4. 絡まる指と指(るなた様) ナルトとの子をヒナタはその身に宿し、あと一月半も経てばその産声をあげるだろう頃、ナルトは風の国での合同任務のため、家に帰らない日が既に二週間を経過していた。 先の大戦での死者、負傷者による兵力の後退を見込んだ風の国周辺の小国間が手を組み、大国を乗っ取ろうとの算段のもと、砂隠れの里に武力行使してきたのだ。 そこで、同盟国であり、その結び付きの確かな木ノ葉に依頼があり、争いを抑えるため、ナルトとシカマルが任務にあたっていた。 シカマルの戦況の采配と、ナルトの圧倒的とも言える戦力もあり、小国の武力はみるみる衰え、本日、我愛羅のもとに正式に降伏の申し出があった。 「うずまきナルト、奈良シカマル、何と礼を言ったら良いか……。お前達のおかげだ。ありがとう。」 「なーに言ってんだ、我愛羅。俺達、国は違っても仲間だろ?それにお前は親友だ。任務じゃなくても助けるのは当然だってばよ!」 「おい、ナルト。それは、建前上色々問題があるんだよ。」 「ん?何が問題なんだよ、シカマル。」 「あぁ、いや、いい……説明すんのもめんどくせぇ。ちょっと俺は外すぜ。」 「あぁ、シカマル。テマリなら今頃、里の出入口の警護を確認しているはずだ。」 「あぁ、ありがとよ。」 ヒラヒラ手を振り、執務室を後にするシカマル。 里の要でもある二人の婚約には多大な尽力が要ったが、テマリが木ノ葉に行くことで、その結び付きが確固たるものになると踏んだ砂の相談役達の考察も追い風となり、晴れてシカマルのもとに嫁ぐ事となったのだ。 「シカマルもテマリ姉ちゃんも良かったな。」 「あぁ、全くだ。ところで、ナルト。もうすぐ子が産まれると言うのは本当か?」 「おぅ、そうなんだってばよ!もう、今から楽しみなんだってば。」 「俺とお前は親友だ。俺は噂などではなく、お前の口から聞きたかった。」 「我愛羅、すまねぇ。何となく言うタイミングを逃しちまった。産まれたら家に遊びに来いよな!俺の子ども見に来いってばよ!」 「必ず行こう。約束だ。」 バンッ! 荒々しく風影執務室の扉が開く。 「失礼します、風影様!うずまき殿もいらっしゃいましたか!たった今木ノ葉より急ぎの連絡がありました!うずまき殿の奥方がお倒れになったようです!早急に木ノ葉に戻られますようにとの事です!」 サッと顔の血が引くナルト。 「我愛羅っ!!!」 「ああ、早く行け。シカマルには俺から説明しておく。」 「すまねぇっ!!!」 短く礼を言い、九尾チャクラモードとなったナルトは、その金色の体で、通常三日はかかるであろう道程を、僅か半日で木ノ葉に辿り着いた。 そのまま木ノ葉病院に向かい、ヒナタの病室を確認すると駆け込む。 「ヒナタッ!!!」 「な、ナルト君!!!」 「ヒナタ、大丈夫なのか!?どうしたんだってばよ!!!その点滴は何なんだってばよ!!!」 「うっさい、ナルト!!!」 ゴンッとナルトの頭を殴るサクラ。 サスケとの子を無事出産した彼女は、両親の協力もあり、病棟の勤務に復帰していた。 「ヒナタもお腹の子も無事よ。」 はぁーっと、安堵の息をはく。 「良かった……。」 「ただね、ヒナタはお腹の赤ちゃんが産まれても大丈夫な週数になるまで入院よ。症状は切迫早産。絶対安静ね。出来れば、37週までこのまま点滴を続けてもたせたいといったところよ。」 「そうなのかってば……。本当に大丈夫か?ヒナタ。」 「う、うん。心配かけてごめんね。任務だったのに大丈夫だったの?ナルト君。」 「あぁ、任務は正式に今日終わったとこだってばよ。ヒナタは何があったんだ?」 ヒナタが本日の出来事を話しだす。 午前中、日向宗家で会合があり、日向を出てうずまきヒナタとなった身ではあったが、分家のネジと共に、次期当主のハナビを支える相談役となることが決定していた。 日向も、未来を見据え、これ以上哀しみの連鎖を繰り返さないようにと、代わり始めていた。 朝から、何となくお腹の張りが強い気がしていたヒナタだったが、妊娠事態初めての事であり、その張りが普通か異常かの判断がつかなかった。 何より、宗家での大事な会合の日。よっぽどの事がない限り、欠席することは難しく、準備を済ませ家を出た。 宗家に辿り着き、門をくぐるまでは良かったが、突然、張りは強くなり、下腹部に違和感を感じた時、ヒナタの異変に気付いたのは、日向の屋敷に勤める者であった。 ヒナタの異変を当主のヒアシに伝えると、ヒアシは直ぐに病院の手配をし、ややあって現在に至るといった状況だ。 会合の後、病院を訪れていたヒアシ、ネジ、ハナビは、先程帰ったところであった。 「そっか。ヒナタ、不安だったろ?近くに居てやれなくてごめんな。」 ヒナタの手を握りしめ、呟くナルト。ヒナタは首を横に振る。 「ううん、ありがとう、ナルト君。風の国から急いで駆け付けてくれたんだね。こんなに心配してくれて、不謹慎だけど、嬉しいです。」 「んーなの当たり前だろ?