3. 二人の距離(るなた様)





サスケとサクラが、籍を入れてから一ヶ月が過ぎた。

式を挙げていない二人の為にと、ナルト達は、同期メンバーの他に、ガイ班、カカシ、綱手、シズネというメンバーで集まり、大きくはない会場を借り、お祝いをすることになった。

サクラの腹部には、まだ目立つ程ではないが、確かに膨らみがあり、そこに命が息づいている事が伺い知れる。

皆に祝福される二人は、笑顔を浮かべて対応している。

ナルトがサスケの隣に来ると、話し始めた。

「サスケェ、これでお前のモテモテ人生も年貢の納め時だってばよ。」

「うるせぇよ、ウスラトンカチ。勝手に女どもが寄ってきてただけだ。俺は興味ねぇ。」

「へーへー、モテスケ君は言うことが違うってばよー。っつうかサスケ、サクラちゃん前に家に来たときより顔色良くなったな。」

「あぁ、最近は悪阻もおさまったらしい。」

「ふーん、そうなのかってば。よくわかんねぇな。」

「あぁ、違いねぇ。」

「サスケ君!」

突然、会話に割って入ったのは、ロック・リーだ。

「僕は……僕は、ずっとサクラさんを守ると誓いました。しかし、それはサスケ君の役目みたいですね。残念ですが、君にサクラさんをお任せします。」

「……あぁ、わかった。約束する。」

「……う、うわーーーん!!!さようなら、僕の青春!!さようなら、サクラさーん!!」

「おい、行くぞリー。サスケ、祝いの席に突然すまない。」

「ネーーージーーーッッッ!!!」

ネジに抱き付くリー。
涙と鼻水を、ネジの服に擦り付け、引っ張られていく。

綱手、カカシ、ヤマトの大人組は酒を酌み交わしている。

会場内に、主役のサクラ、ヒナタ、いの、テンテン、シズネが居ない事に気付いたナルトは、キョロキョロと辺りを見回した。

そんなナルトに声をかけたのは、シカマルとチョウジだ。

「なんか企んでるみたいだぜ。」

「なんかってなんだってばよ?」

「知らねぇよ、めんどくせぇ。」

「うん、いのが楽しそうに支度してたよね。荷物も沢山で、持ってくるの手伝ったんだ。」

「そうなのかってばよ、チョウジ。……ん?」

会場の出入口に、こっそりと立ついのに、ナルトが気付く。

いのはナルトを手招きで呼んだ。

訝しげに思いながらも、ナルトはそちらに向かうと、いのに耳打ちされた。

「ナルト、あんたこっそりサスケ君連れてきてくれない?」

「んー、いいけど何でだってばよ?」

「まだ内緒よ。乙女の願いを叶えるためのお手伝いとでも思っておきなさーい。」

「何なんだってばよ……よくわかんねぇけど、ヒナタも咬んでんだろ?連れてくるってばよ。」

ナルトはサスケの隣に座り、サスケに耳打ちする。

「サスケ、あっちでいのが呼んでるってばよ。サクラちゃんの事で何かあるみてぇだぞ。こっそり来いってさ。」

サクラが咬んでると言われ、すんなり席を立つサスケ。

「ナルト。」

「ん?サイか。何だってばよ?」

「ナルトに聞きたかったんだ。ナルトはずっとサクラの事が好きだったのに、どうしてヒナタに心変わりしたんだい?」

「んー、なんつーかなぁ。気付いたらヒナタの事ばっか気になるようになってたんだってばよ。」

「ふーん、恋って本ではわからない事だらけなんだね。」

「そりゃそーだろ。気付いたら嵐の中に居た、みたいなもんだからな。」

「……へぇ……、ナルトもたまには為になること言うんだね。」

「なんだとー!」とナルトが言い放ったところで、急に会場内に音楽が鳴り響く。
光が集まる出入口。
扉が開き、現れたのは、ウェディングドレス姿のサクラと、タキシードを無理やり着せられた様子のサスケだ。

ナルトはふと気付く。

(……どっかで見たドレスとタキシードだな。あ、あれヒナタと俺が着たヤツだってばよ!)

