見てしまった。







それは自分にとって良くないどころか悪いこと。

知らない方が幸せだったこと。


















はっと目を覚ましたメロは、昨夜のことを思い出す。
いつもの通り、図書室で一人勉強をしたあとのことだった。
何の気なしにニアの部屋の前を通ったとき、リノの話し声が聞こえた。


リノがニアのところへよく行っているのは知っていた。
なんでニアなんかのところに…と思ったのは一度や二度ではなかったが。


だからその時も、最初は、普通に会話しているだけだと思っていた。

しかし、明らかに声の調子が違う。


いつものリノの声ではない、もっと官能的とも言える声。

そんなに大きく廊下に響いては居なかったが、ドアのすぐ前に立てば十分聞こえる大きさだった。


「リノ…?」

心臓が痛いくらいに鼓動した。


見たくないけど見たい。

自分の目で確かめなければ気がすまない。

思い過ごしかもしれない。



気づかれないように、そっとドアを開いて覗き見た。


──そこには、自分が最も想像したくない光景。


甘い声でニアの名前を呼ぶリノと、それに答えるようにキスをし、愛撫するニア。


見たことのない顔。聞いたことのない声。知らない体。



自分の心音がドクンドクンと、脳に響く。


信じたくない。




「あっ…な、なんかへん…っ、」



一際大きく喘いだリノの声で、我に帰る。
これ以上見てはいられない。
色々と限界だった。


メロは逃げるようにその場を去った。




「くそ…っ」


寝室で、他の三人が寝ている中、メロは今見た光景を消そうと奮闘した。



そして、今に至る。



どんなに嫌でも朝とは巡ってくるもので、メロの気分とは裏腹に、太陽が燦々と輝いていた。



「おはよーメロ。顔色悪くねぇか?大丈夫?」

「マット…大丈夫だ。」

「あんまそうは見えないけど、まっいーか。」

何やら鼻歌を歌っているマットは置いておいて、メロは廊下へ出た。


「リノ、ニアの部屋に居たの?朝ベッドに下ろした居ないからビックリしたわよ!」

「えへへ、ごめんなさい先生。ニアに勉強教えて貰ってたらそのまま寝ちゃって…」



リノの声。




「リノ…」


リノと話したくて触れたくて、名前を呼んだが届かない。

先にニアがリノに話し掛けた。


「すみません、手加減すれば良かったですね。」

そう言ったニアの横で、リノはカッと顔を赤くした。

「勉強の手加減ってことかしら?」

「えぇ、まぁ、そんなとこです。」


先生の問に平然と答えるニア。

リノは恥ずかしそうに、見えないようにニアの服をきゅっと引っ張った。






不愉快だ。





朝食の時間を告げる鐘が鳴る。
部屋から出てきた子供達はバタバタと食堂へ向かった。




「リノ、おはよう。」
「メロ!おはよー!」



にこっと明るく笑うリノ。
その声に安心する。

が、しかし。


「おはようございます、メロ。」


メロの最も気にくわない男、ニアもまたリノの隣に座っていた。


じっと、意味ありげに見つめられる。


昨日見ていたことがバレているのだろうかと、メロは少し狼狽した。

「あ、あぁ。」

メロは微妙な顔で適当に返事をした。
彼の頭の中は朝の挨拶どころではない。


「メロ──…」


ニアが口を開きかけたとき、先生の声が響いた。


「皆揃ったわね、それでは合わせて、いただきます!」

「いただきます!!」



ニアは口をつぐみ、食事の方へ向き直った。


「メロ、どうかしたの?」


リノが変な様子のニアとメロをみて、心配そうに尋ねた。


「いや…何でもない。」








朝食を済まし、各々授業まで20分ほどの自由時間となった。

ボールを持って走り回る子供達がいる廊下で、メロはリノを見つけた。


「リノ!」


「なーに?メロ。」


振り向いた彼女の髪が、ふわりと宙に浮き、それだけでメロの胸は高鳴った。


「あのさ…授業終わった放課後に倉庫の前に来れる?」
「うん、いいよ。…なんで?」
「話があるんだ。一人で来れる?」
「いけるよ!じゃあ、またあとでだね。」
「うん、あとで。」



