2. 示し合わせた訳でもないのに(るなた様)




ピンポーン

玄関のチャイムが鳴る。

「はいはーい、どちら様ですかってばよー?」

「早く開けろ、ウスラトンカチ。」

ガチャ

「何しに来たんだってばよ、サスケ……と、サクラちゃん。」

突然の訪問。
玄関先の、少し緊張を含んだ二人を家にあげるナルト。

「いらっしゃい、サスケ君、サクラちゃん。」

出迎えたのは、ナルトの愛妻であるヒナタ。

二人が結婚してから、8ヶ月が過ぎようとしていた。

「突然ごめんね、ヒナタ。これ、つまらないものだけど……」

差し出されたのは、お土産のお菓子。

「そんな、気を使わなくていいのに……。ありがとう、サクラちゃん。」

二人をリビングに招くナルト。
ヒナタはキッチンでお茶とお菓子の仕度をして、それらを配る。

「ナルト君、私外に出てくるね。」

「あっ、あの……。突然来て悪いんだけど、ヒナタも居てくれるといいなって……。」

いつもの快活な感じと違い、どこか気恥ずかしそうな物言いのサクラ。

「う、うん。わかった。」

ヒナタはナルトの横に座る。

「んで、何があったんだってばよ?」

来訪の意を尋ねるナルト。サスケは静かに口を開く。

「あぁ、実はな……サクラと来月、籍を入れる事になった。」

「えぇっ!そうなのかってば!?突然で驚いたけど、良かったな!!」

突然の来訪の意味するところ。
来月籍を入れるという早急さ。
それらを汲み取ったのは、ヒナタであった。

「サクラちゃん、おめでとう。……体調は大丈夫?」

サクラの手を握り、言うヒナタ。
それに驚いた様子のサクラであったが、ヒナタの顔を見て恥ずかしそうに笑う。

「やっぱり、わかるよね?」

「うん、何となく……そうなのかなって。」

この場で頭に『?』が浮かんでいるのはナルトだけ。

「どういう事だってばよ?サスケ、サクラちゃんの調子悪いのに連れ回してんのかよ!?」

サスケに詰め寄るナルトを、ヒナタが止める。

「悪いな、ヒナタ。こんなウスラトンカチを旦那にもつと苦労するな。」

「なんだってーーっ!サスケェ、表に出やがれ!!!」

立ち上がり、サスケに突っかかるナルト。それを制するヒナタ。

「待って、ナルト君、落ち着いて。とっても喜ばしい事なんだから。」

「……そうだったってばよ。」

と、再び座るナルトは、違和感に気付く。

(ん?いつもならサクラちゃんに殴られてるとこなのに、何か変だってばよ?)

「なぁ、サクラちゃん。何か今日、大人しくねぇか?……もしかして、サスケに何か脅されてんのか?サスケ、お前サクラちゃんに何したんだってばよ!」

「ば、バカね!脅されてるとかある訳ないでしょ!」

「じゃあ、何でそんなにモジモジしてんだってばよ?……あっ、わかった。トイレ借りたいんだな!んーなの、早く言ってくれれば……」

「しゃーんーなろーっ!!!」

ゴンッと鈍い音がして、床に転がるナルト。

「さ、サクラちゃん。興奮すると良くないよ。」

ナルトを介抱しつつ、サクラの身を案じるヒナタ。

「まだ、見た目にはあまりわからない感じだけど、今どのくらいなの?」

「あっ……う、うん。……四ヶ月に入ったところ。」

「そうなんだ。体は大丈夫?」

「ありがとう。何か口に入れてないと気持ち悪いとかかな?胃がムカムカする感じなの。」

「そうなんだ。大変だね。安定期に入ると良くなるって聞くから、もう少しだね。」

ますます話しについていけないナルト。

「なぁなぁ、一体サクラちゃんに何があったんだってばよ?」

「サクラの身体に、俺の子が居る。」

「……はぁっ!?」

「だから、俺とサクラの子ができたと言ったんだ。」

「ま、マジか!サスケ、お前無計画にサクラちゃん、孕ませたのか!?」

「……いや、ある意味計画的だ。勿論、サクラも合意の上だ。」

「……そんなら、何も文句はねぇ。良かったじゃねぇか!サクラちゃん、おめでとう。」

ニッと笑うナルト。

「ありがとう、ナルト。」

笑顔で返すサクラ。



大戦の折り、終結に向けた行動を認められ、監視付ではあったが里に戻ったサスケ。

自らの犯した罪を反省し、己に人並みの幸せなど望めないと頑なであったサスケを支えたのは、ナルトとサクラだ。

同期のメンバーもその支えとなり、徐々に人のつながりの大切さを認識し、沢山の言葉と愛情を注ぐサクラのかけがえのなさに気付き、恋仲となるまでにそう時間はかからなかった。