「ナルト君、気が付いた?」

いつの間にか隣に居たヒナタに声をかけられるナルト。

「あぁ、あれって俺達のだよな?」

「うん。勝手に持ち出してごめんなさい。サクラちゃん、結婚式挙げないって言ってたけど、やっぱり女の子の夢な訳で……。叶えてあげたいなって、いのちゃんに話したら、サプライズでプレゼントしようって事になって。」

「そっか、ヒナタはやっぱ優しいな。でも、ドレスって胸とかお腹とかサイズ治したんだろ?良かったのかってば?」

「うん、だって私にはもう必要ないもの。思い出はちゃんと胸の奥にあるし、サクラちゃんが喜んでくれるなら、私はその方が良いもの。」

「そっか……俺、ますますヒナタに惚れたってばよ。」

ヒナタの手を取るナルト。ギュッと握り、互いの目を見つめ微笑み合う。

会場内から起こる拍手に、サクラは涙が溢れそうな目をして微笑み、サスケは照れながらもサクラをしっかりエスコートしている。

そんな中、いのとテンテンが、サクラの両親を引き連れ、会場内に入る。

驚きを隠せないのは、サクラだ。サスケはその横で綺麗に礼をしてサクラの両親に向き合う。

「お父さん、お母さん……どうして?」

「サクラ、とっても似合うわ。綺麗ね。今日の事、いのちゃんとヒナタちゃん、テンテンちゃんが教えてくれたの。いつまでも結婚に反対してても、もうサクラはサスケ君と居ることに決めて変わらないみたいだし、だったら笑って送り出した方が良いじゃない。孫も抱きたいし。だからね、お父さん引っ張ってきたの。」

「ふ、ふんっ!母さんに言われて仕方なくな……。」

「ありがとう、お母さん。ありがとう、お父さん。」

涙でぐちゃぐちゃの顔をして、微笑むサクラ。それを支え、ハンカチを取り出し拭うサスケ。

サプライズの結婚式は、形式ばったものは何もなく、暖かな笑いに溢れ、皆で沢山の写真を撮り、話しに花を咲かせてる内に終了となった。

サクラは、本日集まった仲間達に何度も礼を言い、サスケと共にサクラの実家に向かった。

シズネを含めた大人組の宴会は、終わる様子がない。ナルト達は各々、会場の片付けをし始める。

ふと、片付けをしているヒナタを伺い見るナルト。

(ん!?さっきまで会場の暗さで気付かなかったけど、ヒナタ、顔が真っ青じゃねーか!?)

慌ててヒナタの側に駆け寄り、声をかける。

「ヒナタ!お前調子悪いんじゃねぇのか?」

その声に、周りのメンバーも気付き始める。

「う、うん。……最近ちょっと熱っぽくて……。今日は楽しかった分、疲れが出たのかな?……ゆっくりやれば大丈夫だから……。」

「おい、ヒナタ。掃除ならナルトや俺らでやるから、無理すんじゃねーぞ。」

「あぁ、キバの言う通りだ、ヒナタ。何故なら、お前が無理するとナルトがうるさくて掃除どころではなくなるからだ。」

「う、うん。……キバ君シノ君ありがとう。でも、本当に大丈夫だから……。」

「なぁ、ヒナタ。お前は頑張り過ぎなんだってばよ。せっかく綱手のばぁちゃんとシズネの姉ちゃんが居るんだから、見てもらうってば。」

「……で、でも……」

「ヒナタ!忍は体調管理も任務のうちだ。こっちに来い。シズネ、診てやんな。」

綱手の言うことにヒナタが反論するわけもなく、シズネのもとに向かう。

「外傷は、ないわね。熱っぽいと感じるようになったのはいつから?」

「は、はい。……えぇっと、二週間くらい前からだと思います。」

「そんなに前から!?」

「で、でも……熱っぽいだけで、実際には平熱より少し高い程度です。」

「風邪の症状もない。体も痛むところはない……。ヒナタさん、月のものは来てる?」

「えっ、あっ、そ、そういえば遅れてるかも……です。」

「最後にきたのはいつ?」

「えぇっと……一月半以上前かな、と……」

「熱っぽい以外に気になる事はある?」

「あっ、あの……最近、やけに色んな匂いが鼻につきます。吐いたりはしないんですけど、気持ち悪くなる時があります。」

「多分……。ちょっと待っててください。綱手様に報告してきますね。」

シズネは、そう言うと綱手のもとに行き、耳打ちをする。

「間違いないね。」と呟くと、ヒナタの側に寄る綱手。

周りに聞こえないくらいの声で、診断を告げる。

「ヒナタ、お前どこも悪いところはない。熱っぽさやそれ以外の症状は、おそらく悪阻さ。9から10週目ってとこだろうね。」

「えぇっ!でで、でも綱手様!そそそ、それって……わ、私……赤ちゃんが出来たのですか?」

「明日、病院で詳しく検査しないと、はっきり言えんが、まぁ間違いないだろうね。それに、ナルトとやることやってるんだろ?自然な事さ。ヒナタの明日の任務は別の者に行かせる。お前は明日、病院に来い。」

