※キラ捜査本部で働くヒロインとLのお話です。
何気にL生存ルートなのでご注意下さい。
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今日も今日とて世界の切り札さんは、綺麗で甘いスイーツを頬張っている。
甘いものだけで何故生きていられるのか、と疑問に思ったのは一度や二度では無い。
そんな彼を横目に、私は捜査資料をまとめて印刷していた。
「よーし、これで全部かな。」
印刷し終わった紙をトントンと綺麗に合わせる。
これらを渡すべく、Lのもとへ足を向けた。
「L、資料です。」
「はい、ありがとうございます。」
受け取るために、くるっと振り向いたLの手元を見て、私は少し驚いた。
それはそれは赤くて艶々の美味しそうなイチゴ。
スイーツを想定していたので、予想はハズレ。
一粒五百円とかしそうだなぁ、なんて考えながらデスクに戻った。
捜査本部の人々は、丁度お昼御飯を食べに出ている。
私もお昼御飯を食べに行こうかと思ったが、あまり空いていないのでやめておいたのだ。
…つまり部屋には私とLのみ。
コンピューターの機械音と紙の擦れる音が静かな部屋に響く。
何となく緊張してしまう、この静寂。
「リノ。」
しかし、その静寂はLによって破られた。
「何でしょうか?」
「ちょっと来てください。」
手招きされるまま、彼のもとへ再び足を向けた。
彼の座っている椅子の斜め後ろあたりで止まると、「もっと近くに。」と呼ばれた。
何かミスでもあったのかと不安に思いつつ近寄ると、顔の前に一粒の美味しそうな苺を差し出される。
「えっと…?」
「ほら、あーん。」
「え、L!?」
「食べないんですか?」
「いや、いやいや状況が掴めませんよ!」
「…………嫌ですか?」
図体は大きいくせに、この人は時々こうやって子犬のような顔をする。
状況を説明するのが面倒だからこの顔をしたんだろう。
それでもやはり私の中の母性がそれを良しとしてしまう。
「わかりました…、……あーん。」
ああ恥ずかしい。
何故職場の上司と『あーん。』をしなければならないんだ。
凄く間抜けじゃない?私。
Lの指から口へ運ばれた苺。
噛むとじゅわ、と甘い果汁が広がって美味しい。
ごくん、と飲み込んで、Lと目が合う。
「…ご馳走さまです。」
「美味しかったですか?」
「え?はい、凄く甘くて美味しかったです。」
私の答えを聞いたあと、Lは目を軽く伏せて黙った。
「あの、L…?」
どうしたら良いのかわからずにいると、Lは顔を上げて、私を見た。
「今度はリノがしてください。」
「へ!?」
予想外な一言に、変な声をあげてしまった。
「わ、私が?Lに?あーんって?」
「はい、そうです。」
「……。」
「……………。」
何を言っても聞かなさそうな目。
さっきから何なんだろうか。
まさか、美味しさの共有?彼がそんなことするだろうか?何にせよやるしかないようだ。
嫌なわけじゃない。
餌付けみたいでちょっと面白そうだし。
しかしこの静かな空間で、交互に『あーん』という言葉が響くというのがシュールすぎて恥ずかしすぎる。
だいたいこういうのは恋人同士がやるものじゃないか。
恋人同士がやるから恥ずかしく無いんだ。
特にそういう関係じゃない人でやるなんて羞恥プレイなだけだ!
「リノ?」
「あっ、は、はい!やります、やれば良いんでしょう!」
「…急に投げやりになりましたね。」
お皿から苺を一粒とって、さっきみたいにちゃんとヘタをとって、いざ参らん!
「ッあ……あーん。」
「あーん。」
ふに、と苺越しでも伝わる唇の感触。
あーんってするとこんな感触伝わるの…!?
じゃあさっきも伝わってたの…?何それ恥ずかしい…。
「あ」
油断していたら、私の指とLの唇が直に触れる。
思わず声を漏らすと、Lはこちらを少し見上げた。
それは本当に刹那の出来事。
Lは少しだけ微笑んで、そのまま私の指を舌先で舐めた。
「っ!!」
それを理解した私は、びくっと体を揺らして手を引く。
顔に熱が集中するのがわかった。
「ご馳走さま。」
珍しく丁寧語を付けず、そして不敵に微笑んでLはそう言った。
「……っお粗末様です、……。」
余計に顔が紅くなるのがわかる。
──私に恋心を自覚させたその天才は、再びモニターに向き直った。
Sweet Strawberry