20.遭遇 むせ返るような緑の香りと土の匂い。 体を過ぎていく風の感触。 全身で感じる、外の空気。 足の裏に感じる木の枝のしなりと、ザザッと葉が揺れる音。 久しぶりだなと思いながらも、ナルトは腕の中のぬくもりを大事そうに抱えてひたすら走った。 前方にカカシ、後方にシカマル、右にサイ、左にシズネというフォーメーションを崩さずに、木ノ葉の里を目指している一行は、件の家から出てすでに半日が経過していた。 もうひとグループが敵と遭遇したという連絡もないという事は、今のところ平穏無事に里に近づいているようである。 既に火の国の国境は越えていた。 念の為に、シズネがヒナタの刻印の上から感知避けの術式をかけてはくれたが、どこまで持つかはわからない。 一同がそれぞれ不安を抱えつつも、己に出きる最大限の力を出し切ることを心に留めつつ、何気なく揺れる蒼紫色の髪を見つめる。 ふわりと揺れる髪はナルトの額宛の紐と絡むようでいて、何故か二人の結びつきが強いのだと、たったそんななんでもない光景ですら感じることができた。 不思議な感覚を味わいながらも、4人は真剣な表情で感覚を研ぎ澄ませ走るナルトを伺った。 全身から感じるチャクラは高純度に研ぎ澄まされており、普段のナルトとは明らかに違う。 「ナルト、あと少しで木ノ葉だ」 「おう」 シカマルの声に返事をすると、ソッと腕の中のヒナタに視線を向ける。 彼女は淡く微笑むと、コクリと頷く。 移動だけでも体力がかなりそがれていくらしく、ヒナタの体からどんどん生気が失われていくようで、ナルトはかなり焦っていた。 だが、そんな素振すら隠し、本当に辛いのはヒナタなのだと言い聞かせ、急く気持ちを押さえ込んでヒナタの為に最良の結果を出さなくてはと決意を新たにする。 奪われるなんてことはあってはならない。 やっと手に入れたぬくもりであり、己の光。 愛するという気持ちを教えてくれた、大切な女性。 全身全霊で守りたい、愛すべき女。 失うと考えるだけで恐ろしいと、心が軋む。 (ヒナタだけは失えねェ……それがどんなことであろうともだっ) ギリッと奥歯を噛み締めて、ナルトは少し速度を上げたカカシについてひた走る。 今は走る事しか出来ないと分かっているからこそ、ナルトは思う。 【お前を、誰にも奪わせねェよ】 伝わる心の声は、熱い思いを乗せたまま、ヒナタに届き、彼女からも優しい心の声が届く。 柔らかくあたたかく優しい、名前の通りのひなたのような心の声。 【……ナルトくん、ありがとう……でも、無理しないで?心を痛めないで……私はここにいるよ】 そっと胸に添えられる手と、預けられる額。 心の奥底から湧き上がる喜び、そして愛しさ。 それが今のナルトの全てであり、これからへの活力だと思えた。 その時である、一行の上にピィッと墨の体を持つ小鳥が小さな声で鳴いた。 「……接触したか」 カカシの言葉に一同が頷く。 緊張感が一気に駆け抜け、ナルトの目がキリリッとつり上がる。 「来やがったな」 餌に喰らいついた敵を思い、ナルトは見えない敵を睨みつけるように前方を見た。 ナルトたちよりも少し早めに出発したヤマトたちの現在地を考えると、木ノ葉からそんなに離れていない場所で網を張っているのだと知ることが出来た。 【みんな……どうか無事で……】 ヒナタの祈りの声を聞きながら、ナルトはヒナタを抱く腕に力を篭めた。 「大丈夫だ、あいつ等はそんじょそこらの奴とは違うからな!激マユ先生もいることだし!」 「そうそう、ガイがやられるってことは中々ないよ」 「あの班の戦力は並じゃねぇよ」 「そうね、サクラもいるし大丈夫よ、ヒナタさん」 ナルト、カカシ、シカマル、シズネに励まされるように言葉をかけられ、ヒナタは涙が滲みそうになるのを必死に堪えながら頷いた。 「大丈夫だ、オレがいる」 顔を傾け、ヒナタの頭に頬を載せたナルトは、前を見据えたまま姿の見えない仲間たちに向かって声をかける。 (頼んだぜ!みんなっ!!) ナルトの心の声が聞こえたかのように、上空の小鳥が一声鳴き、澄み渡る青い空をくるりと旋回するのであった。 |