あの頃からきっと 25




 翌朝、簡単な朝食をとり、それからそれぞれが出立の支度を始める中、ハルナたちの護衛を今回の礼にと班員たちが受け持つ中、ナルトとヒナタも同行しようかと尋ねれば、騒動の中心である二人は帰れと素気無く返され、チョウジが当時の二人の代わりについていくという話になれば、モミジが大喜びして旅支度をはじめている。

 カカシ、サクラ、サスケ、キバ、シノ、チョウジというメンバーが同行することに決まり、チョウジだけではと、シカマルといのも着いていくと言い出すのにそう時間はかからなかった。

 単なる帰還組は、ナルト、ヒナタ、ヒアシ、ガイ、リー、テンテン、ネジ、ヤマト、サイというメンバーに決定し、色んな意味で濃いな……と、ナルトがガイとリーを見つめながら言ったのは致し方がないことであっただろう。

 それぞれが食料や水の確保をしている中、コダマが部屋へ訪れたのはそんな最中であった。

「ちょっといいかな」

 そういってナルトとヒナタの両名を見るので、二人は静かに頷き部屋を出る。

 言葉無く外へ出れば、心配そうに部屋から覗く仲間たちと、ヤマビコ。そして、使用人たち。

(ギャラリーすげーってば)

 ナルトは隠れることも無く見守っている人々の視線を感じながら、コダマを見ていた。

 迷いはもう無く、何をすべきかも見出した顔。

「で、話はなんだってば」

 きっときっかけを掴めないのだろうと、ナルトが言葉を出せば、漸くコダマはスッと頭を綺麗に下げてみせる。

 そう来るとは思っていなかった二人は驚いて顔を見合わせてから、コダマの言葉を待つ。

「……すまなかった」

 たった一言、だがその言葉にどれだけの思いが詰まっているのか知っているナルトとヒナタは静かに頷いて微笑む。

「もういいってばよ」

「ええ、顔を上げてください」

「し、しかし……」

 言い淀み、顔を上げるのを困惑してどうしていいか固まっているコダマの首にヘッドロックをかけるようにナルトが腕を回し、豪快に笑う。

「いいっていってんだろっ!ったく、テメーは頭固ェーんだよ!商人なんだから、もーちっと柔軟性持ちやがれってばよ!」

 ガシガシと乱暴に髪を撫で回せば、そんな対応をされたことがないのだろう、コダマは驚いたように必死に腕から抜け出そうともがく。

 しかし、ナルトの力に適うはずもなく、ナルトはコダマの頭を思う存分ワシワシと撫で繰り回してから、パッと解放して腰に手を当て胸を張りながら太陽のような笑みを見せる。

「テメーの非を知り、それを受け入れ、それでも尚且つ前進する奴に、これ以上なに言えばいいんだってばよ。それがどれだけの覚悟で、どれだけ辛いことなのか、オレたちは知ってる。それに……オレはヒナタへの想いを認識することができた。こういうのも変だけどさ……ありがとうな」

「うずまき……ナルト……」

「今後の生き様でその思いを見せてください。簡単なことじゃないです、きっと言っていることは何よりも厳しいことだと思います。ですが、それを成し遂げてくれると信じているからこそ、もういいんです」

 ヒナタの穏やかな声にコダマは言葉も無く、そして彼女は本当に強い女性なのだと知り、思わず苦笑する。

 これほどまでの女性だと思っていなかったのだ。

 姫と扱われてきたような女性だろうと、優しいだけで何も出来ない、そんな弱々しい生き物なのだろうと思っていた。

「アナタは……強いのですね」

「私は強くなんてありません。強く……なりたいんです。ずっと隣を歩いていきたいから、だから日々努力なんです。うまくいかなくて、自己嫌悪に陥って落ち込むことなんてしょっちゅうですけど」