俺ってば、ここに着くまで不安で押し潰されちまいそうだったってばよ。ヒナタ……無事で良かった……。」 「フフッ、私も、ナルト君の顔を見れて安心しました。無事帰って来てくれてありがとう。お帰りなさい、ナルト君。」 「……ヒナタ……」 「……ナルト君……」 「……あんたら……」 「うぉっ!!!」「キャッ!」 突然、割って入ったサクラの声に驚き、握った手を更に握り締めるナルトとヒナタ。 「いつまでも二人の世界でメルヘンしてんじゃないわよ。ナルト、ヒナタの入院の手続きがあるから、後で医療棟に寄ってきなさいね。」 サクラはカルテを書き終えると、ヒナタの病室を後にした。 ヒナタの入院から半月余りが過ぎ、いよいよ出産への準備が始まった。 張りを止めるための点滴は、妊娠37週を過ぎた時点で外されて二日経過していた。大事をとって退院はせず、病室に居た時の事。 春になったとはいえまだ寒い日も多く、カーディガンを羽織ろうと手を伸ばした時、突然『パシャッ』と水が下りるのを感じた。 (えっ!?い、今のって……) ヒナタが困惑していると、タイミング良く表れたのは、ナルトだった。 「よぅ、ヒナタ!調子はどうだ?」 「……ななな、ナルト君!……い、今、破水した……かも……。」 「まま、マジかってば!?おおお、落ち着けヒナタ。つつ、綱手のばぁちゃん呼んで来るからよ!」 影分身を出すナルト。 本体はヒナタの隣で不安気なその手を握るが、ナルト自信も手が汗でビチャビチャだ。 程なくして、綱手と影分身のナルトが病室に駆け込んだ。 「……間違いないね。直ぐに陣痛も始まる。陣痛室に運ぶよ。」 「つ、遂に来たなっ!ひ、ヒナタ!」 「……な、ナルト君!も、もう、痛いかもっ!!!」 「だ、大丈夫だっ!頑張れ、ヒナタ!!」 「ナルト、落ち着け!お前、父親になるんだろ!お前が慌てたら、ヒナタも不安になるだろ!」 綱手に言われ、ハッとするナルト。 (そうだ。俺ってば父ちゃんになるんだ。ヒナタの方が不安で堪らねぇはずなのに、俺まで動揺してどーすんだってばよ。) 完全に落ち着いた訳ではないが、それでも無理して落ち着いたふりをするナルト。 ヒナタの髪を撫で、ニッと微笑む。 「落ち着け、ヒナタ。痛い、苦しい思い、全部俺にぶつけろ。頑張ろうな、ヒナタ。」 「ナルト!分娩までは、まだ時間がかかる。長期戦になるから、水とストローを用意しな。あと、休めるときは休んで、食えるときは食っとけ。 痛みで苦しんでる時は呼吸が浅くなり、過呼吸を起こしやすい。深く呼吸させるように気を付けろ。腰や腹を擦ってやれ。子宮口が全開大になるまで、いきませないように気を付けな!」 「うっす!」 陣痛室でナルトが、献身的にヒナタに尽くすことおよそ12時間。子宮口が全開大となり、分娩室へと移動する。ナルトもそこに立ち会う。 時刻は夜から朝へと変わる頃。 「うああぁっ!痛いっ!あああぁっ!!」 「頑張れヒナタ。大丈夫だ!頑張れ!!」 ナルトはヒナタの手を握り、励まし続けた。 ヒナタのいきむ力は、ナルトの手へと伝わり、命を産み出す壮絶な力を感じていた。 「オギャーッ!」 突然、室内に響くこの世に産まれ出た証。 「頑張ったな、ヒナタ。ナルトも良くやった。泣き声も元気な男の子だ。」 綱手の言葉にホッとするナルトとヒナタ。 処置を済ませた後、まずヒナタが我が子を腕に抱く。 「フフッ、小さい。髪の毛、もう生えてるんだね。ナルト君と同じ色。……可愛い。」 次にナルトも我が子を抱く。 「ヘヘッ、……あったかいな。……可愛いな……。ヒナタ、俺を父親にしてくれて、ありがとう。……愛してる。言葉じゃ表しきれねぇ程、お前を愛してる。」 「ナルト君、私も愛してるって言葉では言い尽くせない程、あなたを愛してる。私を母親にさせてくれて、ありがとう。」 我が子を腕に、涙を溢すナルト。 その腕に手を重ね、微笑むヒナタ。 その後、病室に戻ったナルトとヒナタは、疲れもあったが、興奮で目が冴えてしまっていた。 「可愛いな、赤ちゃん。」 「うん。とても可愛いね。」 「ヒナタ、本当にありがとうな。疲れただろ?傍に居るから寝ろってばよ。」 「ありがとう、ナルト君。ナルト君が励ましてくれたから頑張れたよ。一緒に頑張ってくれたから、ナルト君も疲れたよね?家に帰って休んできて。」 「あぁ、ヘトヘトだってばよ。でも、家に帰るのは何か勿体ねぇ。ヒナタの傍に居てぇんだ。」 ナルトは、ヒナタの手をとり、指を絡ませる。 ヒナタも、それに応えるようにキュッと指を絡ませる。 優しく微笑み合う二人の顔は、喜びと誇らしさを滲ませている。 引かれ合うように、口付けを交わす。 夫婦になる時に交わされる、誓いのキスに似たそれは、新たなる誓いをたてているかのように神聖で……。 親となり、初めて迎える朝。 繋がれた手と手、絡まる指と指。 夫婦の結び付きは、新たな家族の誕生により、絡まる指のように、更に固く結ばれたのであった。 |