はじめてのクリスマス オマケ



 クリスマスの任務を昨夜終えたばかりのメンバーが集まる中、ヒナタを後ろから抱きしめながら、何故かナルトは警戒感露に、キバとシノを睨み付けていた。

 そんなナルトに対し、シノは想定内の行動だと溜息をつき、キバは納得いかねぇとばかりにナルトに対して唸り声を上げる。

 よせばいいのにと、赤丸が呆れたような鳴き声を上げたが気にならない様子で吼えた。

「何でお前にそんな目で睨まれなきゃなんねーんだよっ!」

「去年の任務の時もあの格好だったって聞いたってばよ……ったく、オレ見てねーのにさ……」

 ムーッと口を尖らせて文句を言うナルトに対し、キバは口元が引きつるのを感じながら、昨年もヒナタに頑張れよって言った自分を思い出し、その元凶である男がこんなことを言ってくるなんて想定外にも程がある上に、今までの苦労を返せと言いたくなり、更に声を荒げた。

「大体、去年のお前はヒナタにそんな気な……ぐあっ」

 目にも留まらぬ速さで移動したナルトは、キバの首に腕を回してグイっとばかりに締め上げる。

 容赦の一片もないその締め上げに、さすがのキバも言葉も出なければ、呼吸さえも出来ない状況へと追い込まれてしまった。

「キバー、言って良いことと悪いことがあるって、知らねェのか?んー?温厚なオレでも怒っちまうぜ?」

(誰が温厚なんだよっ!!)

「な……ナルトくん……」

 さすがに本気で首を締め上げているナルトの腕から抜け出すことは誰にも出来ないよね……と、止めに入ろうと声をかけたヒナタに対し、シノは冷静に判断して必要ないと首を振る。

「大丈夫だヒナタ。アレはジャレているだけだ、問題はない」

「くぅん」

 ナルトとキバのやりとりを聞いていた煌は不思議そうな顔をして母の腕から抜け出し飛んでいくと、父の目の前で可愛らしく小首を傾げてみせた。

「とーちゃ、きょねん、かーちゃ……すきくない?」

「ばっか言えっ!父ちゃんが母ちゃん嫌いなワケねーだろっ」

 とんでもないと全身で言い表す父に対し、煌は安堵したのか、にこーっと笑って、上機嫌に羽をぱたぱたさせて口を開く。

「んっ!とーちゃ、かーちゃ、あさから、いちゃらぶー、あさ、おふ……もがっ」

「ちょ、まっ!い、言うなっ!その辺りは言わなくていいっ!!」

「ひゃあああっ、き、きらっ、だ、だめだめだめっ」

 思わずキバから手を離し、煌の口をすぐさま塞いだナルトと、慌てて塞ぎにきたヒナタの様子に、皆が興味をそそられ、煌に何を言おうとしたのかと尋ねるが、両親が真っ赤になって首を振って『言っちゃダメ』と言うので、煌も黙り込むかどうしようかと思案する。

「煌っ!ソレ言ったら……母ちゃんマジ泣くぞ」

 ボソリと呟かれた言葉に、それは大変とばかりに煌はきゅっと口を紡ぎ首をぷるぷるさせ、もうこれは何があっても口を割らないだろうと一同は残念だと溜息をついた。

「とりあえず、朝からあの夫婦がイチャイチャしてただけだろ……」

 と、キバの最もな意見に、ヒナタは更に赤くなるが、ナルトはそんなヒナタを抱き寄せてニカッと笑ってとどめとばかりにいい放つ。

「羨ましかったら、お前もそういう相手見つけろってばよ」

「うるせーよっ!!くそぉっ!来年は見てろよっ!!」

「へへーん、ヒナタみてーないい女はそうそういねーってばよっ!」

「そんなもん、班員であるオレらのほうが知ってるわっ!!」

「……やっぱ、キバはぶちのめしておくべきだよな」

「はあっ!?」

 抱きしめるヒナタを離し、キバのところへと移動しようとしたナルトに腕を回し、ヒナタは鋭い声を上げる。

「だ、だめですっ」

 どうして?という視線を受けて、ヒナタはこのまま何も言わなければ、きっとキバが酷い目に合うだろうというのもわかっていたし、ここでキバを庇えば、ナルトが完全に拗ねてしまうのも理解できた。

