幸せのアンテナ 3




 こういう雰囲気は好きだな……オレ。
 先ほどから腹の中で催促しているクラマに促され、重箱の中の稲荷に手を伸ばし、ひとつ摘むとぱくりと口へ運んでみた。
 上品な甘みでふっくらと仕上がっている油揚げと、中の寿司はちゃんと具材が細かく刻まれていて手が込んでいた。

「美味い」
「よ、良かった……」
「これ、ヒナタが作ったのか?すっげーな、手が込んでるし……なんつーか、美味いの一言だよな」

 隣で微笑むヒナタに正直な感想を述べると、彼女は照れたように微笑み、自分も1つ摘んで口へ運ぶ。

「ん……良かった、味濃かったかと思ったけど」
「いや、これくらいが丁度いいと思うってばよ」
「そ、そうかな」

 何より腹の中でクラマが美味そうに目を細めている。
 以前は感じることが無かったが、時々こうやってオレの食事をリンクして楽しんでいるようだった。
 ラーメンばかりは嫌だと文句を垂れるときもあるし、最近食事には気を遣うようになったのだが、こういう手作りの料理が好みらしく結構大変である。

「クラマも喜んでるみてーだしな」

 もう1つ摘んでぱくつくと、何故かヒナタが嬉しそうに微笑む。
 やっぱり自分が作ったものを、誰かが美味しそうに食べるのは嬉しいのかもしれない。
 おにぎりに寿司にサンドウィッチと、多種多様の食事が並び、それをみんながそれぞれ美味そうに食べる。
 そういや、チョウジがバカ食いしなくなったから、異常な量は必要なくなったんだよな。
 それでも育ち盛りのオレたち男がこれだけ集まれば、チョウジのバカ食い抜いても結構な量だ。
 朝早くから頑張ったんだろうな、今度この礼に男連中で何か企画しないとかなぁとか思っていたら、隣のヒナタがあんまり食べていないのに気づく。

「ヒナタ、お前食ってないだろ」
「え?あ、そ、そうかな?」

 何故自分のことなのに疑問系なんだってばよ。
 どこかほわほわしている今日のヒナタは、夢見心地のような危うさを感じる。
 食べやすそうなサンドウィッチを二つとると、ヒナタに一つ渡す。

「ほら」
「う、うん、ありがとう」

 何か変だ。
 確かにいつも朗らかに笑っているヒナタだが、動くのを極力避けているような……。

「ヒナタ、お前さ……なーんか隠してるだろ」
「え?」
「ヒナタ?何隠してるってばよ?」
「え、えっと?」
「ひーなーたー?」

 オレの声のトーンが変わったのを聞いて、みんなの視線がこちらに集中するのを感じながらも、オレはヒナタから目を離さない。
 おどおどと視線を彷徨わせる彼女に、オレは直感的にさっきの触手が掴んだ足を思い出した。

「お前、足見せろっ!」
「え、ひゃっ、ま、まってっ!」
「いいから見せやがれっ!こらっ!隠すなってばよ!」

 慌てて身を引いて逃げようとするヒナタの肩を掴み、それでも逃げるので完全に上半身を抱きこんで動けなくして、身を乗り出し後ろに庇う足に触れた。

「ひぅっ」
「あー……やっぱ赤くなってるってばよ……お前なぁ……何かトゲ?みたいなのが刺さってるってばよ。サクラちゃん」
「ちょっと待って、診せて」

 サクラちゃんが動き、ヒナタの足をジッと見てあーと呟いた。

「湖に生息する白玉水母にやられたのね、足が麻痺してるみたいなんでしょ」
「ん……ちょっと、ふわふわしたカンジ」
「本当なら全身麻痺するんだけど……ヒナタは毒の耐性強いのね」
「う、うん……ほら、紅先生の料理とか」

 オレの腕の中でくぐもった声を上げるヒナタが、ビクリと反応する。
 サクラちゃんがトゲを抜くのに手間取っているようだった。

「サクラちゃん……」
「ちょ、ちょっと痛むかも。このトケ、ノコギリ状になっているし、多分抜く時に刺激になる物質が出ているんだと思う」
「ヒナタ、ほら、手握りこむな。オレの背に手を回せ、掴んでも引っかいてもいいから」

 手を誘導して背に回させると、オレは上からサクラちゃんの様子を見る。
 背に回ったヒナタの手がぎゅぅっと上着を掴むのがわかった。
 かなりの激痛が走るようだ、普段はどんな痛みをも歯を食いしばり我慢するヒナタが涙目になって必死に耐えている。

「切って出したほうが早いんじゃねぇか?」

 シカマルも横から様子を伺い、そう提案してくる。

「うん、そうかも……でも、あと少しなんだけど……」
「さ、サクラちゃん、我慢できるから……あと少しでしょ?」
「う、うん、だけど……かなり痛いでしょ?」
「大丈夫、私我慢できるよ」

 苦しい息をしながら言うヒナタをぎゅぅっと抱きしめ、サクラちゃんの目を見た。

「いくわよっ!しゃーーんなろーーーーっ!」「んぅっ!」

 そこまで力入れないとダメなのかよっ!と内心心で叫びながら、白い肌から抜ける鋭い棘のようなものが抜けていくのを見て、ホッとする。
 傷口からは血がしたたり落ちていく。
 すぐさまそこに手を当ててチャクラを注ぎ、傷を塞いでいくサクラちゃんの手際はさすがと言えた。
 みんなも心配になって、いつの間にか囲まれるようにしていたオレは、腕の中でゆっくりと力を抜くヒナタを感じ、そっと腕の力を抜いて覗き込む。

「大丈夫か?ヒナタ」
「う、うん……あ、ありがとう……ナルトくん、サクラちゃん」

 涙目のヒナタは可哀相だが、正直ホッとする。
 大事に至らなくて良かった……素直にそう思う。

「ったく、変なら変と言えよ。下手に隠すんじゃねーってば」
「う、うん……ご、ごめんね」

 涙目で謝るヒナタを見ながらオレはなんとも言えない胸のつっかえを感じ、眉根を寄せため息をつくのだった。


(自分の傷より君の傷のほうが痛く感じる)














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