 オレは驚いてヒナタを見ると、彼女は何か悪戯が見つかった子供のように唇をきゅぅっと結んで首を竦めた。 「い、いのちゃん……」 「アレは正直私も驚いたわ」 「い、いのちゃんも、言われてたじゃない」 「ヒナタほど、あからさまな場所じゃないわよ。私は太もも」 「じゅ、十分だと思うんだけど……」 信じられない言葉に、オレは、いやオレたちは唖然。 そんなバカがいるのか? ていうか、何だ?その危険なヤツ。 「ど、どうしたんだってばよ、その時……てか、オレ呼べ!すぐ駆けつけるからっ!あぶねーってばよっ!?」 「え、えっと……そ、その……言ったの……さ、サイくんだし……」 サイの名前が出て脱力したが、ヤツならありえるし言いそうだ……と思った瞬間、ムカムカと言いようのない怒りが湧き上がってくる。 「あんのバカヤロウ!一発ぶん殴る!!!」 怒り出したオレを目の当たりにして、ヒナタが何とか落ち着かせようと、慌てて声を上げた。 フォローになっているのかいないのかはこの際別にして、人が良すぎるってばよ、ヒナタ。 「わ、悪気はないのっ、な、なんか……絵を描くのに……」 「いいや、んなデリカシーのないこと、他にも言ってたらマズイってばよ!サスケ、サクラちゃん!」 「7班のイメージダウンよね……」 「オレも同罪扱いかよ……」 何とも微妙な空気を伴い、サクラちゃんとサスケが溜息をついた。 ったく、アイツのズレてる部分はしょうがないとは思っているが、でもそりゃねーだろ。 「で、でも、一番綺麗な形とか……言われたら、少し……嬉しかったかな」 「そうね、私もそれほど怒ってないのは、ソレがあったからかもね。張りがあって綺麗だって」 頬を少し赤らめて言うヒナタと、自慢げに笑ういの。 いや……うん、確かに……それはそうだけどさ……。 思わずジッと胸を見てしまい、ヒナタが真っ赤になって両腕で胸を覆う。 それが余計に胸を強調していると気づいてないのか……目の毒だってばよ。 バッと視線を他所へやれば、ニヤニヤしているシカマルと視線がぶつかった。 「ま、いいんじゃねーか?ちゃんと褒めることはしてるみてェだしな」 「……そういうもんかよ」 「そういうもんらしいぜ」 シカマルがククッと笑い、その横でおにぎりを頬張っていたチョウジがジーっといのを見て笑う。 「うん、確かにいのはいつも綺麗だし、それにヒナタも最近すごく綺麗になったよね」 「当たり前でしょー」 「そ……そう……かな……」 自信満々ないのと、真っ赤になって俯くヒナタ。 私は〜?と抗議しているサクラちゃんは置いておいて、確かにそうかもしれない。 最近のヒナタは凄く綺麗だと思う。 何よりも…… 「ああ、そうか……」 「え?」 「笑顔だってばよ」 「……え、笑顔?」 「ああ、最近すっげーいい笑顔見せるよな。なんつーか、幸せそうっていうか、見ていて幸せになるっていうか、甘いっていうか、ほら……うーん……とろけそう?」 オレがうまく当てはまりそうな言葉を捜していると、何故か周りがシーンとしてしまい、首を傾げる。 それぞれ何か視線を泳がせ、アイコンタクトを取っているようなそんな雰囲気。 「どうしたんだってばよ」 「い、いや……何でもねぇ」 「ウスラトンカチ……」 何故か視線を合わせてくれないキバだったりサスケだったり、微妙な顔をするサクラちゃんだったり、何か意味ありげにニヤニヤするシカマルだったりいのだったり、ニコニコしているチョウジだったり、まぁ、いつもどおりなのはシノくらいだ……なんだよ、その反応。 ワケがわからず口を尖らせると、ヒナタの控えめな声が聞こえた。 「と、とりあえず……ご飯……食べよう?あ、あの……ごめんね、心配かけて」 「ああ、いいってばよ」 頬は赤いがふんわりと笑うヒナタ。 ほら、とろけそうに甘くって、見ていて幸せになる笑顔じゃねーか。 治療を終えたサクラちゃんも、サスケの隣に座り食事を再開。 オレとヒナタも同じように、ぱくりと今度はおにぎりにかぶりついた。 「……無自覚って怖ぇな」 「言うなって、わかってねーし、めんどくせぇ」 そんなキバとシカマルの声が小さく聴こえたが、何の話か判らずスルー。 ヒナタが差し出してくれるお茶を飲みながら、チラリと足をみれば色が少し赤くなっているだけで、もう殆どわからない。 良かったと正直思うし、何より先ほどの苦悶の声は聴いていて胸に痛い。 腕の中に感じた思った以上に華奢な体が痛みに震える感触は、あまり嬉しいものではなかった。 