あいつがやってきた







可恋「………嘘だろ」

トキ「今日1日この学校の生徒になります、一ノ瀬トキヤです。

   よろしくお願いします」

   ちゃっかり高校の制服を来て、『奴』はやってきた。

   お辞儀をする奴に、湧き上がる歓声。

女子「きゃあっ!!何でトキヤが来たの!?めっちゃ嬉しい!!!」

女子「ライブもなかなか当たらないのに…私たち超ラッキーじゃん!!」

   そう、奴は今をときめく大人気アイドル・一ノ瀬トキヤ。

   子供から大人まで幅広い人気を集め、テレビで見ない日はないくらい。

   …しかし、私は気分がのらない。

   むしろ下がり下がりだっつーーーーの。

先生「じゃあ、席は自由に決めて」

トキ「分かりました」

   そう言って周りを見渡し、奴はにこりと微笑んだ――私を見つけて。

   そのまま笑顔でずんずんと歩き、私の前に立ちはだかると、

   『先生、この人の隣がいいです』

   そう大声で言った。

女子「可恋いいなぁーー!!!ずるいっ!!!」

   …代わってあげたい、てゆうか代わってください。

トキ「よろしくお願いします、可恋」

可恋「…今日1日、貴方とは他人です。名字で呼んでください」

トキ「おや…つれないですね。私は可恋の彼氏なのに」

   …小声でも二度と口に出すな。










トキ「ですから、この解は―――――です」

   授業中、先生に指され淡々と答えを言うトキヤ。

   意外にも奴は頭がよく、周りも驚いて拍手をする。

先生「よし、じゃあこの問題が解けているか隣と確認しろ」

   あぁ先生そういうのいらないから。

   トキヤはにやっと微笑んだあと、私に体を近づけた。

トキ「…おや、全然解けていないじゃないですか」

可恋「悪いか」

トキ「悪いですね」

可恋「…フォローくらいしてください」

トキ「はっきり言った方がいいと思って。

   ここの公式はこう使うんですよ」

   そう言うと私の教科書に公式の説明を書き始める。

トキ「ほら、簡単でしょう?」

可恋「おぉ……どうもです」

トキ「どういたしまして」

可恋「…あの、もう分かったので離れてもらえないでしょうか?」

トキ「何故ですか?」

女子「あーー、可恋トキヤくんに教えてもらってる!いいなぁ…」

女子「しかも教科書に書いてもらってるし…ずるすぎるでしょ」

   周りの目が痛いからだよ。

   気づけこの馬鹿野郎。








女子「トキヤくん一緒に食べよー!!」

   お昼休み、女子はこのときを待ち望んでいたらしく、

   ぞろっとトキヤの席にやってくる。

   今のうちに…屋上行こう。







可恋「ふーーっ…1人は気が楽でやっぱいいわぁ」

   屋上で背伸びをする。

トキ「では、私も屋上で休めましょう」

   うん、やっぱりトキヤもくるってわかってた。

可恋「…一ノ瀬トキヤ、何で私にひっついてくるんだ!!!変態か!!」

トキ「変態ですよ」

   …お願いだから真顔でいわないで。

可恋「てか他の女子は!?トキヤと食べたがってたでしょ?」

トキ「あぁ…『可恋と食べたいので失礼します』と言いました」

   え、何それ絶対教室戻ったら女子に妬まれるパターンじゃん。

   てかめちゃくちゃ『あの子とどんな関係なのよ』

   って思われそうなセリフじゃん。バカじゃないの。

トキ「馬鹿ではないですよ。本当のことを言ったまでです」

可恋「心読んだ!!私がそのあと大変なんじゃ!!殴ってやる」

トキ「アイドルの顔に傷を付けないでください」

可恋「私からみれば貴方はアイドルではございませんが?」

トキ「…あぁ、彼氏ですもんね」

可恋「いや、そこは普通に落ち込めよ」

トキ「とりあえずお昼食べましょう。時間が経ってしまいます」

可恋「無視とかひどいなおい」











トキ「今日1日、みなさんと過ごせて楽しかったです。

   ありがとうございました」

女子「いかないでーートキヤーーー!」

女子「ここにいればいいのに……」

トキ「また来れたらきますね」

   そう言うと「「やったぁあ!!!」」と喜ぶ女子。

   いや、もう来なくていいよ。

   あの後女子に脅されたりとかされたんだから。

トキ「では、失礼しました。…可恋、私の荷物を持ってきてくれますか?」

可恋「は?」

女子「…また可恋かよ………」

女子「ちっ」

   え、めっちゃ陰口聞こえるんですが気のせいですか。

   トキヤは満面の笑みでお願いをしてくる。

可恋「すみません、私やらなければいけないことがあるので」

トキ「おや…そんなこと言っていいんですか?」

   先程と変わらず満面の笑みで言う。

   ……………怖いのですが。逆に。

可恋「喜んで持っていきましょう」

   そう笑顔で言った後、私はトキヤの荷物を潰す勢いで持った。

   あれ、何か『ぐしゃ』って聞こえたような。

   まあいいや。









可恋「トキヤ……私を怒らせたいのかな?」

トキ「あー…可恋力強く持ちすぎですよ。

   ペットボトルがぐしゃぐしゃです」

可恋「無視すんな」

トキ「え?」

可恋「せめて事前に連絡ぐらいしてよ!!」

トキ「私だってこの仕事昨日入ってびっくりしたんですよ」

可恋「そのあとでも時間あるでしょ!」

トキ「忙しくてそんな時間なかったです」

可恋「…ちっ。あー今日はもう疲れた!!」

トキ「私は楽しかったです」

可恋「トキヤは楽しかっただろうね」

トキ「だって、久々に1日可恋といられたんですから」

可恋「…へ?」

トキ「だから楽しかったです。1日が短く感じました」

可恋「……………ふん」











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うふふ。←





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