惹かれあう魂 2





 そうこう考えているうちに火影執務室前まで来ていたようで、カカシ先生が扉を開き中へ入ると、何故だか人がごった返していて、その状況が掴めず、私たちは顔を見合わせて首を傾げる。

「えー、8班只今帰りました」

 カカシ先生の声に、部屋の中にいた人たちが一斉に振り返った。

 みんな見慣れた人物であり、何か騒動があった後なのか、これから起こるのか……判断に苦しむ状況。

 困惑顔の私たちをよそに、綱手様は笑いながら私たちを出迎えて労ってくれた。

「ご苦労だったね。まさか、他国の抜け忍狩りの協力要請が途中から入るとは思ってもみなかったよ。水影と鉄の国のミフネから礼状が届いていた。ヒナタ、お前が随分頑張ってくれたので、礼を言っておいてくれとのことだ」

 その礼状に何が書かれているのかは気になったけれども、綱手様がとても機嫌良く笑ってくれているので、多分とても良い事が書かれていたに違いない。

「あ、は、はい。わ、私はたいしたことは……」

「したしたっ!ったく、途中でぶっ倒れねぇかマジ心配だったぜ」

「そうだな。アレだけよく頑張れたと思う」

「うんうん、オレもそう思うよ。今回、死者を出さずに済んだのはヒナタのおかげだ。ミフネ殿も感心していたよ」

 こぞって手離しに褒められると、嬉しいとは思うのだけど、どこか気恥ずかしい。

 だって、私だけが頑張ったんじゃないもの。

「鉄の国のお侍さんたちや、ミフネさんの剣術、長十郎さんの刀さばきがあったからこそだもの……わ、私はお二人の間で敵の動きを見て、防御しただけですし……」

「ソレが凄いって気付いてないワケね」

 カカシ先生が苦笑して綱手様の方を見ると、綱手様もどこか嬉しそうにニヤニヤと笑っている。

 わ、私何かしたかな……?

「霧隠れの長十郎も鉄の国のミフネ殿も、その刀捌きは神速と歌われる。その二人の動きを把握し、敵の動きから捌きいれないと判断した者を空壁掌で応戦。そして、それでもマズイと判断した後の臨機応変な対応。ソレが戦況を随分左右したんだよ。でなければ、もっと時間がかかっていたし、死者も出ただろう。ソレがオレとミフネ殿の共通見解だ。よく頑張ったね、ヒナタ」

 よしよしと褒め称えるように頭を撫でてくれるカカシ先生に私は目を数回瞬かせてから、綱手様を見た。

 綱手様にもそういう報告が入っているようで、物凄く優しい笑みを私に返してくれて、何だかやっと……色々と認められはじめたんだと思うと、とても嬉しい。

「すっげーな、ヒナタっ!さすがだってばよっ!やっぱ、お前は強ぇっ!」

 ナルトくんが嬉しそうに私を見て声を上げて喜んでくれて、いのちゃんやシカマルくんやチョウジくん、サスケくんにサクラちゃんにサイくん、そして、リーさんやガイ先生やテンテンさんも笑顔で……な、なんでか、リーさんとガイ先生は泣いているんだけど……皆がそれぞれ喜びを露にしてくれた。

 嬉しい……

 ネジ兄さんのように天才というワケではないけれども、それでも努力は少しずつ実っていくのだといわれているみたいで、私は胸にある輝きをしっかり抱えて笑みを零した。

「ありがとう」

 そう言って笑ったのに、何故か周囲がシーンとしてしまって……

 わ、私……何か変なこと言ったかな?

「破壊力抜群だわ」

 いのちゃんの呟きが聞こえて、キョトンとしながらいのちゃんを見れば、彼女はくすくす楽しそうに笑いながら、ナルトくんの腕を肘で突付いた。

「見惚れてる場合じゃないんじゃない?」

「ばっ……な、なっ……」

 ナルトくんがどことなく焦ったような声を出して、私を見てからフイッと視線を逸らせてしまう。

 そんなナルトくんに、いのちゃんは苦笑を浮かべ、サクラちゃんが笑い出し、サスケくんがヤレヤレと溜息をついていて……

 報告書を提出しているカカシ先生は、それを眩しそうに見つめてから、うんうんと頷き、綱手様はその報告書に目を通す。

 いつもの風景で、いつもの仲間たち。

 このあたたかさを、そういえば鉄の国でも感じたな……と、フッと遠くに視線をやり思い出す。

 鉄の国のお侍さんたちから、『ミフネ様は、随分とそなたを気に入ったようだ。時間とヒマを見つけて、また遊びに来てくださると嬉しいでござる。何分歳故、お孫殿のような気分なのでござろう』と別れ際に口々に言われ、ミフネさんがその方々に『いらぬことを言うなっ!』と焦ったように怒鳴っていたのを思い出す。

