何気ない仕草に感じるもの 3 口止め料と称してナルトがその場の支払いを全てさせられたのは致し方がないことであったが、ナルトは仕方ないかと財布を開き料金の支払いを済ませて店を出る。 その場で解散となり、何気なく残ったナルトとヒナタは、互いに顔を見合わせ苦笑しつつも、ヒナタが半分出すというので、それを却下しながら、慣れたように商店街の方へと向かった。 「そんなに気にすんだったらさ、今日の夕飯、ヒナタに任せちまうかな」 「そ、そんなことでいいならっ」 「疲れてるのに夕食作るのが、そんなことじゃねーだろ?」 「で、でも……」 「外食減って、これでも食費かなり浮いてんだぜ?」 「だ、だって……」 「オレが、アイツらに言える確固たるもんが何もなかった。だからいえなかっただけだ……ヒナタのせいじゃねーよ」 「ナルトくん……」 苦笑しつつ言うナルトに、ヒナタはどう声をかけていいかわからず、ソッとその腕に手を添える。 添えられた手に、己の手を重ねながら、ナルトは微笑むと、少し屈み、ヒナタの耳元へと顔を寄せた。 「でも、コレだけはわかってる……オレはヒナタを知りたい」 「え?」 「もっともっと知りてェ……ヒナタは迷惑か?」 「う、ううんっ、わ、私も……知りたいって思うもの」 「そっか……同じか」 「う、うんっ」 へへっと笑うナルトに、微笑み返すヒナタ。 ナルトは胸に灯ったあたたかい灯火を再認識し、その火がどんどん大きくなってきていることも感じる。 それが大きな炎となる日が近いことも予感していた。 もう少し…… いま少しの時間が欲しい…… 「ナルトくんは、今日何が食べたい?」 と、明るく微笑み振り返るヒナタを眩しそうに見つめながら、ナルトは目を細めて口元に浮かぶ幸福の笑みを噛みしめる。 「そうだな、肉はさっき食ったし。魚か?」 「この時期は何でも美味しいよね、鰹も売ってるかな」 と、魚屋へ視線を走らせるヒナタの背中を見つめ、そういえば彼女の背中を見つめるのは珍しいかもしれないと思い、その背中を見つめたのはいつだったかと記憶を辿れば、あの告白を思い出す。 それと同時に置いて行かれそうな気分になり、慌てて腕を引っ張れば、不思議そうに振り返り見つめるヒナタにぎこちない笑みを見せ、何かを言おうとして失敗し、口ごもってしまった。 何を言いたかったのかわからず、何を焦ったのかもわからない。 だが、ヒナタは黙ってナルトと手を繋ぐと、横に並び歩き出す。 「一緒に選ぼうね」 「……ああ」 その言葉が何より嬉しく感じ、ナルトは隣を歩いてくれるヒナタを優しい目で見つめた。 「何がいいかな」 「あー、この前の揚げだし豆腐だっけ?アレ食いたいな」 「はい、じゃあ、鰹と揚げだし豆腐と……他は?」 「ヒナタはないのかよ」 「アサリのお味噌汁が食べたいかも」 「おー、ソレいいな。んじゃ、あとはほうれん草のおひたしがいいってばよ」 「うん、それで今晩はメニュー決まりだね」 「だな。それにはまず、鰹があるか確認しねーとな」 「そうだね」 微笑合い、そしてメニューが決まったところで買い物だと、二人並んでまずは魚屋へと歩き出す。 商店街ではもう珍しくない光景。 二人は魚屋の主人に声をかけられ、笑顔で会話と買い物を楽しむ。 そんな様子を離れたところから見守る影が6つ。 「……アレって、もう夫婦じゃない?」 「ていうか、隠すことでもねーんじゃねぇか?」 いのの言葉にキバも呆れたように言葉を述べれば、シカマルが溜息をつく。 「日向の家がうるせーんだろ。ま、どうしてあーなったのか、ナルト自身まだ言葉に出来る関係じゃねーんだろ」 「え?アレでですか?」 「ナルトはそういう奴だ」 サイが驚き、サスケはボソリと呟き深い溜息をつく。 「でも……ナルトもヒナタも幸せそうで、ボクは安心だよ」 と、チョウジが言えば、他のメンバーもそう思っていたのか、苦笑しながら頷き、ヤレヤレとばかりに二人とは反対側へと歩き出す。 「とっととくっつけばいいのにー」 「時間の問題だよな、赤丸」 「ウォンッ」 「気持ちを言葉にするのは難しいのでしょうか」 「アイツの場合、色々複雑だからな」 サイが不思議そうに背後の二人を振り返り見て言えば、サスケが苦笑して肩を竦め、それに同意するようにシカマルも頷いた。 「告りゃ早いが……アイツらの場合、色々とめんどくせーしがらみが多いんだ。それに、自分をそんなに大切にしてくれる相手がいるってのが信じられねーのかもしんねーな」 「でも……ヒナタの料理、美味しそうだね。ボクも食べたいな」 チョウジが呟けば、サスケも確かに……と思わず頷き、みんなの視線が集まったので恥ずかしげに視線を逸らす。 「い、いや……ヒナタの差し入れのおにぎりは美味かったな……と」 「ああ、そういやお前が幽閉されている間、アイツそんなことしてたっけ」 キバは記憶を辿り、何かしら任務の合間に届けていたのを思い出す。 「あの時は助かった。メシもそうだが……本の差し入れも無難なものだが飽きねぇもん選んでくれたし、本当に気遣いの出来る奴だよな」 当時を思い出し語るサスケに、そうかもしれないと何気に自分たちが入院中、差し入れを持ってきてくれる彼女を思い出しては苦笑した。 力を入れるわけではなく、それとなく感じる気遣いで、あとからじんわりと心に響く。 「そういうヒナタさんだから、ナルトは傍にいたいのかもしれないね」 「ああ、多分な」 サイの言葉にサスケは頷き空を見上げる。 そろそろ日が傾く時間帯。 早めの昼食を終えたのだから、時間はたっぷりある。 修業でもしないかと誘えば、珍しくシカマルが名乗りを上げ、チョウジもサイも面白そうだと同意し、いのもそれを見てみたいとそのまま一行は訓練場へ向かって歩き出す。 (早く観念しろウスラトンカチ、お前が相手にしてる女は、そんじょそこらの女と違い……強いぞ) 色々とな……と、胸中で呟きサスケは最近新技を開発しようと思っているんだというサイの相談に乗りながら、もうはるか後方へと消えていったナルトに向かい声をかけるのであった。 |