影山 飛雄
- ナノ -


出会い 3




ひょんな事から、スーパールーキーと呼ばれている影山くんの自主練に一緒に残って、そして二人で帰ることになった。

まだ4月とはいえ夜は、すこし肌寒くて。
でも空気が澄んでいて気持ち良い。
しかも後輩と一緒だなんて・・・なんか、嬉しいな。

今日みたいに練習を手伝だったり(?)、家まで送り届けたりだとかって、なんだかマネージャーっぽいなあ・・・なんて。いつもは雑用ばかりだから、ちょっと誇らしくて、胸がぽかぽかする。

そしてきっと、小さい頃からトオルちゃんやハジメちゃんといった年上に囲まれて育った私にとっては、年下という存在自体、新鮮なのかもしれない。


部内での影山くんは、私が素人目にみても周りの1年生とは実力が抜きん出ている感じがした。
それなのに今日もひとりで居残り練習をする、どうやらかなりの努力家みたい。

しかもその姿は、とっても楽しそうだ。
・・・いいなぁ。
あんなふうにきらきらしたカオでボールを追いかけて、それでどんどん上手になったら・・・きっと、楽しいんだろうなぁ。それとも、楽しんでるから上手になるのかな。




「あ・・・えっ、えーっと。名前さんはバレーのどんなトコが好きですか」



バレーが好きだと答えたら、なぜだかひどく動揺した影山くんは、頬を染めて私に聞いた。

「それはさぁ、やっぱりわくわくするところかなー」
「簡単っスね」

そしてまた、さらっと毒を吐く。
・・・影山くんのこと、勝手に爽やかな感じの性格かと思ってた。だけどこの子、結構ずばずば言うんだなあ。
本人に悪気が無いのがわかるから、全然嫌な気持ちにならないけど。




「・・・バレーって、すげえ!」
「え!?ど、どしたの影山くん、急に」


突然なにかのスイッチが入ったのか、瞳を輝かせて興奮ぎみに影山くんが叫んだ。


「だって俺はバレーって、やってて楽しいから好きなんだと思ってた。けど、バレーしない人でも、こんなにバレーが好きで!わくわくできるって、思わなかったです。だからやっぱり、バレーってすげえなあって!」



そっか、なるほど。
ふふ、影山くんって本当に、真っ直ぐにボールだけ追いかけてきた人なんだなあ。

ーーーその時の私にとって、そんな影山くんの姿は単純に魅力的だった。
彼はただただバレーが好きで。もっと上手くなりたい、強くなりたいと、それがバレーの全てだと信じて疑わないようだ。

そしてそれは、確かに真実ではある。
でもチームワークとなると、それだけでは無くなってくるのかも。

この時の私は、影山くんのその純粋な考え方が−−−脆さであり危うさだなんて、まさか、思いもしなかった。





「あと、名前さんもすごい!」
「え、わ、私?」
「自分はプレーしないのに、そんな風に“サポートするのが楽しい”って、バレーが好きって言えるのってすごいです」
「えっ・・・そ、そんなこと初めて言われたよ・・・」
「ほんとに、バレーが好きなんですね。俺も、すきです。一緒です」


なんだかよくわからないけど、影山くんにきらきらした瞳で見つめられるのは悪い気はしなかった。

・・・まさか今日、こんなふうにルーキーくんとお話ができるなんて思いもしなかった。

バレーって、すごい。・・・ほんとにそうだね、影山くん。
だって私たちきっと、バレーがなかったら出会ってなかったよね。

こんなにがんばりやさんで、上手になりたいって一生懸命な影山くん。
がんばってほしいな。私にできる事は何だろう?
出会って間もないけどそんなふうに応援したくなってしまう程、影山くんのバレーに対する姿勢は心動かされるひたむきさがあった。
私も今はまだ雑用ばかりとはいえ、一応マネージャーなんだから、なにか役に立てる事があるかもしれない。ううん、それを探さなきゃいけない。
・・・がんばろう。

自分にできる事を探して努力できたら、私もいつか堂々と自分を生きれるだろうか。…小さな巨人みたいに。
それから、影山くんみたいに。

頭ひとつぶん私より小さい彼を見下ろすと、目が合った。こんなに可愛いのに、私は彼を尊敬しはじめてる。
やさしく笑いかけると、彼はまた頬を染めて、プイと向こうを向いてしまった。









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