 鎧を身に纏っているお侍さんたちと、ミフネさんのあたたかな触れ合い。

 厳しい環境でも負けずに己の信念を貫き通す生き方をしている方々の内側にある、とてもあたたかな気持ちが、本当に嬉しかった。

 私は一人一人の笑顔を思い出しながら懐から鎖を取り出し、ソレをジッと見つめる。

 鉄の国のミフネさんが、お礼にとくれた封印の呪を施した鎖……

 これがあったから、今回楽に抜け忍たちを捕縛できたとも言える。

 もっとしっかりお礼を言いたかった……

 わざわざ、私のチャクラに合わせて加工してくれているなんて、鉄の国を出た後に足止めを食らった吹雪から避難している洞窟で知ったことだけに、その件に関してお礼を言えずにいた。

 今度また……鉄の国へ行ってみよう。

 こちらのお酒かお茶を持っていったら、喜んでくださるかしら?

「お?ソレなんだってば?」

 私の傍に寄って来たナルトくんを見上げて、私は微笑んでその鎖を見せた。

「鉄の国のミフネさんがくださった封印の呪が施された鎖なの。コレで捕縛できるんだよ」

「へぇ……」

「どんな相手の術でも封じてしまうの」

「術だけかってばよ」

「ううん、動きも封じる事が出きるよ」

「へー」

 私は笑みを絶やさずナルトくんを見上げて、その鎖をナルトくんの両手にするりと巻いてしまう。

 私の手で巻いてしまえば、チャクラ反応から呪は発動して、今のナルトくんの動きは完全に封じられた状態となる。

「実演……しなくても良くねぇ?」

 戸惑ったナルトくんの声。

 眉尻を下げた彼の顔を見つめながら、私は笑って見せて、普段の私ならやらなさそうなことをナルトくんにしているという状況に、皆が首を傾げ、そしてキバくんが恐る恐る私を見てから、ナルトくんに言葉を投げかける。

「ナルト、お前ヒナタに何したんだよ。なーんか怒ってるぞ、コイツ」

「はあ!?オレ何かしたかってばよっ……え?何?ひ、ヒナタ??怒ってんの!?」

「怒っているのは間違いない。何故ならば、長い付き合いで一度だけ見たことがあるからだ」

「くぅ……ん」

 キバくんとシノくんと赤丸君の反応から、私が怒っているということに焦ったのか、ナルトくんは私を凝視して、思いっきり首を傾げながらも眉尻を下げる。

 うん、やっぱり長い付き合いだよね。

 私、怒っているのかもしれない。

 見上げるナルトくんの青い双眸と、下げられた眉尻。

 本当に困ってますという状況であることは理解できた。

「あー、な、何かしたなら謝るっ!だ、だから……この鎖はずしてくれると……嬉しいなーって……」

 無言でナルトくんを見ていると、彼はほとほと困ったような顔をしてから、私をじぃっと見つめて溜息をつく。

 本当に困ったような、弱ったような表情。

 さすがに私がやりすぎだと、誰かが声を出そうとしているのも理解できたのだけれども、この鎖は外せない。



 だって……私の一番大切なものを取り戻すため……なんだもの。



「何か怒らせるようなことしたか?」

「うん」

「……何かしたっけ?」

「私の一番大切なもの……隠しちゃった……かな?」

「うーん、なんだってばよ。思い当たらねぇんだけど……」

「心当たりはあるはずだけど、いえない……かな?」

「……本当にわかんねぇ」

 ほとほと困りました。

 そんな表情のナルトくんを見て、助け舟を出そうとした同期メンバーの動きが見えたけど、私がここで引き下がるワケにはいかない。

 だって……気付いちゃったから。

 執務室に入ってすぐに、わかっちゃったから……

「あの……返して欲しいかなって思うんです」

「何を?オレに返せるもんだったら何でも返すぜ?」

「うん、ありがとう」

 ふふっと笑ってから、私はナルトくんから視線を逸らさずに挑みかかるような色を宿した瞳を向けて、力強い言葉で言い放つ。

 アナタは気付いていないかもしれない。

 アナタはわかっていないかもしれない。

 でも、私は知っているし、私は気付いた……

 気付いてしまったから、ううん、部屋を入った瞬間から感じていたから、だから引けない。

 引きたくない。

 そんな思いをこめて、目の前の彼を強い視線で見つめた──







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