 くすりと笑うヒナタに、ナルトは僅かに頬を赤らめながら視線をずらして口を尖らせる。

「んなことしなくても、置いていきゃしねーよ」

「ナルトくんは、走り出したら周りが見えないから……」

「だったら、こうやって手を繋いでいきゃいいだろ。そうすりゃ、引っ張られてもなんでも隣だってば」

 ぎゅっと隣のヒナタの手を握って見せれば、ヒナタはむぅっと可愛らしく唇を尖らせて見せて不満そうに声を出す。

「ダメです、ちゃんと自分の足で走らないとっ」

「あーもー、ヒナタはそういうところ、本当に強情だってばよ!」

「だ、だって、わ、私だってナルトくんの力になりたいんですものっ」

「十分これ以上とない程力になってるっつーのがわかってねーのかよっ」

「ま、まだまだ足りませんっ!」

「オレが足りてるって言ってんの!寧ろ、もっと自分を大事にしてくれっ」

「そ、それはナルトくんのほうこそですっ、それに、これから火影になるのでしょう?もっと努力するのでしょう?だったら、私も努力しますっ」

「……あー、あの……つまりは……互いに一緒に居たいから頑張るって言ってるのですよね……」

 何だか口喧嘩っぽくなってきた二人の言い合い。

 内容だけ聞いてると、全く喧嘩ではないのだが、本人たちが真剣だからタチが悪いと、早々に止めようとコダマは判断し、実行に移したようだ。

 手を握ったまま喧嘩なんぞあったものではない。

 コダマの言葉に、二人は動きを止めてジッとお互いを見つめあい、それからコクリと頷いた。

「……喧嘩にならない喧嘩……全くアナタたちはどこまで……」

「だ、だってよ……心配になるっつーの……今回みてーなんで平気で命投げ出そうとする奴だからさ」

「ご、ごめんなさい……」

 さすがにその件に関しては悪いと思っているフシがあり謝ったヒナタは、ナルトが盛大に溜息をついたのを見て唇を僅かに尖らせた。

 その仕草の可愛らしさにナルトは苦笑を浮かべると、ヒナタの頭を撫でながらコダマを見つめる。

「こうやってさ、オレたちも前へ進むのに言い合いしたりしながら一歩ずつ前へ進んでんだ。お前もヤマビコのおっちゃんと話をして、言い合いしながらでも一歩ずつ前へ進んで行けってばよ」

「ふふ……考えたら、はじめて……言い合いしました」

「だな。いつもヒナタは気を遣いすぎるからなー、こうやって言ってくれりゃ、オレも嬉しい」

「はい」

 微笑みあう二人を見ながら、コダマは毒気を抜かれたような気分になって肩の力を抜くと口元にうすらと笑みを浮かべてグッと伸びをする。

「二人に負けないように、頑張って父のような商人になります。一から出直しです」

「お前ならやれるってばよ」

「そうですね」

「あー、そうだ、それとだ……コダマ、歯食いしばれ!」

「えっ?」

 ぺちっ

 キョトンと軽く打たれた頬と、打ったナルトの手を見てから、ナルトをジッと見つめた。

「ヒナタの頬を打ったのはコレでチャラにしてやる。ヤマビコのおっちゃんにも殴られたみてーだしな」

「ナルトくん……」

 優しく微笑むヒナタに、ナルトは苦笑しつつ唇の端を親指で触れて肩を竦める。

「オレの腹のムシがどーもな」

 ニシシシッと笑ったナルトに対し、ヒナタは何も言えず少しだけ涙ぐみながらも、まるで陽だまりのようなあたたかな優しい微笑を浮かべる。

 その微笑に、ナルトは一瞬我を忘れ魅入ってしまうが、それは見ていた皆同じであったようで、しんと静まり返る周囲に、ハタッと気づいたナルトは慌ててヒナタの肩を掴んで己の腕の中へと閉じ込めた。

「そ、そういう笑顔は他の奴らの前でしちゃダメだってばよ!敵が増える!!」

「え?敵?……敵、まだいたの?」

 眉を顰めてそう尋ねるヒナタに、ナルトは天を仰ぎ泣きたくなりながら言葉にならない呻き声を上げて片手で目を覆った。

「な、ナルトくん?ね、ねぇ、ど、どうしたの?」

 腕の中でオロオロするヒナタにどうしようもない愛しさを感じ始めたナルトは、天を仰ぎながらもぎゅっとヒナタを抱きしめ大声で空に届けとばかりに言い放つ。

「オレってば、そういうところも含めて、本当にヒナタを愛してるってばよっ!」

「ふぇ!?え?ええ?な、何でそうなるの?ど、どうして??な、なな、ナルトくん?」

 ナルトのとんでもない愛の告白に焦ったのはヒナタである。

 全身を紅色に染め上げて、身動きの取れない腕の中、オロオロとして泣き出しそうになりながらも、決して嫌ではないのだからどうしたらいいのと、また混乱を来たしている様子。

 それを見ながら『どうしようもないな』と言いたげに笑い出す仲間たち。

 一同が笑いに包まれる中、新たな旅立ちにはうってつけの青い空がどこまでも広がり、一行をいつまでも見下ろしていた。

 この先青い空ばかりが広がっているとは限らない。

 しかし、この愛しい存在が傍にあれば、きっとそんな暗雲立ち込める先であろうとも越えていけると、奇妙な確信と共にナルトは高らかに笑うのであった。






 あの頃からきっと 気づかなかっただけで オレとキミはこの手を繋いでいたんだ───





〜 F i n 〜 







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