24.兵器 タガウに拳を叩き込んだナルトは、奇妙な違和感を覚えていた。 確かにダメージは与えているはずなのだ。 なのに、何故か相手のダメージの蓄積が見えない。 (まるで、オレと同じ人柱力を相手にしてるみてーだ) 尋常とは言えない回復力。 それでも攻撃を受けながら回復など出来るのかと、ナルトは眉根を寄せた。 すでに人柱力と呼ばれる者は、ナルトとキラービーの二人しか存在せず、他の者達は暁に尾獣を抜き取られ一尾を宿していた我愛羅を除き皆死んでしまっている。 (クラマ、あんなオレみてーな回復力がある連中って、他にいんのかよ) 『存在するワケなかろう。あの日向の娘以外、今や存在はせん』 (ヒナタ?) 意外な人物の名前を聞いて、ナルトは思わず首を傾げる。 理解しているようでしていないナルトに対し、九喇嘛は邪魔くさそうな顔を一瞬したが、仕方ないとばかりに説明を始める。 『お前がワシと共に注いだチャクラは、その者本人の回復力と生命力を高めるもの。あの娘の中にチャクラがとどまっている間は、お前並とはいかんが、常人より回復力は上だ』 ナルトは攻撃する手を休めず、それでも頭の中はフル回転していた。 超回復を持っているのはヒナタ。 そして、その兆候を見せているのは、目の前のタガウ。 二人に接点があるとするならば……と考え、ナルトは奥歯を噛みしめた。 『あの娘の刻印……もしや、あの男に繋がっているのではないだろうな』 ナルトが考えてことを、ドンピシャ言い当てるように言う九喇嘛に対し、ナルトはピキッと額に青筋を立てると呻く。 (……っくそ!むかっ腹たってきた!!) 『何を言っとる、さっきからずっと怒りっぱなしではないか』 ヒナタが自分以外の誰かのものだと主張されているようで、イライラしはじめたナルトを鼻で笑った九喇嘛は、ジッとヒナタの方を観察する。 苦しげに眉根を寄せる姿は痛々しく、体は細かく震えていて、生命力と回復力を根本から底上げされているとは到底思えない。 『だが、もし日向の娘の中に注いだワシらのチャクラを奪い取っているにしては、あまりにも少ない、いや、回復力そのものが還元されているようには見えん』 (つまり……) 『ああ、お前も考えておる通り、こやつ……何かある』 普通ではないのは風体だけでなく、気配からも感じ取れる。 ヒナタに固執しているのも理解できた。 (ヒナタを見る眼がオレと同じだからわかる……だが、何だ?時々……その眼がぶれる) ナルトは奇妙な違和感を目の前のタガウから感じ取っていた。 異様なまでの回復、だがそれだけでは説明がつかない何か。 その糸口が見えかけたその時、ナルトはハッと息を呑む。 タガウが手にしている何か見慣れない物体。 それが異様な気配を放ち、ナルトと九喇嘛に不快感を与えた。 「……くっ」 慌てて離れたナルトは、タガウが手に持っているモノを凝視し、そして顔を苦しげに歪める。 知らず知らずの内に呼吸があがり、腹の中の九喇嘛の声が遠くに感じ始めた。 (お、おい!クラマ!) 『ぐ……ぐぅ……アレは……なんだ……くっ、クソ!ナルト変われ!!』 (オッス!) 青い瞳が赤くなり、瞳孔が縦に割れる。 そして、その瞳のままナルトではない声が漏れ始めた。 「日向の娘……いや、ヒナタ、お主はここから早く離れよ」 「え……」 ナルトの顔で、ナルトではない声でそう言われたヒナタは、それが九尾の九喇嘛であると瞬時に理解し、ジッと見つめる。 「ど、どうして……ですか」 「お主の体から、あの男へワシらのチャクラが流れ込んでおる!ナルトが冷静でおれんのもあるが、ワシも面白くない!それと、あやつが持つ石……奇妙な力……が……ワシの意識が保っておれん……」 苦しげに顔をしかめ、それでも何かを必死に伝えようとした九喇嘛は、タガウにより遮られる。 「やはり、尾獣……持っていて良かった。役にたつものだ……」 タガウがいびつな笑みを浮かべながら言うと、ヒナタを見つめる。 「お前の中のチャクラは極上だ、回復を早める……なかなかにいい」 「ナルトくんと……クラマさんがくださった、大切な……想いのこもったチャクラを……」 唇を強く噛みしめ、悲しみに顔を歪ませるヒナタを見て、九喇嘛は眉根を寄せてタガウを睨み付けた。 真紅の瞳はこれ以上とない程獰猛。 そして、怒りに満ち溢れていた。 「ヒナタを悲しませることはナルトだけでなく、ワシも許さん」 剣呑な色を宿し、タガウを威嚇すると、次いでヒナタへと視線を向ける。 その視線の優しさは、ナルトを髣髴とさせたが、やはり違うのだとヒナタは感じながらも、その優しさをくれる九喇嘛に対し喜びを表す。 ナルトと九喇嘛は表裏一体。 離れることはかなわぬ存在。 「悲しむな、そなたのせいではない。それよりも、この胡散臭い奴をワシとナルトで八つ裂きにしてくれるわ!ヒナタは養生しておれ!!」 それと同時に、尻尾が器用に動き襲い掛かってきていたタガウに攻撃を食らわせる。 拳よりも尻尾の攻撃を得意とする九喇嘛らしい対応の仕方であった。 (オレはクラマほどうまく尻尾使えねーもんな) 何事も慣れだな……と胸中で呟けば、再び九喇嘛の苦しげなうめき声が聞こえ、ナルトは心配になって九喇嘛を見上げた。 苦悶の表情。 限界なのだとそれで悟ったナルトは、体の主導権を己で戻すと、腹の底で強制的に眠らされようとしている九喇嘛に話しかける。 (大丈夫か?九喇嘛) 『尾獣モードが解ける……それに伴い、ヒナタの中のワシのチャクラも……弱まってしまう』 (……覚悟しろってことか) 『ああ、殺されるやもしれんな』 へっとナルトは笑って見せると、九喇嘛もニッと笑う。 『ヒナタに殺されるなら、致し方あるまい』 (だな……だけどよ、それはヒナタがオレたちに望むなら……だ、他の誰かの意思で動かされてってのはナシだぜ) 『確かにその通りだ』 (それにさ、打開策、あるぜ!) 『……期待しておるさ』 (ああ、だから気にしねーでくれよ、クラマ) 九喇嘛の意識が徐々に闇に飲まれるのと同時に、ナルトの尾獣モードが解け始める。 そして、完全に尾獣モードが解けたナルトは、ジッとタガウの持つ不可思議な色の石を見つめた。 「ソレがクラマの苦しみの原因かよ」 「対尾獣兵器……完成したのは、ついこの前だ……」 「お前はやっぱ手加減ナシにぶっ飛ばす、オレの大事な奴二人を苦しめやがったからな……」 ふるりと奮える拳と、その瞳。 ナルトは九喇嘛の何も出来ず眠らされる無念と、ナルトを追い詰める原因だと知って、あの柔らかな唇を血が出るんじゃないかというほど強く噛みしめるヒナタの苦しみを感じ、荒れ狂わんばかりの心を何とか鎮める。 そう、怒りを爆発させるのは、今じゃない。 言い聞かせるように内心呟くと、ナルトはゆっくりと息を吐いた。 |