「でも湖にあんな危険なのいるんだったら、泳げないわねー」 「い、いのちゃん、本当に水着持ってきたの?」 「あら、サクラもちゃんと持ってきてるわよ?」 「え?ヒナタ持ってきてないの?」 「も、持ってきてないよ……ま、まだそんな……暑くないし……」 そうだよな、まだそんな暑くねーよな。 「えーっ!折角真っ白の水着買ったのに!?」 「勇気だしてビキニにしたのに!?」 「二人が勝手にカゴに入れたんじゃないっ」 珍しく必死に抗議するヒナタを見ながら、ふーんと思う。 確かに似合うかもしれない。 「あ、ちなみに、アレに上着なんて着ちゃダメよ?折角なんだから、大胆にっ!」 「そうそう!今年は泳ぐわよぉっ!」 何だかヒートアップしているサクラちゃんといのに、おされっぱなしのヒナタ。 「お前、そう言って去年も水着買ってなかったか?」 シカマルの呆れた声に、いのは猛然と抗議を開始する。 「だって泳ぎに行くところの話しじゃなかったじゃないっ!しかも水着には流行があるのよ!」 「めんどくせぇ」 「今年はビキニが流行りなのっ、去年はセパレートだったんだけどね」 「いのは今回花柄って、珍しいじゃない」 「あら、サクラ。あんたはワンパターンのピンクでしょ」 「ムッ、いいでしょ別に」 「時には冒険しないと!ヒナタのようにっ!」 「だ、だから、それは二人がっ」 きっと知らないうちにカゴに入れられ、会計しているカゴから水着が出てきてビックリしてオロオロしている間に店員が商品詰めて渡したんだろうな。 何となくその光景が浮かんで、苦笑を浮かべた。 真っ赤になりながらも、最近はきちんと自分の思っていることを言葉にするようになった。 劇的な進歩だと思うし、いい変化だと思う。 「ま、今日はダメだったけど、次回よね!」 「うんうん、今度は海よねっ!」 エキサイトしているお二人さんの話を聞きながら、海か……と思う。 波の国にも行って見てェけど、一度行かなきゃ行けない場所があった。 1人で行くには少し勇気がいったので、みんなと一緒ならば何とかなるかもしれない。 「あー……んじゃさぁ、今度オレってば、渦の国があった場所へ行くんだけど、温暖な気候だからみんなで行かねェか」 「え?」 案の定みんなが食いついてきたので、何気なく話をしてやる。 「綱手のばあちゃんがさ、一度行って来いってさ。オレの母ちゃんの生まれた国……渦の国はうずまき一族の土地だったからな」 「そうか、一度目にするのはいいかも知れないな」 「ああ」 サスケはもしかしたら一度行った事があるのかもしれない。 一度遠い目をして、どこかを見ていた。 大蛇丸のアジトは広範囲に点在していたから、どこを通っていても不思議じゃねェだろう。 「綱手のばあちゃんに話してみるってばよ」 「おう、頼んだぜナルト」 もう既に行く気でいるキバだったり、面倒くさそうな顔をしながらもハイテンションのいのの話に相槌をうっているシカマルだったり、笑顔で聞いてるチョウジだったり……反応は様々。 「で、でも……いいのかな……み、みんなでって……」 「1人で行くにはちょっと……な」 「ナルトくん……」 「だからさ、その噂の水着、楽しみにしてるってばよ」 「ふぇ!?」 「ん?オレみんなの為に綱手のばあちゃんに交渉すんだろ?なーんかご褒美ないとな」 胡座をかいた膝の上で頬杖をつき、その顔をヒナタに向けニィッと意地の悪い笑み作って言ってやると、ヒナタは慌ててオロオロして視線を彷徨わせるが、どうにもならず真っ赤な顔をした。 からかい甲斐あるよな、ヒナタって。 「こんだけ話題に出てたら、気になるじゃん」 「で、でもっ、わ、私、き、着るつもりはっ」 「勿体ねーだろ?それに、ヒナタ肌白いから、白って似合いそうだってばよ」 そう言うと、もうなにも言えなくなったのか、口をパクパクさせながら言葉を捜していたヒナタは観念したようにカクンッと肩の力を落とし呟く。 「き、期待されるほどの……もの……でも……」 「ダメ?」 「……あ、あう……わ、わかり……ましたぁ」 真っ赤な顔をして上目遣いにオレを見ながら、約束を了承したヒナタ。 悪戯が成功したような気分になり、オレはニヤリと笑う。 うん、すっげーやったーってカンジだってばよ! 「よっしゃ、んじゃー商談成立だってばよ。ばあちゃんから、休みもぎ取ってくるっ!」 「ふふ、おかしなナルトくん」 くすくす笑うヒナタに、オレも嬉しくなって笑う。 俄然やる気が出てきた、何が何でもみんなの休みもぎ取ってやるってばよ! (やる気が出てくるのは特別な君が見たいから) |