11.腕輪 はふ……と、どちらとともなく漏れた甘い吐息。 「本当は、全部奪っちまいたい……でもさすがにココじゃな」 任務帰りのヤマトが作った家。 里でもなければ、ナルトのアパートでもないのだ。 苦笑を浮かべたナルトは、ヒナタに照れくさそうに笑いかけたあと、ヒナタの乱れた服装を整えつつ、まだ熱い吐息をついた。 「う、うん……ココでは……だね」 「ああ、だから帰ったら、覚悟してろってばよ」 射すくめるようなナルトの目を見つめながら、ヒナタは素直に頷いた。 望んでいるのはナルトだけではない、ヒナタもそうなのだと言外にそう言いあらわした様子に、ナルトは満足げに目を細めると、約束の証のように唇をついばんでから、笑う。 「忘れたってのはナシだぜ」 「う、うん……な、ナルトくんも……だよ?」 「オレが忘れるワケねーってば。今してーくらいなのにさ」 ぺろりと自らの唇を舐めてヒナタを見るナルトの視線は、色気そのものであり、今のヒナタには正直刺激が強すぎる。 (ナルトくんって……すごく色っぽい時あるよね……わ、私……女だけど……ま、負けてる気がする……) 憂いに満ちた溜息をつくヒナタの色っぽさに、ナルトの理性という理性がグラグラ揺れているなど露知らず、ナルトが聞けば『これ以上色っぽくなったら、今襲う!すぐ襲う!てか、誰がきても関係あるか!』とでも言いそうなことを考えていた。 自分を知らないとは、本当に罪である。 ヒナタの衣類の乱れは直したものの、濡れた唇と熱く潤んだ瞳はそのままで、互いに熱の余韻に浸ってしまう。 身体を起こして床に座り、ヒナタの身体を背後から抱きしめる形で落ち着いたナルトは、フッと百鬼の国の若に貰ったモノを思い出して取り出す。 小さな袋の中に入っていたのは、腕輪であった。 「何か石のついた腕輪?んーと、何々?この腕輪を互いに着けあうべし、その際、相手の腕輪を装着すべきことを条件とす……ふーん?」 「何の条件だろう」 「んー、ちょっと待ってくれってばよ」 後ろからヒナタを抱きかかえヒナタの肩に顎を乗せたナルトは、お互いが見えるように説明書を出して見る。 どうやら百鬼の国の国宝級お宝扱いのアイテムらしく、百鬼の国の若が書いたにしてはとても丁寧な説明書であった。 つまり、この腕輪を、ナルトがヒナタに、ヒナタがナルトに装着することを条件に、互いのチャクラが反応して離れていても、お互いの声や思いが伝えたいときに伝えられる、以心伝心の法術がかけられた神器と呼ばれるものだそうで、若と姫が使っているもののスペアだという事であった。 あの混乱の中、氷雪の国の姫がパニックを起こさず気丈にいられたのは、コレがあったためだったのかとヒナタは納得し、陰ながら姫を支えてくれた若に今更ながらに感謝する。 「……んと……じゃぁ、オレがヒナタにつけるな」 「う、うん」 「左、右、どっちがいい」 「んと……左……かな」 「んじゃ、オレも左で頼む」 二人はそれぞれ同じデザインの腕輪を、互いの左手首に装着させると、僅かに痛みを覚えた。 何か針のようなものが刺さったような、そんな痛み。 「……なんだ?」 「な、なんだろう……」 ちくりとした痛みを感じただけで、後は別段何も感じることもない。 「何かの契約みてーなもんか?」 「か、かな」 熱っぽい身体を背後から抱きしめていたナルトは、その腕輪の使用方法に書かれていたことを試してみようと、頭の中で念じ腕輪を額に押し当てる。 【ヒナタ、大好きだぜ】 「っ!?な、ナルト……くん?」 「あ、伝わったってば?