何気ない仕草に感じるもの 1




「よーし任務完了だっ!メシでも食いに行こうぜっ!!」

 そう言って先導を切ったのは、犬塚キバであった。

 今回の任務では食事が限られ、キバとチョウジには厳しかったのだろうと、ナルトとシカマルは苦笑を浮かべる。

 昔の悪がき組4人での任務は中々に楽しいものではあったのだが、敵の陽動もさることながら、戦力もこちらの持っていた情報以上のものであったがために長引く結果となってしまった。

(そういや……ヒナタはまだ任務なのかな。夕飯一緒に出来たらいいんだけど……)

 何気なく外を見ながらキバとチョウジに急かされ、焼肉Qへ向かえば、慣れた様子でキバとチョウジとシカマルは席に座り、ナルトも黙って座席につくと、お腹の空いた昼食時、肉を焼く匂いで食欲を刺激されてナルトもメニューを覗きこんだ。

「とりあえず、各自で支払いな」

「シカマル、昔ほどボク食べないよ?」

「あー、そうか、スマン。ついクセでな」

 チョウジもシカマルも二人して苦笑すると、とりあえず、健康で育ち盛りの男をターゲットにした、ご飯と味噌汁お代わり自由の焼肉Qオススメ満腹ランチを頼み、それとは別にメガ盛りなる肉の盛り合わせをオーダーすると、4人は他愛ない話をしながら先に運ばれてきたドリンクを飲む。

 冷たい緑茶を飲みながらナルトはホッと一息つき、ジーッとその緑茶を眺めた。

(……ヒナタが煎れるお茶のほうが、美味いのな)

 何気ないことでヒナタを思い出している自分に気づき、ナルトは思わず動きを止め、あれ?と己を改めて見返して以前言われたカカシとイルカの言葉を思い出す。



『そろそろ自覚したほうがいい』


『焦らなくていい。お前とヒナタのペースで理解していきなさい』


 その言葉を脳裏に思い浮かべながら、ナルトはその時から今日まで記憶を思い出していく。

 二人で食事をする回数も増えた、料理も勉強も見てもらっているし、何より共に過ごす時間が楽しくて嬉しくて……

 長期任務へつく際は、必ずヒナタに連絡を入れるようにしているのも、最近では慣れた一連の動作であり、ヒナタも何かしら連絡をいれてくれる。

 今回はヒナタも長期任務であると聞いていたので、そろそろ帰って来る頃ではないかと、密かに思っていた。

 そうこうしているうちに肉や野菜が運ばれてきて、いつものように焼いていて食べていると、何気なく視線を感じてナルトは顔を上げた。

「どうしたんだよ、キバ」

 目の前に座っていたキバが不思議そうにナルトを見ていたかと思うと、首を捻りながらも肉を噛み切る。

 それから租借しつつもう一度首を捻ったかと思うと、ああっと納得したように頷いた。

「お前、何か上品になったのか?」

「は?」

「なんつーかさ、ほら、茶碗の持ち方とか、箸の持ち方とか、以前と違うんじゃねーの」

 そう言われてみればと、シカマルとチョウジの視線も感じてナルトは、そうか?と言葉を濁すが、そう言われる覚えはある。

 原因はヒナタだ。

 目の前で食事をしてくれるようになったヒナタを見ながら、ナルトは綺麗だよなと思いつつ、その原因が姿勢であったり手の運びであったり、茶碗や箸の持ち方であったりと、そういう細かいものなのだと気づき、そういうものと無縁だったがために尋ねるのにはかなり勇気がいったのだが、聞いてみれば優しく教えてくれた。

 最初は持ち方もぎこちなかったが、今ではこの持ち方や運び方でないと落ち着かない。

 確かに、キバの茶碗の持ち方と変わらなかったような記憶があるなと、ナルトは苦笑する。

「何だ、お前たちも今任務上がりか」

 そんな声がして視線を向ければ、サスケとサイといのとヒナタという変則チームが長期任務を終えて帰って来たところなのだろう、少し疲れたような表情で精をつけようと焼肉Qへ来たところにナルトたちを見つけたというところだ。

