何気ない仕草に感じるもの 2 こういう時のいのにいい思い出のないサスケは、なるべく被害を少なくしたいというよりは、これ以上厄介ごとを絡んで増やしてくれるなという心持でサイを止め、多分ターゲットになっているだろうヒナタにそれを伝える術は無いかと思案する。 こう言ってはなんだが、同期の中では割りと信用の置ける人間という認識をヒナタには持っていた。 ナルトは精神的にタフだから、いのの攻撃を物ともしないだろうと放置し、繊細そうなヒナタは玩具になること確定なので、なんとなく回避させてやりたくなる。 アカデミー時代はあまり印象に残ってはいないが、妙に頑固であり、弱いものを守ろうと必死になっていたなと思い出すことができ、里に帰って来てからのヒナタの気遣いはとても感謝してもしたりない程であり、何より差し入れのおかかのおにぎりは絶品であった。 サクラが最近それに近いおかかのおにぎりを作ってくれる。 その裏側で、ヒナタの尽力があることは伺えて、これも感謝してもし足りない事項のひとつであると言えた。 餌付けされた……もとい、何かにつけて世話になっているフシがある気がして、何となく頭が上がらないサスケではあるが、他の者たちがそれを知ることはない。 ナルト辺りは何気なく感じているかもしれないのだが…… (いのの様子だと、ヒナタを逃す気もないらしいな……何がそんなに気になるんだ?) 何気なくヒナタを見つめれば、その視線に気づいたのか、ヒナタは『どうしたの?』という視線を向けてきて、何があったワケではないのだがとも言えず、チラリといのを見る。 その視線の流れで何かを訴えていると気づき、ヒナタはこっそりといのを伺い見れば、ナルトと自分を興味深くチラリチラリと見ているのに気づき、目を瞬かせ、再度サスケを見た。 「あー、アレだ、飲み物次どうする」 「え、あ……えっと……う、ウーロン茶にしようかな……さ、サスケくんは何がいいかな」 「オレも同じものを頼む」 「ボクもお願いしていいですか」 と、サイも割ってはいるように言えば、二人が驚きサイを見て、サイが一瞬だけ視線をヒナタの横へやったので、サスケはその視線の先を確認し、『マジかよ』と内心呟く。 ナルトが何となく眉根を寄せて不機嫌そうな顔をしているのである。 (オイなんだよ、この修羅場みてーな状況は……) その中心が全てヒナタなのだと思えば、自分が地雷を踏んだ気がしてサスケは呻く。 (ナルトのこのヒナタへの干渉の度合いは何だ?前までこんなに気にする奴だったか?) イマイチ鈍いサスケはナルトの考えがわからず、この状況をどうすりゃいいんだと溜息をついた。 こうなってくれば、長期任務の疲れより、いまこの場に生じている異様な雰囲気のほうが疲れる気がしてならず、早く解放されたい心持で眉間に自然と浮かぶ皺を揉み解す。 (な……何だか……ふ、雰囲気が……) 意図せず中心となってしまったヒナタはオロオロとサスケとナルトといのをそれぞれ見ながら、困ったように頭を垂れた。 (ナルトくんの誤解なのに……) と、そこまで考えてヒナタは『え?』と心の中で呟き、サスケを睨むように見ているナルトを見上げる。 何故睨むのか、何故怒っているのか…… (えっと……ま、まさか……まさかだよね?だ、だって……) どんどん頬が赤くなっていくのを感じながら、ヒナタは呆然とナルトを見つめ、それからその先の言葉を思っていいのかどうか躊躇いながらも頭の中に浮かんだ言葉を胸中で呟く。 (それって……嫉妬……だよ?し、嫉妬……な、ナルトくんが!?な、何で!!?) それと同時にヒナタの視線に気づいたナルトがジッとヒナタを見下ろし、驚きの表情を見つめて、何故そんな表情をされているのだろうかと視線で問うてくるが、言葉を返せるワケもなく、真っ赤になって俯いてしまった。 (ん?な、なんだ?真っ赤になって……オレを見て何か真っ赤になることなんてあったっけ?オレってば、何かしたかってばよ) それとなく交わされている雑談の中、微妙な雰囲気をかもし出しているナルトとヒナタとサスケといのとサイ。 シカマルはそれとなく気づいているが、厄介ごととして関わらないことを決め、キバとチョウジはそれどころではなく、肉を胃の中へ詰め込んでいる。 注文したウーロン茶を貰い、ヒナタは自らを落ち着けるように一口飲めば、ホッと息をついて顔を上げた。 「しっかし、そっちのテーブルとこっちのテーブルの肉の量が違い過ぎるわね」 「チョウジとキバと赤丸がいればこんなもんだろ」 そう言いながらシカマルは苦笑して見せ、ナルトは確かにな……と、皿の肉の山盛りを見て苦笑し、何気なく焼けた肉をサンチュに巻いて食べる。 