はじめてのクリスマス 中編




 毎年恒例となりつつある、孤児院へのプレゼントの配布の任を受けたナルトとヒナタは、依頼の地域と袋の中に入っているプレゼントを確認し、ナルトは任務の衣装に着替えた恋人の姿を見つめた。

「なんつーか……ヒナタ、お前本当にその格好で行くのか?」

「う、うん……どうして?」

「服のラインが……色々と微妙というか……」

 ヒナタはくるりと自らの姿を確認して照れたように笑みを浮かべてナルトを見るが、彼の眉間の皺は余計に深くなる。

 俗に言うサンタの女性バージョンの姿をしているヒナタの露出した肩や胸元や太ももが気になって仕方が無いというのに、彼女は昨年も同じ格好をしたからと、妙に慣れてしまっていて、その姿を昨年見てねーよと、ナルトは内心、同じチームであったキバとシノを無性に殴りたい気持ちになってしまう。

 しかし、彼女が珍しくそういう格好をしていて、何より照れることなく動いているというのは、珍しい。

 目の保養……だけど、他の連中に見せるのはしゃくに触る。

「ヒナタ。とりあえず、寒そうだし上着を着てろってばよ。風邪引いちまうだろ?」

「あ、うん。そうだね」

 至極当然のことを言われたと納得したヒナタは、渡してもらったナルトの上着を着てご満悦の様子であった。

 ふわんと喜び頬を染めている姿は、とても可愛らしい。

 何よりも自分の上着でその衣装がほとんど隠れてしまい、素肌に己の上着を直接着ているような錯覚を受け、一瞬たじろいだ。

(うおっ……こ、コレはコレで、オレへの精神ダメージハンパねーぞっ!?)

 思わずジーッとヒナタの姿を見つめてしまったナルトに対し、ヒナタは何かあったのかしら?と首を傾げて不思議そうに眺めて見れば、急に腕を引っ張られ腕の中に閉じ込められてしまい、息を詰めて慌てて彼を見上げると、ナルトの瞳の奥に何か熱いものを感じることが出来て、詰まった息はそのままに胸が急に高鳴り出す。

「な……ナルトく……ん……」

「ヒナタ……可愛い……」

 確認作業を家でしていてよかったと、ナルトは腕の中の彼女を抱きしめ、唇を求めて、まずは軽く重ね合わせたあと、今度はゆっくりと角度を変えて重ね、舌で愛撫した唇がうっすら開いたのを確認してから舌を差し入れて、甘い口内を味わうように蹂躙する。

 柔らかい口内と舌。

 耳に届く水音が余計に煽ってくれて、ナルトは着ろと渡し着せたばかりの上着のジッパーを、慣れたように下ろした。

「あ……だ、だめ……着ろって……言ったのナルトくんなのに……んんっ」

 首筋を這う熱く湿った感触からもたらされる、何ともいえない甘い刺激に、熱い吐息を漏らしながら、ヒナタは体を震わせる。

 その震えすら自分を煽るものでしかないとでも言うように、ナルトはサンタの衣装を少しずらしてちゅぅっと吸い付く。

 何をしているかわかっているだけに、ヒナタは声にならぬ声を上げて、体をふるふると震わせた。

「続きは帰ってきてからな……」

「う……うん……」

「たっぷり可愛がってやっから……楽しみにしてろよ?」

「な、ナルトくんって……えっち……だよね」

「ヒナタの体には負けるってばよ。……でもさ、そういうオレも好きだろ?」

 色気たっぷりに笑われたヒナタは、真っ赤になって視線を逸らしてしまったが、否定はしない。

 どんなナルトも好きだし、自分を愛してくれる彼も、勿論好きなのだ。

 恥ずかしくて言えないヒナタに対して、言葉も態度も行動も巧みに使い、迫ってくるナルトには、ある意味感謝しているところもある。

(わ、私から迫るなんて……で、出来ないものっ)

 胸元からニヤリと笑って見せてくれる彼が吸い付いた場所は、やはり赤くなっており、ちゃんと胸元を隠せというメッセージなんだろうと、ヒナタは少しばかり独占欲が強いナルトに苦笑してしまう。