リノはその身を翻し、教室へ入っていった。





授業が終わり、昼食も終わり、また授業が終わって所謂放課後。




リノは何時もならニアのもとへ行くのだが、メロと会うために、そそくさと倉庫へ向かった。


「メロ!おまたせ。話って?」
「…」

メロは視線を地面に落として、リノと目を合わせていない。

「…メロ?」

「──ごめん。」



リノはグッと腕を引かれて、倉庫の壁へ追い詰められる。
頬の横に、メロは手をついて、逃げ場を無くした。


「メロ…っんぅ…っ

塞がれる唇。
突然のことで、理解できず、されるがままになってしまう。

「んぅ──ん〜っ!!」

パシパシと、メロの背中を叩くが、一向にやめる気配はない。


「ッ……!め、ろっ…!」

やっと離されて、酸素を吸う。
苦しさのあまりに、涙が頬を伝った。

「リノ、昨日、ニアのとこで勉強してたって…嘘だろ?」

「え…な、なんで……」

「部屋に帰る途中見ちゃったんだ。」

「うそ………でしょ?」

首を横に振るメロ。


「リノは…ニアの事が好き?」

うつむいていて、メロの表情は読み取れない。
しかし、声が僅かに震えていた。

「……うん。」

「そっか…。」

「メロ…?」

「俺はここでも一番にはなれないんだな…」

メロは崩れるように、その場に座り込む。

「こんな状況で言うのも、変だけど……好きだよ、リノ。ずっと、前から。」

やっと顔をあげたメロの表情は、悲しい笑顔だった。


「メロ……」


そんなに悲しい顔をさせてしまうくらい、愛してくれたというのだろうか。


難しいことは、まだ子供なリノにはわからない。


だけど、メロの気持ちはしっかり伝わった。


「私、でも……」

「いいよ、ニアが好きなんだろ?」

「…」


リノは答えられなかった。
メロの泣きそうな笑顔を見てしまっては、何も言えない。


「…リノ。」

メロは急に真剣な顔つきになった。
その声にも力が籠っていた。

「それでも、俺は諦めないから。」


再び触れあう唇。
半ば強引に舌をねじこまれ、深く絡む。

「メロ…!?」

離れたと思えば、手を引かれ倉庫へ押し込まれる。

メロは後ろ手で、簡単に鍵をしめて、リノの方へ歩み寄った。

「メロ、何するつもりなの?どうして…」

「だから諦めないって言っただろ?ニアが一回したなら俺もしてチャラ──いや、そんな顔しないでよ、屑みたいな理論だってわかってるから…。」

「…私、こういうのはよくないと思う。」

「知ってるよ。」

「それに今の私はニアが好きなんだよ?それじゃダメでしょう?」

「それも知ってるよ。全て込みで、リノとしたい。」

真剣な顔で言うので、リノは調子が狂ってしまった。
こうなったときのメロは断固として自分の意思を曲げない。

「それに、今は好きじゃなくても、これから好きにさせれば良いってだけのことだから。」


ゆっくりと、押し倒される。
倒された先は床ではなく、柔らかいマットレスのようなもの。

リノは罪悪感に苛まれた。
ニア以外とすることに罪を感じた。
なのに拒めないのだ。
自分が最低だとわかっているのに拒めない。

リノが知るには早すぎる葛藤だった。


「余計な事は考えなくて良い、只気持ちよくなることだけ考えるんだ。」

メロの言葉に、リノは無言で頷いた。


「ん……」

右の首筋に、温かい感覚。
小さな水音が倉庫で反響して、二人を包む。

メロはリノの服を脱がして、上から下へ、順番にキスを愛おしそうに落としていった。

「…痕つけたい。」
「な、なにいってんの!?やだよ!?」


メロは少し考えてから、リノのお腹に一つ痕をつけた。

「った…!メロ!?今ダメって…」
「マーキング、みたいな。」

聞く耳を持たないメロ。
もう無駄だと悟ったリノは、諦めることにした。

不意に、メロの手が太ももに触れた。
そして秘部に、顔を近づけそこを舐め上げた。

「ひっぁ…ん!」

溢れだしている蜜と唾液が混ざりあって、卑猥な音が響く。

「メロ!?そんなとこ、なめ、ちゃ…っぁ」

舌の先が少し中に入り、ぬるりとした感触がリノを襲う。


「あ、ぁ…ッ」


ゆっくり、じっとりと解されていく。


「も…だめ…ぇッ」

達する寸前まできたところで、顔を離される。

「メロ…?」

「まだいかせないよ。」

メロはリノの中へ指を滑り込ませた。
蕩けるように柔らかく熱い。


「平気…かな。」

体を火照らせ、肩で息をしているリノ。
全身が快楽を求めてうずいていた。


メロは服を脱ぎ、避妊具のゴムを取りだした。

「………ゴム…?」
「え、みるの初めてじゃないだろ?」
「…初めて見たけど…」
「はぁ!?じゃあ、ニアは生でやったのかよ!?」
「そ、そういえば…」
「外で出せる自信があったってことか?…僕は多分無理だけど。」

そう言いながら、リノの足を持ち、間に入る。

「いい?」
「ん…」

慎重に、その場所へ入っていく。

「っ…は…柔らか…」
「ん…っ…ぁ、…」

「っ……全部入った…」
「メロ、…ぁ、…ッ」


柔らかくて温かい、表現しがたい快感がメロに押し寄せる。
リノはぎゅっと目を瞑って、快楽に集中した。

ぐちゅ、と音が響く。

「動いて、いい…?」
「う、ん……」



更にその音は大きくなり、反響して二人を欲情させる。



「はぁッ……んぁ…ぁっ」

メロは右手で、リノの胸に触れ、敏感な部分を弄る。

「あッあぁ…んっ」

より締まりが良くなり、メロにもリノにも限界が近づいてくる。


「むり、もぅ…ぁ…ッあぁっ…ん
「リノ…ッ、俺、も…ッ」


図らずも声が大きくなる。



リノは体をビクッと揺らし、シーツを握り締めた。

真っ白になる頭と、ぼーっとする耳。



リノはぼんやりと天井を眺めた。



02
prev | next
《Top》《戻る》