「お前が野菜取ってる姿が異様だな」 と、シカマルに言われて、ナルトは何気なくポツリと呟く。 「そーでもしねーと、心配するしさ」 「ん?」 「あ、い、いや、ほ、ほら、カカシ先生に、野菜とれって口をすっぱくして言われてるからだってばよ」 意図せずポロリと出た言葉に焦りフォローをいれれば、他の面々はナルホド……てか、今更かよというツッコミはあったが納得してくれたが、ヒナタはほんのりと頬を染めてしまい、それに気づいたナルトはカリカリと頬を掻いた。 (あぶねーあぶねー……ていうか、オレは言っても良いんだけど……ヒナタが大変だしな) 日向の家の気質から言って、外で何をしていようと何も言わないが、噂となるのはどうも遠慮したいらしい。 (しかし……ヒナタの料理に比べりゃ、どれも味気ねェよな) 一楽のラーメンは別として……と、ナルトは溜息をつき横でもくもくと口を動かし租借しつつもどことなく意識を飛ばし何かを考えているヒナタを見た。 ぼんやりと何かを考えながら肉をぱくりと食べ、手が完全に止まってしまっているヒナタの様子に、何を考え込んでいるのだろうかと不思議に思い尋ねるかどうするか迷っていれば、あつっと聞こえガックリと頭を垂れた。 「遅ェ……しかも、またやったのかよ。ほら、見せてみろってばよ」 「え、ら、らいりょーふっ」 「いや、全然大丈夫じゃねーから」 「れも」 「あーあ、まーた赤くなってる。ったく、お前はどうしていつもそう熱いものにすぐ手ェ出すんだってばよ。猫舌だろうが」 「うー」 ちょっと涙目のヒナタを見て苦笑すると、自分のお茶をぐいっと飲み干し、氷の入ったグラスを差し出す。 「ほら、氷でも舐めてろって」 「うん」 ありがとうと舌ったらずのような声で言ってからグラスの中の氷を1個口に入れて舐めているのを見つつ、いのが頬杖をついて一言。 「ふーん、『いつも』……ね」 「ん?」 ナルトとヒナタが同時にいのを見て首を傾げれば、いのはニヤリと笑って見せ、ニヤニヤと笑い出す。 「なーんか、アンタたち怪しいのよ。気づいてないかもしんないから言わないで見てたんだけど、同じタイミングでお茶飲んでたり、箸の運びやら茶碗の持ち方が同じだったり、それに、ナルト……アンタそんなに上品な持ち方できたっけ?」 「あ、え……」 思い切り引きつった顔をしたナルトにいのは笑みを深める。 「アンタたち、なーんか隠してるでしょ」 ビシッと指をさされ、ナルトは言葉に詰まり、ヒナタは氷を飲み込みそうになってむせた。 折角気をつけろと知らせたのに、役に立たなかったなと溜息混じりにヒナタの背を摩るサスケと、いのの観察眼に感心しているサイ。 何事かとキバとチョウジも視線を向ければ、ナルトはしどろもどろに言葉を返した。 「な、何かって、な、なんだよ」 「ありがとう、アンタのその態度だけで十分よ。さー!白状なさいっ!!」 ナルト……と、一同がそんな嘘のつけないナルトを呆れた視線で見つめれば、ナルトは困ったように天を仰ぐ。 「白状っていうか……いや、うーん、オレは言っても良いけど、迷惑かかるからな……」 各方面に……と、ナルトは心の中でそう呟き、漸く呼吸が整ったヒナタはサスケに礼を言ってから、ナルトの言葉に申し訳無さそうに眉尻を下げた。 「何よ、私たちにいえないことなの?」 「いや、言えなくはねーけど……もうちっと待ってくんねーかな」 「何でよ」 「あー、うーん、頼む」 ナルトにしては歯切れの悪い言葉に、いのは何かあるとはわかっているが、ここは黙ってやるべきなのか、それとも突っついて促すべきなのか迷い、シカマルをチラリと見る。 シカマルの指示は『黙っていてやれ』だったので、いのは大人しく下がった。 「しょーがないわね、言えるようになったら、必ず教えなさいよね」 「ああ、必ず言う」 ニッと笑って確約したナルトは、どこかサッパリしたような顔をして頷いた。 それだけでも何かあるのだとわかるし、その先が伺えて、一同は顔を見合わせて首を捻る。 「ま、ナルトがそういうなら、ここで黙っててやるのも男だ」 と、キバはヒナタが絡んでいることもわかっていながら、言葉を挟まず肉を食いちぎり、妹に彼氏が出来た心境で内心どこか寂しく感じながらもナルトの言葉を信じ任せることにし、赤丸に大きな骨付き肉の塊を差し出す。 「私は女よ!!」 と、いのの猛反論が来たのはそのすぐ後のことであった。 |