 でも、苦笑はしているが、オレの強引ともいえる行動が決して嫌ではないんだよな……と、どこか幸せそうな甘い吐息をつくヒナタを見つめながら内心ほくそ笑むと、再び軽く口付けた。

「あんま……他の連中にその格好、見せんじゃねーぞ」

「う、うん……」

 ナルトが再びジッパーを上げてくれるのを感じながら、ヒナタは素直に頷き、完全に首もとまで上げられてしまい、ジッと目の前で静止しているナルトに首を傾げて見せれば、再びちゅぅっと唇を吸われて、びくんっと体を震わせる。

「リップって……やっぱ美味くねーのな」

「あ……ナルトくん、舐めとっちゃったの?」

「また塗ってやるよ」

 くすくすと笑い、ポケットから取り出したリップクリームを、ヒナタの唇にあてがい、やんわりと押し当てた。

 口付けで敏感になっている唇には、この刺激だけでもキツイな……と、ヒナタは知らず知らず悩ましげな吐息を漏らす。

 それを知っていて、ナルトはゆっくりゆっくり輪郭をなぞって、リップクリームをヒナタの唇に乗せていく。

 薄くピンク色に色づくそれを見ながら、にぃっと唇を歪めて笑う。

「美味しそうなのに……な。色づいて……食いたくなるのに……任務前ってのが残念だってばよ」

 甘い甘い声で言われて、ヒナタはもう勘弁して……と、涙目であるが、リップを塗り終わるまでは許してくれそうになく、ジッと黙ってされるがままになっていた。

「ヒナタ……帰ってきたら、また舐めとって……いい?」

「な……ナルトく……ん」

「いい?……言って、ヒナタ」

 ナルトがどんな返事を待っているかわかっているだけに、羞恥心に震えながら、ヒナタはひとつコクリと頷き、漸く解放された視線の安堵からほぅっと体の力を抜くと、耳元で不意打ちの男の色気全開の声で囁かれる。

「愛してるぜ、ヒナタ。帰ってきたら、体の芯からたっぷりあたためてやるよ」

 あたためるというレベルじゃないくせに……と、心の中で呟いたヒナタは、少しだけナルトを恨めしそうに見つめて唇を尖らせれば、左の瞼にちゅっと口付けられて、ついでにとばかりの爆弾を投下されてしまう。

「今喰っちまうぞ」

「だ、だめっ、い、今はダメですっ!か、帰ってきてからですっ!」

「チッ……」

「だって、ナルトくん、手加減してくれないから、任務できなくなっちゃうものっ」

 必死にぶんぶんっと首を振って否定している彼女の唇から零れた言葉は、ナルト以外が聞けば真っ赤になってあんぐり口を開いてしまうような内容ではあったのだが、幸いここには二人だけである。

