33.解呪 「ヒナタ!!」 ハッとして顔を上げれば、本体のナルトが飛んで帰ってきてヒナタの傍に降り立った。 「ヤマト隊長たちが今タガウを抑えてくれてるってばよ。時間がねーけど、チャクラ供給すりゃ刻印が解けるって本当か!?」 「え、あ……う、うん。マモルさんが教えてくださいましたから」 「そっか、んじゃ、とっとと供給しちまうぜ」 「うん……え、あ、ちょ、ちょっと待って!な、ナルトくん、む、無理っ、無理だからっ!」 「は?」 何でと言いたげなナルトの視線を受けて、ヒナタは真っ赤になりながらジリジリ後退する。 顔を真っ赤にして、目じりに涙を浮かべ、羞恥に耐え切れない様子のヒナタはどこか色っぽい。 「な、ナルトくん……こ、こんなに大勢の前では許して」 「何で逃げんだよ。時間もねーし、一気に供給しねーとダメなんだろ?」 マモルに一応確認をとると、マモルもナルトに向かって頷く。 「大量であれば大量であるほうがいいよ。ヒナタの体力もそろそろ限界だろ?一気に消し去るカンジで流し込めばいい」 「よし、んじゃ、クラマと高密度のチャクラ練って一気に渡すってばよ。ヒナタ、ほら、来いってば」 ブンブンッ 勢い良く首を振ったヒナタに対し、ナルトは傷ついた顔をすると眉尻を下げて泣きそうな顔をする。 「オレじゃ……嫌?」 「そ、そうじゃないのっ……あ、あの……こ、こんなに大勢の前は……い、嫌だよぉ」 ヒナタが何を嫌がっているのか理解したナルトは、漸く納得がいった顔をして頷く。 「あ、そっか……恥ずかしいのか」 コクコクコクと必死に頷いて見せるヒナタを可愛いなぁ……と思いつつ見ていたナルトは、困ったような顔をしてうーんと唸る。 確かに時間が無い。 高密度のチャクラを練って分け与えるのにも、さすがに時間がかかる。 だからと言ってヒナタの気持ちをないがしろにしてしまっては、可哀想な気もした。 「しょーがねェ……口寄せの術!!」 ぼふんっ と、大きな煙を立てて現れたのは、大きなガマ。 「ガマオヤビン、ちょっとそこで後ろ向いててくれねーかっ」 「なんじゃいナルト、ワシに何か用かっ」 「いや、どっちかっていうとさ……目隠ししててくれってば」 「はあ?」 文句を言おうとした大ガマは、フカサクが『黙って言うこと聞いてやれ』と大ガマに口ぞえすると渋々黙り、木ノ葉の忍の面々を前にその巨体で座り込んだ。 「これで、多少は目隠し……な?ゴメン、これ以上思い浮かばねーってばよ」 「わ、我侭言って……ごめんね」 しゅんとしょげた顔でそういわれたナルトは、ヒナタの性格上仕方がないと十分に理解していたが故に、ヒナタの腕を引っ張り己の腕の中へと閉じ込めると頬を撫でて慰める。 愛しい彼女に、そんな顔をされたくはない。 「いや、やっぱさ……恥ずかしいわな」 「う、うん……」 頬を染め見上げてくるヒナタに、ソッと額にキスをしてから、ナルトは大ガマを隠れ蓑にしていても見える角度というものを確認した後ヒナタを尚己の体で隠し、それから高密度のチャクラを練り上げる。 淀みなく純粋なチャクラが練りあがり腕の中で大人しくしているヒナタと目線を合わせると、ナルトは優しく微笑みヒナタの唇を指で優しく撫でた。 「恥ずかしい思いいっぱいさせちまってゴメンな……でも、オレの偽らざる本心だ」 「う、うん……あ、ありがとう。ナルトくん」 ふわりと笑うヒナタの桃色の瑞々しい唇に優しく己のソレを重ね合わせると、もう慣れてしまったように舌を差し入れようと突き出せば、ヒナタの唇はうっすらと開かれナルトを迎え入れる。 ヒナタの後頭部を手で覆い腰を力強く抱くと、より深く求めながらもチャクラを与えた。 本当ならば愛を確かめ合うような行為の1つ。 しかし、今は単なるチャクラ譲渡。 でも、それだけの行為だと思うには、互いを求め合う気持ちが強く、ついついナルトはヒナタを求めて舌を絡めた。 