「そっちも今帰りか」

「ああ」

 シカマルの言葉に簡潔な返事を返すと、サスケはナルトたちの奥の席に座るように移動する。

「ヒナタはここ、私はこっち、サスケくんとサイくんはそこね」

 と、いのがすかさず座席を指定してしまい、ヒナタにウィンクして見せた。

 それもそのはず、ナルトの隣になるように配慮してくれたらしいと知って、ヒナタは僅かに頬を赤らめると目の前のいのに笑みを返す。

「そっちは本当に肉ばっかりねー」

 いのが遠慮なくシカマルにそう言うと、シカマルは大きな溜息をつく。

「オレとナルト以外って言ってくれ」

「お前が野菜……」

 意外だと、サスケは目を丸くしてナルトを見れば、ナルトは僅かに視線を逸らせてしまう。

「そういう日もあるってばよ」

 まさかヒナタが心配するからとは言えず、隣からの視線を感じて内心むず痒くなりながら、皿に乗せてあるピーマンを頬張った。

「ヒナタ、何でも頼んでくれ。今回はすまなかったな」

 サスケのそんな言葉が耳に入り、ナルトはジロリとサスケを見れば、サスケは何だよと視線だけでナルトの視線に対抗し、二人の間に挟まれたヒナタは身を竦めてしまう。

「何やったんだよ」

「お前に関係ないだろ」

「ヒナタに迷惑かけたんだろ」

「……それこそ、お前に何の関係がある」

 キバが何かを言う前に先に反応したナルトにサスケは自分に対するいつもの行動だろうと思ったのだが、どうやらそうではないらしいと疑問に思い口にすれば、ナルトから返事は返らず何かいいあぐねるように眉根を寄せて黙り込んでしまった。

 らしくないその行動に、サスケは居心地の悪さを感じ、大きな溜息をつくと自分の失敗を公にはしたくはないような気持ちもあるが、心配しているのだと理解したがために言わざるを得ない。

「オレの代わりにヒナタが毒を受けちまったんだ。いのの治療ですぐに解毒は出来たが……庇ってもらったのに違いはねーだろ」

「だ、大丈夫だよ。アレは弱いものだったから……そ、そんなに気にしないで」

 ふわりと笑うヒナタの様子に、ナルトはどういった理由でその行動に出たかを理解し、なんともいえない気分になる。

 確かに合理的に考えればサスケが毒を受けるより、耐性があるヒナタのほうが被害は軽度で済むだろう。

 しかも、戦力的に考えるならば、サスケのほうが上。

 チームのことを考えてどちらか……と選択したとなれば、ヒナタの判断は間違ってはいない。

(だけど……それは、オレが一番納得できねーかもしんねェな)

「だから、詫びもこめておごってやるって引っ張ってきたんだ」

「ナルホド」

 キバたちが頷く中、ナルトの表情が冴えないのを見ながら、いのは不思議そうにナルトとヒナタの間に流れる空気を見て首をかしげた。

(この二人……もしかして、付き合ってんの?何か……凄く微妙な雰囲気が……)

 だけどそれは雰囲気だけで、確証がない。

 考え過ぎかしらと思ったいのの目に、何気なく同じタイミングで飲み物を飲んだ二人がうつり、その全く同じような動作に『え?』と再度首を傾げる。

(な、何?うちのお父さんとお母さんみたいな……同じ行動……するもん?別々の人間が?ヒナタがナルトの変化だったりすればわかるけど)

 注文を済ませ運ばれてきたメニューを食べながらも、いのはそれとなく二人の行動を見ていて、もしかしてはもしかしてではないかもしれないと思うようになっていた。

「ねぇ、ヒナタ」

「なあに、いのちゃん」

「んー、ヒナタって行儀作法うるさかったっけ?」

「日向の家は厳しいけど、他の人に言った覚えはないよ?」

「ふーん……」

 いのの質問の意図がわからず、ヒナタは目を瞬かせて焼けた肉をぱくりと食べようとして、隣からのびてきた手に遮られる。

「え?」

「また舌火傷すんぞ」

「あ……ありがとう」

 またやるところだった……と、恥ずかしそうに笑うヒナタに、ナルトはニヤリと笑いながら応え、その様子にいのは確信を持つ。

(この二人、絶対怪しい!デキてるに違いないわっ!!)

 握りこぶしを作ったいのを訝しげにサイは見つめると、サスケに視線で『関わるな』と諭され、目を瞬かせてから小さく頷いた。






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