幸せのアンテナ 5




「ナルトあんた……ナチュラルにくど……もがっ」
「サクラ、馬に蹴られる」

 何か言いかけたサクラちゃんの口を、サスケが徐に大きな手で塞いで、溜息をつく。

「へ?馬?どこにいるんだってばよ」

 キョロキョロ辺りを見渡しても、そんなものは影も形も見当たらない。
 首を傾げれば、他の面々からも微妙な空気が漂ってくる。

「何だよ、今日みんななんか変だぜ?」
「いや、変なのは絶対おま……いや、いい、オレはもう気にしないようにする!シノ!あっちで蟲探しすんだろ、赤丸、行こうぜ!」
「ワンッ!」
「……賢明な判断だ。丁度食事も終えたしな」

 キバが赤丸と走り出し、シノはゆっくりとその後をついていく。

「さてと、軽く片付けないとね」
「ボクも手伝うよ」
「オレは、あの高い木の木陰で一眠りしてくるぜ」

 いのがテキパキごみをまとめはじめ、それを慣れた様子で手伝うチョウジ。
 シカマルは欠伸をしながら、木陰を目指し歩き出す。

「あ、サスケくん、あっちに薬草類があったんだけど、見てもらっていい?」
「ああ、案内してくれ」

 何気にヘビ博士でカブトの影響なのか薬草類に詳しくなっていたサスケと、医療忍術の鍛錬を怠らないサクラちゃんは、なんだかんだいいながら二人きりになるためなのか、森の奥のほうへ入っていく。
 そんな仲睦まじい姿に、やはり自然と笑みがこぼれた。
 サスケとサクラちゃんが幸せそうにしていると、オレもやっぱり嬉しい。
 おいていかれたという気持ちにならないのは、きっとオレが成長したから……かな?
 ずっと仲良く、手を取り合って歩いていって欲しいとひそかに願う。

「あ、私も手伝うよ、いのちゃん」
「ありがとう、こっちお願いね」
「はい」

 手際よい二人に細かい片付けは任せて、オレとチョウジは力仕事。 かさばる荷物をまとめ、敷物からどけると、固定してあった敷物を一度広げ草など払い、きちんと折りたたんでいった。
 ゴミをまとめたいのと、重箱などをコンパクトにまとめたヒナタもそれぞれ荷物に詰めて、いつでも帰れるようにしてしまったようだ。
 シカマルじゃないけど、やっぱり眠い。
 徹夜明けの任務だったからな……オレとヤマト隊長とサイは。

「ナルトくん、やっぱり寝る?」
「んー……少し……な。ヒナタは足大丈夫か?」
「うん、もう殆ど痺れはないけど、でも少し動かない方が良いみたい」
「そっか……んじゃ、その辺で空見上げてるか」
「うん」

 いのとチョウジもシカマルのところへ歩いて行ってしまったし、オレたちは見晴らしのいい場所へ移動してそこで腰を下した。
 風が気持ちいいし、傍に座っているヒナタの香りが何だかくすぐったい。
 ゴロリと寝転がり空を見上げる。
 真っ青な空に、白い雲が色々な形をして通り過ぎていく。
 そんな平和そのものの時間。

「ヒナタは横になんねーのか?」
「ん……まだいいかな」
「そっか」

 腕を頭の後ろで組んで、欠伸を噛み殺して体を休める。
 何だか寝ちまうのも勿体無い気がして、下からジッとヒナタの顔を見上げた。
 空を見るヒナタの目は、とてもキラキラしていて、さっきの石よりよっぽど綺麗だ。
 こうして、青い空を見上げ、自然の音に耳を傾け、誰かが傍にいる……それって幸せだな。

「こうやって空見上げて、鳥のさえずりや風の音が耳に優しく響いて、誰かのぬくもりを感じるほど傍にいるって……なんだか幸せだね」

 あ……オレと同じこと……思った?


