氷炎、湖面に浮く。 | ナノ


「お願い…このことは誰にも言わないで」

ギュッと彼の手を握りながらそう言うと彼は少しギョッとしたような顔をした後、ゆっくりと頷いた。私はホッと息を吐いて彼の手を離す。彼の事だ、きっと約束は守ってくれるだろう。
水を吸い込んだ服をもう一度搾っていると、上からバサリと布を被せられた。どうやらここの施設に備え付けられているタオルのようだ。
お礼を言い、頭を拭く。ブルル、と一つ身震いをした。少し冷えてしまったようだ。早くシャワーを浴びないと風邪をひいてしまうだろう。
同じように頭を拭いていた彼に断りをいれ、私はプール場から出た。


タオルを肩にかけたまま小走りで部屋へと向かう。くしゅん、と小さなくしゃみを一つする。もう風邪を引き始めているのだろうか。今日はとても暑いはずなのに、体中が寒く感じた。これは、私の特異体質ともなにか関係があるのだろうか。
急いで寮に入ろうと玄関をくぐった瞬間、ドンッと誰かにぶつかってしまい、私は尻餅をついてしまった。

「いたた…す、すみません!」

「おお、別に大丈夫だ…あれ?○○でねーべか」

「あ…ミヤギ、くん?」

どうやら幸いなことに全く知らない人にぶつかったわけではなく、そこそこ仲良くしてもらっているミヤギくんとぶつかったようだ。横にはトットリくんがこちらを見ていた。ミヤギくんが大丈夫け?と言いながら手を差し伸べてくれたので好意に甘えてその手を受け取りその力で立ち上がった。

「ふぅ…ありがとう」

「これぐれえ大したことじゃねえべ」

「あれ、○○くん、えらいびしょびしょだけんど、何してたん?」

「あ…あはは、ちょっとプールに落ちちゃって」

プールぅ?と不思議そうな声で復唱した彼らにコージくんとキヌガサくんのことを告げると納得したような声を上げた。

「しっかし今からシャワー浴びるっつっても、もう昼休み終わんべ?」

「えっ嘘、そんな時間?どうしよう…」

「うーん…あ、僕にいい考えがあるっちゃ!」




カラン、と下駄の落ちる音がした。下駄の向いた面には「日でり」と書かれている。すると、私の真上にあった雲がもぞもぞと動き出した、と思えば、私のいる方向に向かって太陽の光のような熱いものがカッと出た。

「そん中にいればすぐ乾くっちゃよ!」

「わっほんとだ、もう乾いてきた!ありがとう、トットリくん! 」

「おめー、こげなすげーもん持ってたんだな!」

もうほとんど乾いた服を見ながらトットリくんにもう一度ありがとう、と告げると彼は照れたように頬を掻きながらにっこりと微笑んだ。

最後に彼らにお礼を言って急いで自分の部屋へと戻る。扉を開けると、すぐ目の前に自分の道具と、私の道具を持ったアラくんがいてつい驚きの声をあげてしまった。

「あ…遅かったどすなあ、○○ちゃん。もう次の授業が始まってまうさかい、○○ちゃんの道具も教室に持ってってあげようと思うてたから、すれ違いならんでよかったわあ」

「あ、ほんと?ごめんね、ちょっと取り込んでて…」

「そうどすか。はよいかんと遅刻してまうで。急ぎまひょ」

私に道具を渡して先に進んでしまうアラくんを急いで追いかけて隣に並んで教室へと向かった。なんだか、アラくんから少しよそよそしい雰囲気がした。


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