だが、それに良くない顔をしたのはサクラの両親だ。

娘が、始めから苦労するとわかっている相手と結ばれたいと願っている事を、良しとする親など居ない。

娘の幸せの為と、サスケにサクラと別れるよう説得もした。

だが、サスケにとってサクラは唯一無二の存在であり、共に在る事を認めてもらおうと、何度もサクラの両親の元へ足を運んだ。

然し、話を聞いてもらう事すら叶わず……。

その一進一退の攻防に業を煮やしたのはサクラだった。

既成事実を作り、無理やりにでもサスケと共に生きる覚悟がサクラにはあり、サスケもサクラと共に在りたいと願った。

何より、サスケもサクラも、二人の強い繋がりの証である子どもが欲しいと願った。

その結果の懐妊である。

順序が逆だと後ろ指をさされる事もあるだろう。

だがそれは、二人にとって些細な事であり、互いを求め合う心には大した問題ではなかった。

「式を挙げる予定はない。だが、お前らには籍を入れる前に伝えようと思ってな。」

「そっか。わざわざ教えに来てくれて、すまねぇってばよ。」

「サスケ君、サクラちゃん。本当におめでとうございます。……ふ、二人が幸せそうで……私、とっても嬉しい……。」

「……ヒナタ……あ、ありがとう……」

その場で泣き出すヒナタとサクラ。
ナルトとサスケは、それぞれのパートナーの顔を自らの胸に抱き、頭を撫でる。

「ニシシッ、照れ屋のサスケちゃんにそんな気遣いが出来るとは、こりゃあサクラちゃんへの愛はかなりのもんだなってばよ。」

「うるせぇよ、ドベ。」

「へへーん!そんな状況で言われても、なーんも悔しくねぇってばよぉ。」

「「フフフッ」」

そんなやり取りを聞き、愛する人の胸で笑うしかないサクラとヒナタ。

落ち着きを取り戻し、暫しの談笑の後サスケとサクラはナルトの家をあとにした。




シーン



突然の来客と思いがけない報告に、ナルトもヒナタもサスケ達が帰った後、声を発することが出来ないでいた。

その沈黙を破ったのは、ヒナタだった。

「……な、ナルト君っ!」

「お、おう、どうしたヒナタ。」

「さ、サスケ君もサクラちゃんも……よ、良かったね。」

「あ、あぁ、そうだな……。」




シーン




「ひ、ヒナタッ!」「……なな、ナルト君っ!」

同時に呼び掛けてしまい、少し気まずくなり、黙ってしまう。

何かを決意した顔でナルトが立ち上がり、ヒナタの背後に回り込んでそのままドカッと座ると、後ろからヒナタのお腹に手を回し、抱き締める。

「なぁ、ヒナタ。……俺さ……いつか、ヒナタと俺の子が出来て、家族が増えてって何となく思ってたけどさ……俺ってば親ってもんを知らねぇから、正直親になれるのか不安でさ……大事な事なのに、話してこなかった……ごめんな。情けねぇってばよ。」

ヒナタはナルトの両手を握り、首を横に振って話し出す。

「それは……私も同じだよ、ナルト君。……良い親になれるのか不安で、家族として大事な事から目を背けてた……。ごめんなさい、ナルト君。」

「そっか、やっぱヒナタも同じだったんだな。……なぁ、ヒナタ。俺さ、俺とヒナタの子どもが欲しい。……今日、サスケとサクラちゃんの覚悟を聞いて思ったんだ。不安のねぇヤツは居ねぇんじゃねぇかと思うんだってばよ。でも、その不安なんてかき消しちまうくらい望むから、子どもは産まれてきて育つんじゃねぇかって。俺はヒナタとの子どもが欲しい!ヒナタはどう思う?」

ヒナタは、ナルトの方に体を少し向けナルトと目を合わせた。ヒナタの目には泪が滲んでいたが、顔は微笑んでいた。

「……嬉しい……。ナルト君、私も心から望みます。ナルト君の赤ちゃんを産みたい。……自分の心にまっすぐ向き合い、光の指す方へとその心を改められるナルト君のことが、また一つ大好きになりました。望んでくれてありがとう、ナルト君。」

「ありがとう、ヒナタ。」

見つめ合い、深く交わされる口付け。
ヒナタのお腹に回された手には、ナルトの確かな意志があって……。

夫婦として、家族としての在り方に触れた二人の絆は、前にも増して強固なものとなった。

「なぁ、ヒナタ。」

「……ん、なぁに?」

「今から俺と子作りしねぇ?」

「……その誘い方は、どうかと思うけど……。」

「あぁっ、やっぱりかってばよ。……んー、なかなか難しいな。」

「で、でもっ!」

「どうした、ヒナタ。」

「あああ、あのっ!わ、私もナルト君に……だ、抱いて欲しいと思ってる訳で……。」

「オッケー、ヒナタ!お前ってば可愛すぎるのな!愛してるぜ、ヒナタ!!!」



夫婦として、また一つ前進した二人なのでした。








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