※キラ捜査本部で働くヒロインとLのお話です。
何気にL生存ルートなのでご注意下さい。



        *

今日も今日とて世界の切り札さんは、綺麗で甘いスイーツを頬張っている。
甘いものだけで何故生きていられるのか、と疑問に思ったのは一度や二度では無い。

そんな彼を横目に、私は捜査資料をまとめて印刷していた。

「よーし、これで全部かな。」

印刷し終わった紙をトントンと綺麗に合わせる。
これらを渡すべく、Lのもとへ足を向けた。


「L、資料です。」
「はい、ありがとうございます。」

受け取るために、くるっと振り向いたLの手元を見て、私は少し驚いた。


それはそれは赤くて艶々の美味しそうなイチゴ。
スイーツを想定していたので、予想はハズレ。
一粒五百円とかしそうだなぁ、なんて考えながらデスクに戻った。


捜査本部の人々は、丁度お昼御飯を食べに出ている。
私もお昼御飯を食べに行こうかと思ったが、あまり空いていないのでやめておいたのだ。

…つまり部屋には私とLのみ。

コンピューターの機械音と紙の擦れる音が静かな部屋に響く。
何となく緊張してしまう、この静寂。



「リノ。」


しかし、その静寂はLによって破られた。

「何でしょうか?」
「ちょっと来てください。」

手招きされるまま、彼のもとへ再び足を向けた。
彼の座っている椅子の斜め後ろあたりで止まると、「もっと近くに。」と呼ばれた。


何かミスでもあったのかと不安に思いつつ近寄ると、顔の前に一粒の美味しそうな苺を差し出される。


「えっと…?」
「ほら、あーん。」
「え、L!?」
「食べないんですか?」
「いや、いやいや状況が掴めませんよ!」
「…………嫌ですか?」


図体は大きいくせに、この人は時々こうやって子犬のような顔をする。
状況を説明するのが面倒だからこの顔をしたんだろう。
それでもやはり私の中の母性がそれを良しとしてしまう。


「わかりました…、……あーん。」


ああ恥ずかしい。
何故職場の上司と『あーん。』をしなければならないんだ。
凄く間抜けじゃない?私。


Lの指から口へ運ばれた苺。
噛むとじゅわ、と甘い果汁が広がって美味しい。
ごくん、と飲み込んで、Lと目が合う。

「…ご馳走さまです。」
「美味しかったですか?」
「え?はい、凄く甘くて美味しかったです。」

私の答えを聞いたあと、Lは目を軽く伏せて黙った。


「あの、L…?」

どうしたら良いのかわからずにいると、Lは顔を上げて、私を見た。

「今度はリノがしてください。」
「へ!?」


予想外な一言に、変な声をあげてしまった。


「わ、私が?Lに?あーんって?」
「はい、そうです。」
「……。」
「……………。」


何を言っても聞かなさそうな目。

さっきから何なんだろうか。
まさか、美味しさの共有?彼がそんなことするだろうか?何にせよやるしかないようだ。

嫌なわけじゃない。
餌付けみたいでちょっと面白そうだし。

しかしこの静かな空間で、交互に『あーん』という言葉が響くというのがシュールすぎて恥ずかしすぎる。

だいたいこういうのは恋人同士がやるものじゃないか。
恋人同士がやるから恥ずかしく無いんだ。
特にそういう関係じゃない人でやるなんて羞恥プレイなだけだ!


「リノ?」
「あっ、は、はい!やります、やれば良いんでしょう!」
「…急に投げやりになりましたね。」


お皿から苺を一粒とって、さっきみたいにちゃんとヘタをとって、いざ参らん!


「ッあ……あーん。」
「あーん。」


ふに、と苺越しでも伝わる唇の感触。

あーんってするとこんな感触伝わるの…!?
じゃあさっきも伝わってたの…?何それ恥ずかしい…。


「あ」


油断していたら、私の指とLの唇が直に触れる。
思わず声を漏らすと、Lはこちらを少し見上げた。

それは本当に刹那の出来事。

Lは少しだけ微笑んで、そのまま私の指を舌先で舐めた。


「っ!!」


それを理解した私は、びくっと体を揺らして手を引く。
顔に熱が集中するのがわかった。 


「ご馳走さま。」

珍しく丁寧語を付けず、そして不敵に微笑んでLはそう言った。


「……っお粗末様です、……。」


余計に顔が紅くなるのがわかる。


──私に恋心を自覚させたその天才は、再びモニターに向き直った。

Sweet Strawberry
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