影山 飛雄
- ナノ -


戦線布告




「仲良いよなぁ・・・最近」
「ホント。憎たらしい程に」

とある日の部活の、休憩時間。
岩ちゃんとドリンクを飲んでいると、視界に入ってきたのは体育館の隅で事務作業をする、かわいいかわいい名前と−−−そしてその横で彼女の仕事を手伝う、にっくき影山飛雄。



「憎たらしいって、及川オマエ・・・俺は別にそんな事は思わねぇけど」
「ゴメン本音が出ちゃった」
「トオルちゃん、ハジメちゃん!はい、コレ」


こちらへ向かって歩いてきた名前が手渡して来たのは、保護者向けの連絡事項が書いてあるプリントだった。

「サンキュー、名前。皆の分コピーしたり纏めたりしたのか。大変だったろ」
「どういたしまして、ハジメちゃん。ううん、平気。影山くんも手伝ってくれたんだよ」

そう言って嬉しそうに笑う名前は、幼馴染ながら本当に可愛い。
そしてその後ろからひょっこり顔を出す、影山の姿。
俺は名前に笑顔を向け、そして影山を眉を寄せ睨みつける。
1年生が入部してきて数週間が経ち、だいたいの実力がわかってきた。コイツは、明らかに周りとは違う。
それに加えて、俺の知らない内に名前と仲良くなんかなっちゃって、面白くないったらありゃしない。

「・・・ねぇ名前、このプリントは?」
「え?トオルちゃん、どうかしたの。不備でもあった?」
「これは名前が纏めたプリント?飛雄のなら俺、受け取らないからねっ」
駄々をこねてたら岩ちゃんに殴られた。
俺はめげずに、名前に詰め寄る。

「名前、ずいぶんトビオちゃんと仲良くなったみたいだけど」
「そ、そうかな?他の一年生とも話すよ、今日はたまたま影山くんが手伝ってくれただけで…」
「ふーん?ねぇ、及川さんとトビオちゃん、どっちが好き?」
「・・・え?トオルちゃん、急に何言ってんの」
「当然、及川さんだよね?昔からずーっと一緒で、バレー部にも誘ったしお風呂も入ったし一緒のお布団にも入った及川さんだよね!?」
「ちょ、ちょっと!どうしてそんな恥ずかしいこと、こんな皆いるトコで言うの!?それに、ずっと昔の話じゃないっ」
「おいクソ川、いーかげんにしろ。名前困ってんだろ」

名前を可愛がってきたのはわかるけど、あんまり過保護にすると本人の為になんねーぞ。岩ちゃんが静かに言った。
…俺だってわかってるってば、そんなの。

でもさ、俺たちはもうじき卒業しちゃうんだよ。しかも名前ったら、青城じゃなくて烏野なんかに行くって言ってる。

子どもの頃からずっと一緒だったけど、幼馴染の色眼鏡を外したって、名前はどんどん綺麗に、可愛くなっていると思う。
俺のああいう態度は、ただ飛雄が気に食わないだけじゃなくてーー勿論それもあるけどーー名前に近寄る悪い虫の駆除で。だけど卒業したら、そんなのも出来なくなるし。




「名前さん。プリント、配り終わりました」

飛雄が少し居心地悪そうにしながらも、健気に名前を見上げてそう言った。
かわいい顔してコイツも、名前にひっつく新たな虫である。

「さ、名前。答えてよ!俺とトビオちゃん、どっちが好きなのか!」
当然、俺って答えるはず!飛雄を始めとした一年坊主達にわからせてやるんだから。
聞きながらもう勝ち誇った顔で、鼻息荒く俺は名前の返答を待つ。
「えぇ・・・今日のトオルちゃん、なんか変だよ・・・いや、いつもか。でも今日はとくに皆んなの前で嫌な事言うし、やたらと影山くんに絡むし。だから影山くんの方が好き」


は、はぁーー?

唖然とする俺。横で吹き出してる岩ちゃん。
そして飛雄は、「いつも手伝ってくれるし、トオルちゃんと違って素直で優しいよねぇ」なんてよしよしされて、頬なんか染めちゃってやがる。

「い、いいかーいトビオちゃん?これは名前の照れ隠しだから!出会ったばっかのオマエには分かんないだろーけど!それに、名前とお似合いなのも俺なんだからね」

俺は飛雄の頭から名前の手を払いのけ、彼女の手の心地を忘れさせるかのごとくグシャグシャに撫で回して宣言する。
周囲からの「大人げない」「後輩イジメんな」という批判が槍のように降り注ぐ。ふんっ、知ったことか。


「たしかに、及川さんと名前さんは、お似合い?っていうか」
ーーー何を言うかと思えば、飛雄は俺たちを交互に眺めて話した。
コイツ。嫌味に気付いてない?
「へえ、さすが天才トビオちゃん。見る目があるね」
「でも俺、背ならこれから伸びます」
「・・・ハァ?」

ケンカ売ってる?
眉を寄せて凄もうとするも、意外にも飛雄はキラキラと俺を見上げてる。

「俺、及川さんや、岩泉さんや…先輩達みたいになりたい!牛乳、いっぱい飲みます!」

ーーーは、はぁ!?
なんなのコイツ。
マジでピュアか?

本日二度目・愕然とする俺。さっき吹き出してた岩ちゃんは今度は声をあげて笑ってる。

「…背が伸びたくらいで俺に敵うと思ってんの。俺との方が名前とお似合いだって、トビオちゃん自分でも言ってたでしょ〜?」
「でもそれって、名前さんが決める事なんじゃ …」

・・・ナッマイキ!

言い返そうとした時、体育館に監督が戻って来て、練習再開の声が上がる。俺は仕方なくコートの方へ戻る。
…いけない。虫駆除のはずが、いつのまにかムキになってる。これじゃマジで大人気ない。

 にしても。もしかして、飛雄って…ホントに名前の事、好きになっちゃってる?

「ふっふっふ…負けないよー天才くん」

そう呟いて練習に戻る俺を横目に、岩ちゃんが深いため息を吐いた。









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