高密度のチャクラが流れ込んでくるのと、愛情溢れるナルトの舌と唇の愛撫に、ヒナタはクラクラする意識を何とか保つので精一杯。 体を駆け巡るチャクラ、そして熱。 何が何だかわからないような、そんな感覚の中で、意識だけは押し流されはするまいと、ナルトの背の羽織をぎゅっと掴んだ。 時々許される呼吸に、はぁと甘い吐息のような息継ぎをしてから、再び重ねる。 コレが単なる口付けならばどうなってしまうのだろうと、狂おしいほどの熱に浮かされるのを互いに感じ、それでも求めてやまぬ存在。 足がガクガクしはじめ力が入らなくなり、ヒナタは必死にナルトに縋り付いた。 そんなヒナタの変化をナルトはシッカリと感じ取ったのか、腰を抱く腕に力を篭める。 密着する体の熱が高まっていくのが、手に取るように理解できた。 しっとりと汗ばむ肌と、互い熱い吐息。 「ふ……あ……」 漏れた声は艶やかで、そして体を駆け巡るチャクラが足に集中していくのが分かる。 まるでガラスが割れたような甲高い音が一瞬辺りに鳴り響き、それからヒナタは完全に力を失ったようにズルズル沈み込んでいく。 その体を緩やかに支えながら地へと降ろすと、ゆるりとヒナタの足を撫で、そこに何も無くなっているのを確認すると嬉しそうにナルトは今一度唇を重ねたあと、ニヤリと笑った。 「よし、うまく行ったな」 「う……うん……」 「良く頑張ってくれたってばよヒナタっ!やっぱお前はすげー奴だってば!!お前ほどの女は早々いねーってばよ!!」 ぎゅうぅぅぅぅっ!と容赦なくヒナタを抱きしめそう叫んだ後、ナルトは嬉しそうに満面の笑みを浮かべてた。 「よーしっ!刻印解放だってばよ!ったく、テメーのもんみてーに散々しやがって、オレのもんだっつーの!ザマーミロってんだ!!」 子供のようにはしゃぎ全身で喜びを表現したナルトは、一度ヒナタを高らかに抱き上げてから、横抱きにして綱手の傍へと連れて来た。 ヒナタの体力がもう既に限界であることは、ナルトには理解できているのだろう。 気遣わしげに頬を撫でて愛しげに微笑む。 「綱手のばあちゃん、ヒナタを頼むってばよ」 「ああ、任せておきな」 「んじゃ、オレはまた行ってこねェとな……ヤマト隊長やサイたちが頑張ってくれてんだ。オレがアイツとはケリつけなきゃなんねェ。マモル、お前はどうする」 「ボクはここで刻印解除の手伝いをするよ。日向ヒナタって子に完全降伏」 「……ふーん」 「あははは、まさかあんな方法でチャクラ供給してたなんてね。役得じゃないか」 大笑いするマモルと、顔を赤くして視線を逸らすサスケ。 ああ見ちゃったのねと、ナルトは内心呟きながらも、やっぱり親友に見られたと意識すると気恥ずかしくなる。 「いいだろ、別に」 口を尖らせていう様は歳相応に見え、マモルはクククッと笑みを浮かべた。 憎めない相手だと思い、そしてその先に続く道を正直見てみたいと願う。 「1つ忠告だ。兄さんは手段を選ばないところがある……最後の最後で気を抜くんじゃない……何か切り札を持ってると思っていいよ」 「ああ、忠告サンキュ。木ノ葉の忍を頼むってばよ」 「せめてもの罪滅ぼしだ、任せてくれ」 拳をコツンと叩き合わせたナルトとマモルは頷き合った。 「ナルトくん……」 「心配すんなヒナタ。オレは負けねェから……一緒に帰ろうな」 「うんっ」 優しい笑みを浮かべナルトはヒナタにそういうと、最高の笑みを返してくれる愛しい人の頬に口付け、瞬時に消えてしまう。 既に目で追うことの出来ないスピードで移動したナルトを思い、ヒナタは目を閉じる。 【必ず帰ってきて……】 【ああ、約束だってばよ!】 すかさず返ってきたナルトの言葉に、ヒナタは優しい微笑を浮かべつつ胸を押さえる。 きっと約束は果たされる、それを信じながら…… |