22.邂逅




 木ノ葉まであともう少しという距離になって、カカシは一旦立ち止まる。

「あれは……」

 カカシの言葉に呼応するかのごとく鳥は空をくるりと旋回。

「ナルト……」

 それから、超獣戯画から生み出された鳥は、真っ直ぐサイの元へ戻る。

 サイはその足にくくりつけてあった暗号文ををシカマルへと渡しつつ、ナルトに声をかけた。

「ああ、どうやらこっちへ向かってるみてーだな」

 ヤマトからの知らせの鳥を見て、カカシとナルトが頷き合うと、ナルトはヒナタの目を見つめる。

「補給……しとかねーとな」

「う、うん……お願いします……」

「こっちは報告の詳細把握と、少々トラップをしかける、二人はそっちにいてくれる?」

 カカシの言葉に頷くと、ナルトは腕の中にヒナタを抱いたまま大きな樹へと飛び上がり、そしてシカマルとカカシとサイとシズネの作業を見ながら小さく息を吐く。

 戦いの気配を色濃く感じ、腕の中の確かなぬくもりが狙われている事実に苛立ちを覚えた。

 大事に守りたいと思う者を奪うその者に対しての怒り、そして何としても守らなければならないという思い。

 ふぅっと息を吐いてから、新鮮な空気を吸い、そして腹の底から九喇嘛とあわせもったチャクラを練りだす。

 尾獣モードに入ったナルトを、カカシとシカマルが一瞥し、頷くと二人は再び作業へと戻る。

 腕の中に抱えていたヒナタを下し、太い樹の幹へと押さえつけるように立たせると、ヒナタの顔の横に手をつき覆いかぶさるように顔を近づける。

「ぜってー守る」

 間近で囁かれる熱の篭った言葉に、ヒナタは潤んだ視線を向け頷くと、優しく微笑んだ。

「ん……ナルトくんを、信じてる……」

「ああ、オレもお前を信じてる」
 もう何度も口付けた柔らかな唇なのに、重ねてもいいのかと一瞬迷いが生じ、ジッとヒナタの唇を見つめる。

 するとそんなナルトの迷いを悟ったのか、桃色の唇がわずかに開き、ナルトを誘う。

 甘い吐息がふっと漏れたのを皮切りに、思いの丈をぶつけるような激しい口付けをヒナタへと贈り、その唇の柔らかさと甘さを己のソレで感じうっとりを目を細める。

 重ねるだけでは足らず、貪るだけでも足らず、全て喰らいつくすような激しさ。

 樹の幹とナルトに挟まれ、体は戦慄くが、重なる体から感じる熱が言いようのない甘い疼きを産んで、それをヒナタの芯へと響かせる。

 まるで脳まで溶かされる様な甘い熱が徐々に競り上がって、体の奥から苛まれたヒナタは、ガクガクと膝を震わせ腕を伸ばし必死にナルトにしがみついた。

 重なる唇から漏れる甘い声と、吐息すら貪られ、チャクラ譲渡だと言うにしては情熱的なソレは呼吸するのも困難。

 ヒナタはひくりと体を震わせる。

 ナルトの手が何かを確かめるようにヒナタの首筋を撫で、いつもの服装の上着のジッパーを少しだけ下した。

(えっ……な、ナルトくん?)

 戸惑ったヒナタの思考を伝えたのだろう、どこか楽しげに笑うようなナルトの心が伝わり、ヒナタは余計混乱したように口付けに集中できず、ナルトの手を意識する。

 ナルトの大きく節だった手がゆっくりとヒナタの首筋を撫で、ぴくりとヒナタが反応を返した場所でピタリと止まった。

 そして、もう一度確かめるように指を滑らせる。

【や……な、ナルトくんっ】

【へへっ、みーっけ】

 物凄く上機嫌なナルトの声を聞いて、ヒナタは何が?と首を傾げるイメージをナルトに伝えれば、彼は嬉しそうな思念を返してきた。

 最初は心の声だけであったのに、段々伝わるものが多くなっていっている気がして、ヒナタは腕輪を意識した瞬間、再び撫でられぴくんっと素直な反応を返す。

 くすぐったい……というには、何かが違うと率直に感じるそこは、ナルトのお気に入りらしく、何度も撫でてその度に口付けも深まる。

 ナルトの舌がヒナタの舌を追い求め絡める、そんな行為の最中でさえ、指は丹念に首筋を撫でていくのだ。

 脳では処理しきれない感覚が増え、ヒナタは白い喉を逸らせて軽く仰け反った。

 そんな艶姿を見たナルトがごくりと喉を鳴らしたとしても、誰が責められよう。

 ただ、こんな時にすることではないのは確かである。

『時間が無いぞ』

 腹の底から聞こえた声に、ナルトは小さく溜息をつきたい気持ちで一旦気持ちを切り替えるために唇を離すと、銀糸がつながり指で切る。

 ぺろりとそれを舐め取ったナルトは、ニヤリと口元を歪めて笑うと、今度は高密度に練り上げたチャクラを乗せてヒナタの唇にもう一度喰らいついた。

「んっ……んぅ……」

 小さく漏れる声と、震える体。

 濃密なチャクラに体内チャクラが反応しているのだろうとわかってはいるが、ここで手を緩めるワケにもいかず、ナルトはより体を密着させるが、完全に力の抜けたヒナタの体は幹を伝いズルズルとへたり込んでいく。

