ハジメテの(ルフィside) うん はじめてなんだ こんな気持ち いつものように、おれはキッチンの扉を勢いよく開けた。 「サンジー!メシー!」 キッチンには、サンジと呼ばれたこの船の料理人がいるはずだ。しかし返事が返ってこない。 「あり…?」 サンジは机に突っ伏して、静かな寝息を立てていた。 おれは少し驚いた。 サンジは、おれが眠るより後に寝るし、おれが起きるよりも早く起きる。 だから寝顔をみることなんて殆どなかったから。 そーっと近づき、顔を覗き見る。 目を閉じ、息をする度に体が小さく動いている。 「…まつげも金髪」 あまりじっくり見ることのない(しかもこんなに至近距離で!)サンジの顔を、おれはまじまじと見つめた。 鍋が小さくコトコトいっているけど、そちらには目も向けない。何故か今は食べ物よりもサンジに惹かれたから。 さらさらとした金色の髪。 不意に触れたくなって手を延ばした。 指先にその綺麗な髪が触れた瞬間、サンジが身じろいたから、おれは慌てて手を引っ込めた。 だけど起きた訳じゃないみたいで。 だからまた、今度はそっと手を延ばして…。 さらり… 指で掬うことができた。 そこから梳くように指を動かす。 なんだ。 すげぇどきどきする。 体が動かなくなっちまった。 やばい。サンジ絶対起きるよな。 そんなことを考えていたら、ぱちり。サンジの目がいきなり開いておれを捕えた。 もちろんおれは動けない。 「んだ…ルフィか」 サンジがそう言いながら、固まって動けないでいるおれの手を掴んだ。 「!」 「気持ちーなーなんて思ってたんだよな。何だかよ。」 ぐいっとそのまま腕を引かれ、おれはサンジの胸の中へすっぽりと入ってしまった。 「サ…サンジッ?」 訳が分からず言葉も上手く出ない。 そんなおれの耳元でサンジが囁いた。 「子ども体温はあったけーなぁ。」 そして、一度だけぎゅうっと強くおれを抱きしめると、あっさりと解放して、コンロの前に行ってしまった。 残されたおれはというと。 訳のわからないどきどきがまだ続いているし、何だか馬鹿にされたような気持ちだし。 それに何だか胸の奥がぎゅうって締め付けられた。 だけど苦しい締め付けじゃなくて、何だか嬉しいような。 はじめてのこの感覚。 はじめてのこの気持ち。 どうゆうことか誰かに聞いてみようかな。 だけど今は、このどきどきとか、気持ちのいい胸の締め付けを感じていたくて、サンジの料理をする背中を見つめながらそこにいることにしたんだ。 だからまだ いいか。 END |