 とくり


 また心臓が鳴る。
 柔らかく微笑むヒナタ。
 同じ幸せを感じてくれる存在。

「それがオレでも?」
「ふふ、ナルトくんだから、余計に幸せ」

 それは……どういう意味で?
 ふっと首をもたげた疑問を口にする前に、ざぁっと風が吹いた。
 髪を片手で押さえ、眩しそうに前を見るその瞳に、何か言いようのない何かを感じた。

「ね、ナルトくん、ひとつお願いがあるの」
「ん?珍しいな、なんだってばよ」
「んと……膝枕……してみたい……昔ね、母上が父上にしてあげていたの。その時、まだ……私は幸せだったの……」

 何を指し示している事なのか理解した。
 まだ、必要ないと言われなかった、優しい記憶の時。 ヒナタの心を時々苛む、悲しいほど愛しい記憶。
 ヒナタの顔が哀しい程綺麗で、そしてその瞳が哀しみに揺れるのが辛かった。

「んじゃ、頼むってばよっ」

 元気に言って、上半身を起こす。
 その記憶を塗り替えたい、ただその一心で。
 膝枕で思い出すのが、その切ないほど悲しく愛しい記憶ではなく、オレになればいい。
 足を崩した柔らかそうなふとももの上に頭を乗せて、寝心地のいい場所を探すと、くすぐったそうにヒナタが身を竦める。

「へぇ……気持ちいいもんだな……オレ、はじめてしてもらったってばよ」
「そ、そう?」
「ああ……なんか、すっげー安心する」

 心があたたかくなり、上から見下ろしてくる柔らかくて優しい笑顔のヒナタに、いっぱいの幸せを感じた。

「……すっげー……幸せ」
「わ、私も……幸せ」

 眠るのが勿体無いのに、なのに心地よさでどんどん瞼が落ちていく。
 柔らかなヒナタの声、頭の後ろには柔らかな感触。 ヒナタって、全部柔らかい……しかも甘くてあたたかくて……優しい。
 ふわりと頭を撫でる感触に、言いようのない安堵感と気持ちよさを覚えた。
 母ちゃんがいたらこんなカンジか?
 でも、きっとこんな甘い気分とは違うのだろう。
 甘い……とろけそうに甘い……柔らかくて、凄く幸せで、凄く胸がいっぱいになる。
 優しい手つきと、時折聞こえる柔らかな声の旋律。
 そう、ひなたのまどろみのような……名前のままの安らぎをくれる彼女。

「ありがとう……な。ヒナタ……」
「私こそありがとう、ナルトくん。私のために、我が儘きいてくれて……」

 そんな我が儘ならいくらでも言って欲しい。
 お前は我慢しすぎなんだよ、オレはもっとお前の我が儘きいてやりてェ。
 もっと頼れ。
 もっと……

「もっと……オレを……頼れよ、ヒナタ……」

 睡魔に負けそうになりながらも、必死に伝えたいことを言葉にする。
 もう意識は殆ど飛び始めているから、言えているかどうかも自信はないが……。

「幸せだな……オレ、今が一番幸せ……だ」
「ふふ、膝枕でそう言ってもらえるなら、いくらでも」

 嬉しそうに笑うヒナタの声は、耳に心地よく、そしてオレもそんなヒナタの笑い声が聞けて嬉しい。
 オレはどうやら、彼女が笑ってくれていれば幸せらしい。

「ヒナ……タ、笑ってろ……そしたら、オレ……すっげー幸せ……」
「え?な、ナルト……くん?」

 戸惑ったようなヒナタの声が聞こえたが、オレはどんどん意識が薄れていく。


「ヒナタ」


 たった三つのこの音が幸せを運ぶ。 名前を呼ぶだけで、こんなにあたたかくなるなんて知らなかった。
 誰かが傍にいてくれる幸せ、昔のオレにはわからなかった。
 なぁ、ガキの頃のオレ、オレは今すっげー幸せだぜ。
 孤独に膝を抱えて泣いていたオレが、どこかで嬉しそうに笑った気がした。
 優しい風と、優しい太陽のぬくもりと、何より優しい彼女の存在に包まれて、オレは優しい夢の中へと誘われていく。

 きっと、今度目覚めたとき、彼女はとろけそうな甘く柔らかな微笑みを浮かべて


「おはよう」


 と言ってくれるだろうと信じて。



(まどろみから覚めれば 優しく微笑むキミがいた)











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