ハジメテの(サンジside)


初めてかもしれない

こんな気持ちになるのは







いつものように、おれはキッチンで昼飯の用意をしていた。
あらかた準備ができ、あとはシチューを弱火で煮込むだけになったところで、椅子に腰掛け一服。そんな風に少しだけ気が緩んだら眠気が襲ってきた。
そういや昨日の夜も、朝食の仕込みと新しいレシピを考えていたから眠るのが遅かった。
ちらりと時計を見て時間を確認すると、昼飯の時間まではまだ少し時間がある。
煙草を灰皿に押し付けて消し、テーブルに突っ伏す形で少しだけ眠ることにした。


ふわふわとした軽い眠りに入っていると。

「サンジー!メシー!」

扉の開く音と共に元気の良い声が聞こえた。
ルフィのやつ、また飯の催促か…と頭の片隅で思ったが、眠気が勝って目が開けられない。

すると暫くの静寂の後。
何だか気持ちの良い、心地の良い感覚がした。
優しく触れられているような。
優しく見つめられているような。
優しい空気が流れているような。

あぁなんだろうこの感覚は。
ずっと感じていたい。

けれどその正体が知りたくて重い瞼を上げた。
すると視界に入ってきたのは、ルフィの姿。

「んだ…ルフィか」

思わず髪に触れているルフィの腕を掴むと、次には素直に言葉が出ていて。

「気持ちーなーなんて思ってたんだよな。何だかよ。」

そう言った後には、掴んだ腕をそのまま引き寄せ、ルフィを胸の中に納めていた。

「サ…サンジッ?」

戸惑った様子のルフィの声。体もガチガチに固まってやがる。
そりゃそうだよな。いきなりおれなんかに(野郎だぜ?)抱きしめられたらそうなるだろうな。

何でそんなことをしちまったのか自分でも分からない。けれど、体が勝手に動いていた。
おれだって内心戸惑っている。

「子ども体温はあったけーなぁ。」

それをごまかす為にそんなこと言った。
ちょうどおれの口元はルフィの耳辺りにあったから、囁き声でも聞こえただろう。

おれの胸の中にすっぽり納まっちまうルフィの体は、温かくて柔らかかった。あんな馬鹿みたいな力があるとは思えないくらいに。

本当はもっと抱きしめていたかった。けれど、それこそおかしいだろ?
だから最後にルフィを一度だけ強く抱きしめてから解放してやる。

そのままルフィの顔は見ずにコンロに向かい、鍋の中のシチューの様子を覗きに向かった。
顔なんて見られるはずがなかった。
見たらきっと、別のことまでしちまいそうだったから。
それに自分の顔を見られたくなかった。きっと赤くなっている。顔が熱いからそれは間違いない。





あぁこの感覚はなんだろう。
胸が締め付けられる、けれど心地よいこの感覚には覚えがあるが、今までとは違う。
初めてかもしれない。

あぁやばいな。
もしかしたら。もしかしたらそうなのか。

小さな確信があった。



けれど今は、あのルフィを抱きしめた感覚を思い出しながら、この胸の締め付けを感じていよう。
背中に感じるルフィの気配や視線を感じていたかったし、それが心地良いから。





だから小さな確信は、まだそのままで。




END


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