「は、はいっ!」

診察のあと、大事をとるようにとの綱手の指示で、ナルトとヒナタは家路に着いた。

「ヒナタ、本当に大丈夫かってばよ?」

「う、うん。あ、明日ちゃんと検査するから病院来るようにって言われたよ。それではっきりするみたい。」

「そうなのか。あー、でも明日俺任務が入ってるな……。一人で行けるか?影分身置いてくか?心配だってばよぉ。」

(ナルト君、騙すみたいな事してごめんなさい。明日、はっきりしたら言うから……)

「大丈夫だよ、ナルト君。一人で行けるから、心配しないで。」

「バッカ、ヒナタ。心配だっつーの!」

「フフッ、ありがとう、ナルト君。……こうして手を繋いでいてくれるだけで、体の不調も治っていくみたい。」

「そっか?そう言ってくれると嬉しいってばよ。明日、急いで任務終わらせて帰るから。一緒に行ってやれなくてごめんな、ヒナタ。」



次の日、病院で検査を受けたヒナタは、嬉しさと気恥ずかしさと誇らしさを胸に、家路に着き、ナルトの帰りを待った。

ナルトは、通常の忍であれば3日はかかるであろう任務を1日で終え、急いでヒナタのもとへ帰り着く。

「ただいま、ヒナタ!大丈夫か?検査の結果出たか?」

「お帰りなさい、ナルト君。凄く早く帰ってきてくれたんだね。ありがとう。……あ、あのね、ナルト君……まだ、安定期ではないので、不安もあるけど……お腹に、ナルト君の赤ちゃんが居るの。」

えっ!と、一瞬思考が停止するナルト。

「そ、それってば、本当か?」

「こんな大事なこと、嘘つくはずがないよ。」

「本当の本当に?」

「うん。」

「俺の子が?」

「フフッ、ナルト君以外の誰の子だと言うの?」

「あ、あぁ、すまねぇ……気が動転しちまって……。」

「来年の春には産まれるんだって。」

「……や、やったーーーーーっ!!!ヒナタ!すげぇな!」

ヒナタを抱き締めるナルト。その力はいつもと違って、お腹に負担をかけないよう、優しくて……。

「ありがとう、ナルト君。……あのね、赤ちゃん、まだ凄く小さいのに、もう心臓が鼓動してるんだよ。」

「そうなのか。すげぇな!」

「うん。当たり前だけど、もう命なんだね。」

「そうだな。俺、ヒナタと子どもを生涯守る!……ありがとう、ヒナタ。愛してる。」

「私も、ナルト君と子どもを生涯守るから……愛してる。」

どちらからともなく、近づき触れ合う唇。

それは、次第に熱を帯び、結び付きを深くする。

「……ん……はぁ、ん……」

漏れる声がどんどん熱を上げて、体の自由が奪われ、ヒナタはナルトにもたれかかる。

「なぁ、ヒナタ。……こんなこと聞くのは、怒られちまうかもしれないけど……」

その表情で、ナルトの言いたいことを察するヒナタ。

「大丈夫。怒らないよ。……だ、大事なこと、だもんね。」

「お、おぅ。……えっちは、しても良いのかってば……。」

「え、えぇっとね、綱手様からの伝言です。……し、しっかり説明するから、明日二人で執務室に来るように……って。」

「マジか……で、でも大事なヒナタと子どもを守る為だ!聞いてやろうじゃねぇの!」

「フフッ、ありがとうナルト君。」

そう言うと、ナルトの唇に口付けるヒナタ。

普段の彼女ではない行動に驚くナルトであったが、嬉しさと愛しさで、どんどん深さを増していく。

二人の距離は、ヒナタの懐妊により、また一歩近づいたのであった。








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