【逃げんじゃねェよ、ヒナタ】

【だめ……力が……抜けて……】

 ナルトも唇を離すまいと追いかけ、終いには木の枝の上で座り込んでしまったヒナタに屈み込んで口付け、もう逃げ場の無くなったヒナタを追い詰めた気分で思う存分注ぎ味わう。

 全身から溢れ出すチャクラを全てヒナタへ注ぐように捧げると、ナルトは長い口付けを終えてホッと息をついた。

 間近で見詰め合う二人。

 そんな中、ナルトがニヤリと笑みを作った。

 何かを企んでいる笑み。

「な……ナルト……くん?」

「ここ……だよな?」

 するりと滑らされた指にぴくりと反応を返したヒナタは、己の首筋をジッと見ているナルトの視線から逃れるように身を捩ると、その指がそのまま下へ下りて、上着のジッパーをもう少し下げた。

 はずされる額宛と、露出する首筋……。

 意図する事がわからず、ヒナタは首を傾げそうになった瞬間、ナルトの顔が近づき、また口付けされるんだと目を閉じればいつまで経っても唇に優しい口付けは来ず、首筋に湿った熱を感じた。

「……え?……あっ」

 濡れた水音を首筋で聞いたヒナタは、それと共に競り上がってくる何ともいえない感覚に喉を反らせ声を漏らす。

 指で撫でられただけで腰から来るような疼きを感じた場所、そこをナルトの舌が這っているのだ、その強烈な感覚に、ヒナタは悲鳴を上げそうになり慌てて自分の手で口を塞いだ。

「んっ……んんっ」

 くぐもった声が漏れ、ヒナタは恥かしくて泣きそうになりながらも、ナルトが何かの意図を持って行っている行為だと分かるが故に、黙って好きにさせる。

 暫く続いていた感触が消え、続いて強く皮膚を吸い上げられる感覚に息を呑むと、ちりっと痛みを感じて目をギュッと閉じた。

 痛みを感じた場所を、再びぺろりと舐められたヒナタは、ゆっくり涙の滲む目を開き、目の前で優しく微笑むナルトを見つめる。

「すっげー色っぽいな」

「も、もぉ……ナルトくんっ」

「へへっ、オレのもんって証」

「……うん」

 自分からは見えないが、その色づき具合に満足そうに目を細めたナルトを見て、ヒナタはしょうがないなと笑う。

 ナルトのものであるのは間違いがないのだから……と。

 ゆっくりとした動作でヒナタの額宛を首に巻き、それからジッパーを上げてナルトは嬉しそうに微笑む。

「ヒナタ」

「なぁに?」

「一緒に戦おうな……オレとお前、共に戦おう」

「うん」

 指を絡め合い頷きあう。

 そして、神聖な誓いの様に触れるだけのキスをして、二人は微笑み合った。

「んじゃ、オレは影分身を呼び出すってばよ。ヒナタにいっぱいチャクラ注いだから、カラッカラだ」

「ご、ごめんね……」

「何言ってんだってばよ。オレ以外のヤツから貰うなんてありえねーだろ?だったら、コレは必要な事だって」

「……う、うん」

 少し照れたような笑みを浮かべるヒナタの頬に、ちゅっと軽く口付け、ナルトはヒナタを抱えて地面に着地すると、罠を張り終えたのかシカマルが近づいてきた。

「そっちも終わったのか」

「ああ、シカマルの方も終わったか」

「まーな……ヒナタ、お前大丈夫か?足腰……震えてるぞ」

「え、えっと……う、うん……だ、大丈夫……かな?」

「ナルト、もうちょっと手加減してやんねーと、ヒナタにはキツそうだぜ」

 呆れたようなシカマルの声に、ナルトは視線を逸らせて口を尖らせる。

「ヒナタが色っぽいのが悪ぃーんだよ」

「お前の自制心の無さが問題だっつーの、めんどくせーな」

「無理言うなよ!襲わないだけマシだと思ってくれってばよ!」

「いや、今襲うとかありえねーだろ」

「で、でもさでもさっ!」

「この件が終わったら襲うなりなんなり好きにやりゃーいいだろ?それこそ、止めやしねーし」

「おう!」

「し、シカマルくんっ!!」

 真っ赤になって抗議の声を上げるヒナタに、シカマルはニヤリと笑って答えた。

「長年の思いが叶ったんだ。それくらいいいじゃねーか」

「で、でも……そ、その……は、はず……恥かしいよ……」

「オープンスケベの彼氏持った事を恨め」

「あうぅ……」

 何とも言えなくなったヒナタに対し、シカマルは苦笑を浮かべると横でニヤニヤ笑っているナルトを見た。

 ナルトは何かの気配が近づいてきているのに気づき、巻物を出してすぐさま口寄せを行い、影分身の自分を呼び出した。

 ぽふんと軽快な音を立てて現れた瞑想中の影分身に対し、印を解くと、そのチャクラがそのままナルトへと還元され仙人特有の縁取りが現れる。


「……見つけた……今度こそ……」


 不気味な声が間近で聞こえ、ヒナタは「え?」と振り向こうとした瞬間、ナルトの腕がヒナタの真横を無造作に突き、空を切る音がヒナタの耳に届くと同時に鈍い音が響いた。

「テメーにやらねェよ」

「お前……邪魔だな……」

 にらみ合う二人。

 空いた方の手でヒナタをシッカリと抱き寄せたナルトは、男の目に明らかなる憎悪の念を見て口元に笑みを浮かべる。

「お前にヒナタは勿体無ェ……それに、コイツはオレのだ」

 強く吐き出された言葉に不快感を露にした真紅の髪の男は、ナルトを睨みつけながらも口元を歪めていびつに笑うのであった。






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