ヒナタも、何か言ってくれってばよ」 「う、うん……」 ヒナタも驚きつつ、ナルトがしたと同じように頭の中で念じ、腕輪に触れた。 【わ、私も、大好き……】 脳にダイレクトに響く甘い声に、ナルトはノックアウトされたように項垂れ、そしてヒナタに背後から覆いかぶさるように力を抜く。 「な、ナルトく……んっ、つ、潰れちゃうよぉ」 ぐぐぐっと背後からの重みに、ヒナタが思わず悲鳴を上げると、ナルトは困ったようにヒナタの耳に唇を寄せ呟く。 「すっげー……ヒナタの声、色っぽくて甘いってばよ」 「そ、それは、私も同じだもん……ナルトくん、すごく甘い声なんだもの……くらくらしちゃうの」 「オレも、クラクラしちまう……このまま襲いてーくらい」 ぎゅぅぅっと抱きしめられ、ヒナタは息苦しさに喘ぐが、ナルトはご満悦のようでへへっと笑った。 ナルトの足の間に、同じように足を投げ出すように据わっていたヒナタは、負けじとナルトの方へと身体を倒し、体重をかける。 すると、ナルトはそれが嬉しいのか、更にぎゅうぅっと抱きしめ、ヒナタの首筋に顔を埋めた。 「も、もぉ、ナルトくん、そ、そろそろ離れないと……」 「んー……なんか勿体ねェ……」 「で、でも……」 困ったようなヒナタの声、理由は判っている。 近づく気配があるのだから、この体勢のままではいられないだろう。 ナルトは唇を尖らせ、むーと子供のように唸り、掠めるようにヒナタの唇を奪ってから立ち上がる。 「また後でな」 「う、うん……」 どこか甘い雰囲気を残しつつも離れた二人は、足元へ移動して刻印を再び確かめているナルトを見つめた。 包帯の下に隠されたその刻印。 (ナルトくん意外の所有の証……嫌だよ……) ヒナタの瞳にある哀しみの色を見たナルトは、傷口に見えるその刻印の上を撫でてから、ゆっくりと屈み、口付ける。 「な、ナルトくんっ!?」 「…………」 ちゅぅっ……と音を立てて皮膚を据われる感触に、ヒナタは足を引っ込めようとしてしまうが、これまたナルトが押さえ込み、逃してくれそうにはない。 「んっ……」 少しの痛みを覚えるくらい、強く吸われたその場所は、刻印がかすむくらいの鬱血した痕を残した。 「チッ、全部消えねェか。でも、ここにあるのは、変態の所有の証だけじゃねェからな。オレの所有の証を刻んで、上から塗り替えてやったってばよ」 ニシシシと悪戯が成功した少年のような笑顔を見せてくれるナルト。 ただ、少年がすることがない部類の悪戯ではあるが…… 「ナルトくん……」 「嫌だったか」 「ううん……ありがとう……ナルトくんの所有の証なら、いくつでも欲しいかもしれない」 心に思いつくままいった言葉の、その重大性に気づいていないヒナタに、ナルトは軽く眩暈を感じながらも『勘弁してくれ』と内心呟く。 身体のあちらこちらに、これほど強くではないが所有の証をつけたくなってしまう。 体を重ね、所有の証を刻み、オレのもんだと主張する。 (早くそんな時がくればいいな……) 見つめあい笑い合う、二人のその姿は無邪気そのもの。 先ほどまでの艶のある姿を誰が想像できただろうかというほどである。 鬱血した痕を愛しげに触れながら、ヒナタは微笑む。 (私は、ナルトくんのもの……) ヒナタは心の中でそう呟く。 どうやら相手を強く思う心は腕輪を通して伝わってしまったようで、ナルトが僅かに顔を赤くしてヒナタを凝視し、そして笑った。 【ああ、ヒナタはオレのもので、オレはヒナタのものだってばよ】 愛しい人の声を聞きながら、ヒナタはすぐそこまで来ている人たちを待った。 きっと何かが動き出すのだと感じながら…… |