「ヒナタが可愛いから悪いんだろ?」

「す、少し自重してくださいっ……に、任務前しか……い、言ってない……でしょ?」

「まーな」

 声が段々小さくなるヒナタに対して、ナルトもニヤニヤしながらもその言葉を肯定し、耳たぶにちゅっと口付けた。

「本当にナルトくんは……キス魔だよ……ね」

「ヒナタ限定だってばよ」

「ほ……ほかにしたら……ダメ……です」

「しねーよ。ヒナタだからしたくなる」

 そう言いながら、今度は頬にちゅっと音を立ててキスをしたナルトは、満足したのかニッといつもの様子で笑って、スイッと戸口の方を見つめる。

 何があるのだろう?と、疑問に思いみていれば、見慣れた白い小さな竜が飛び込んできた。

「とーちゃ、かーちゃ、これ、さいごー」

 どうやら、それを察知してナルトはヒナタとの甘い時間を切り上げたらしい。

 少し……残念。

 そうヒナタが感じていることを、彼女のほんの少しの吐息から感じ取ったナルトは内心ほくそ笑みつつ、元気一杯に口を開く息子に笑みを向けた。

「おう、煌も良く頑張ったってばよ」

 大きな手で煌の頭を撫でたナルトは、さて……と、時間を見てそろそろ任務を開始するかと、夜の里へと飛び出す。

 真っ赤な衣装を身につけた二人と、真っ白な小さな竜は、煌くイルミネーションの中を楽しみに待っているだろう子供たちの下へと走るのであった。







 結局、日付も変わった頃、漸く帰路につけた一同は、あたたかい物でも食べていくかと、遅くまで開いている店を目指し歩き出すが、ナルトはくいっとヒナタの腕を引いて、普段、仲間たちと大騒ぎしたくて仕方が無い人とは思えないくらい、静かに佇み笑みを浮かべる。

 その笑みに篭められているものを感じ取ったヒナタは、コクリと小さく頷く。

 煌のクリスマスの準備をしなくてはならない。

「すまねーけど、オレとヒナタはここまでだってばよ」

「ごめんなさい、煌もちゃんと寝かしつけたいし、準備もありますから」

 二人してそう言えば、ナルホドと先頭を歩いていたカカシが苦笑を浮かべ、大分親という姿が板に付いてきた二人は、丁寧に一同に礼をしてからゆっくりと歩き出す。

 任務の途中で眠りについた煌が入り込んでしまっている月紫石をチラリと見た一同は、口々にねぎらいの言葉をかけ、二人の後姿を見送った。

「あの二人も、随分と親としての責任を果たしていますね、カカシ先輩」

「まあね……何だか、先生とクシナさんを見ているようだよ」

 感慨深げに言うカカシをチラリと横目で見たサスケは、仲睦まじく手を繋ぎ何かを話しながら歩いている二人を見て、苦笑を浮かべる。

 その姿だけを見ていれば、単なる恋人同士にしか見えないというのに、きっと話している内容は煌のことに違いないと、遠目から見て取れる様子からでも感じることが出来た。

「でも、準備って何かしらね」

「煌のプレゼントを今から枕元……ていうか、ペンダントの傍に置くつもりだろ。ヒナタはマフラーを編んでいるって言っていたから、まだ出来ていないのかもしれねぇな」

「煌が起きている間は編めないものね」

 サスケの言葉にサクラは頷くと、サイがくすりと笑った。

「ヒナタさんが真っ赤なマフラーを編んでいるって、ナルトが拗ねてましたよ。オレにはくれねーって」

「あのバカ、そんなワケないじゃないのよね。ヒナタ、ちゃーんと、赤とオレンジの毛糸買ってたわよ」

 サクラがクスクス笑いながら言えば、そんなところだろうねと、一同は笑い出し、そのまま寒空の下にいることもないだろうと、目指していた店に向かって歩き出す。

「でも、あのバカ、自分だけ言ってるけど、ヒナタへのプレゼント準備してるんでしょうね」

「あー、ソレなら心配ないと思うよ」

 カカシがどこか楽しそうな声を出して言うので、サスケとサクラは顔を見合わせ首を傾げ、サイとヤマトは目を瞬かせてからカカシを見る。

 本当に楽しそうに笑うカカシを見ながら、次の言葉を待つ。

「ヒナタ、誕生日も近いでしょ?ナルトのヤツ、どっちにドレを渡すか悩んでいたけど……まー、アイツがあんなにロマンチストだとは知らなかったよ」

「え?ええ!?カカシ先生、教えて教えてっ!!」

 夜も遅い里の中、サクラの甲高い声と、逃げ惑うカカシの声が響き、置いてけぼりを食らったような3人は、苦笑を浮かべたまま、二人を追いかけるように少しだけ早足で歩き出した。

(まあ……ナルトのヤツがソレだけで済むとは思わねぇけどな……ヒナタ、頑張れよ……)

 ある意味、一番ナルトの男としての行動を読んでいるサスケは内心そう呟きながら、もう見えなくなった友人の相方にエールを送り、おそらく予測通りに、明日は睡眠不足でボンヤリしているだろう彼女とこの世の幸福すべてを手にしているような顔をするだろうナルトを思い浮かべて、苦笑を漏らすのであった。








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