「あ……あの……」

 みんなの視線が自分に向いているのを理解しながら、背に腹は変えられないとばかりに、ヒナタは震える声で何とか言葉をつむぎ出す。

「は……離れちゃ……い、嫌……です」

「…………」

 さすがに、見え透いていてダメかな……とか思っていたヒナタは、次の瞬間、そんな心配はいらなかったと安堵する。

「くはっ……もー、何だってばよ、この可愛いヒナタはっ!!どんだけ惚れさせりゃ気が済むんだってっ!!」

 がばりと抱きつき頬ずりしてくる愛しい人に、少しばかり罪悪感を覚えながらも、ヒナタはやっぱり……こっちのほうが嬉しいかもしれないと頬を緩めた。

 嫉妬してキバを威嚇しているより、こうして抱きしめてくれているほうが嬉しい。

 寧ろ、キバばかり相手にしているナルトに対し、ちょっと寂しく感じていたのかもしれないとヒナタはこっそりナルトに擦り寄る。

「火影執務室でイチャイチャとまぁ……お前らくらいだよ。ったく……」

「ばーちゃ、とーちゃ、かーちゃ、いちゃらぶー、きら、しあわせーっ」

 執務室の机の上に降り立ち、嬉しいことを報告してくれる可愛らしい孫……ひ孫……まあ、そんなものはどうでもいいが、可愛らしいこの子は、木ノ葉へのサンタからのクリスマスプレゼントに違いないと、綱手はふふっと笑みを深める。

「よーし、今日はおおいに騒ぐよ!皆、持ち寄りで19時にうずまき家に集合だっ!」

「ちょ、ちょっと待てってばよ!綱手のばあちゃんっ!!」

「ヒナタとイチャイチャ昨日したんだろ?どーせ……」

「いや、足んねェしっ!……い、いや、そーじゃなくってっ!!」

「え……た、足り……な……い……」

 ヒナタが『あれで?』という顔をしてナルトを見上げ固まっているのと、マズイこと言ったかもと口元を覆っていたナルトは、腕の中の呟きを聞いて不思議そうに首をかしげる。

「いや、足んねェだろ?」

「……そ、そう……?」

「あー、いや、そ、そっちじゃなくって」

「あ、え……あ……ご、ごめんなさいっ、あ、うん、あ、そうだよね」

「こ、ここではさすがに言わねェっつーか……」

 抱きしめあいながら真っ赤になり、しどろもどろに会話する二人。

 隠しているのに隠しきれていないような、何だか聞いてはならなかったような会話を聞きながら、どこか居た堪れないような感じで、一同は視線を彷徨わせた。

 寧ろ、ヒナタからそういう会話の片鱗を感じさせる言葉が聞けるとは思わなかったのが最大の原因であると言える。

「ま、今日は我慢しな。誕生日もすぐ控えていることだしな」

「あ、まー、そうだけど……」

「さーて、ご馳走や酒持って今日も騒ぐよ、皆っ!!」

 綱手の威勢のいい言葉に、おおっ!!と一同が同意し、ナルトは何気に『オレん家決定かよ……』と呟き、ヒナタは『準備しないと……』と、多分、カーペットやらテーブルやらの配置を考えているらしかった。

 夜皆が来るという喜びに打ち震えるよう毛をぽんっと逆立てた煌は、喜び机の上を転がり、まだパーティーははじまっていないはずなのに、大騒ぎである。

 やれやれ……と、ナルトは何を持っていくか相談している仲間たちを見つめ、盛り上がる執務室内に苦笑を浮かべた。

(ま……こんなに賑やかに出来るってのも……今まで無かったしな……)

 そんな、どこか過去の自分とは全く違う、現在の自分を思い浮かべながら、ナルトは腕の中ですりり……と擦り寄る愛しい人に視線を向ける。

「どうした?」

「……ん……や、やっぱり……寂しかったの……かも。キバくん……に、ちょっと……ヤキモチ……です」

 ヒナタの口元に耳を寄せて辛うじて聞き取れた言葉に、ナルトは目を丸くすると、口元を引きつらせて大きな声で怒鳴った。



「やっぱ、お前ら早く帰れっ!!」



 ヒナタとイチャイチャできねェと、言外に言われた気がして、一同は顔を見合わせるが、そんなもの知ったことかと、今晩のプランを練るのを再開する。

「さーて、煌。今晩は遅くまで騒ぐよっ!」

「んっ!ばーちゃっ!」

 机の上でころころ転がっていた煌に手を伸ばして、腹をわしわし撫で回せば、きゃーと喜び声を上げる煌。

 美味い酒でも持っていくか……と、父親という風格を漂わせ始めたナルトに、そろそろ覚えさせても良いだろうと、色々と頭の中でピックアップしていく。






 パーティーは、まだはじまったばかり──










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