氷炎、湖面に浮く。 | ナノ


今まで隠していてごめんなさい、と頭を下げると、3人とも笑いながら気にするな、と言ってくれた。学校の人たちにはできるだけバレたくないので、男として接してほしい、と続けると彼らは喜んで承諾してくれた。コージくんといい、彼らは本当にいい人たちだ。
それにしても、たった数ヶ月でここまでバレてしまうとは。私は相当詰めが甘いようだ、と改めて痛感する。

「いやー…それにしても○○が女だったどは…全く気づかんかったべ」

「そうかあ?俺は薄々気づいてたぞ。手ちっちぇーし、ゴツゴツしてなかったし」

「それは、○○ちゃんの手を握ったことがあるっちゅーことだっちゃ?」

「握ったっつーより、握られただな」

「えっ!?な、○○ちゃ…!」

「…あー、あの時?アラくんがシンタローくんの手をやけどさせた時、私の手冷たいから気休め程度になればいいなーって、ギュッてやっただけだよ」

「お前、動揺しすぎだろ…」

アラくんは、私の手をぎゅううっと握りながらシンタローくんを睨む。最近のアラくんは、なんだか変だ。

「あっ僕からも質問いいだらぁか?」

「え、質問?うん、いいけど…」

「○○ちゃんとアラシヤマって、やっぱり付き合ってるんかいな?」

トットリくんがあっけからんとそんなことを言い出すので、私たちは文字通り目が点になった。じわじわと顔に熱いものが集まってくる感覚がする。
チラ、とアラくんの方を見ると、彼は私とは比べ物にならないくらい赤くなっていた。

「えっ…な……そん、そんなこと……あ…」

「あはは、それはないよー、絶対ない。アラくんとはただの幼なじみだもん」

「なーんだ、そうなんだらか。僕ぁ、てっきり付きおうとるんかと」

「………ぜったい、ないどすか……そうどすか…」

「アラシヤマがおもしれぇくれえ落ち込んどるべ…」

「わかりやすい奴だよなあ…」

ミヤギくんの言葉に横を見ると、普段より1段と顔を暗くさせているアラくんがいた。どうしたの?と声をかけると、なんでもあらしまへん、とこれまた1段暗い声で返ってきた。

「ふーん…?変なアラくん」

「・・・○○って鈍感だよな。タチわりぃ方の」

「え、なんで?」

「第一あんなプロポーズみたいなこと言われとんのに、なんも思ってない方がおかしいべ」

「へ…?プ、プロポーズ?」

「ほら、巨万の富を得ようともー○○ちゃんのおらん人生なんてーって」

「えっうわ、うわああぁ!ちゃいます!ちゃいますって!!それはそういう意味で言うたんやあらしまへんッ!」

落ち込んでいたアラくんがいきなり立ち上がって大声を上げるのでうるせぇ、とシンタローくんに殴られてしまった。そんな様子を眺めながら、クスクスと笑っているとお腹からグゥ、と情けない音が聞こえた。
そういえば、晩御飯を食べるのをすっかり忘れていた。もう食堂も閉まっている時間帯だろう。お腹を抑えながら赤面していると、シンタローくんが思い出したように声をあげた。

「あぁそうだ。○○におみやげ持ってきたんだった」

「へ…おみやげ?」

シンタローくんはごそごそとポケットを漁ると、そこからは見覚えのある私の大好きな物が顔を見せた。

「あー!プリンだ!」

「お前、プリン好きだろ。これで元気出せって言おうと思ってたんだよ」

シンタローくんからプリンとプラスチックのスプーンを受け取ると自然と笑顔になった。ありがとう、とお礼を告げると、彼は少し目をそらしながらおう、と呟いた。

「シンタローのやつ、○○の好きなもんいろんな人に聞いて回ってたんだべ?」

「そうそう!あんな必死なシンタロー初めて見たっちゃ」

「ばっ…!てめえらっ言うなバカ!」

「な…○○ちゃんは渡しまへんでシンタロー!」

「そういう意味じゃねえよッツ!」

シンタローくんがトットリくんとミヤギくんの頭を叩き、アラくんの発言に反論したところで4人の取っ組み合いが始まってしまった。アラくんも、仲良くなった、とは言えないかもしれないけれど、彼らに馴染んではきているようだ。
小さく息を漏らす。私一人で彼らを止めるのは無理だろう。彼らを見ながら、こんな日々が続けばいいと、私はプリンの蓋を開けた。


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