5-star

初めてキスをした。

皆が寝静まっているわけでもない、けれども二人しかいないキッチンはやけに静かで陽の光が優しく射しこんでいる。

触れ合うだけのキスはむずかゆくて耳の後ろの辺りががじんとした。
いつ目を閉じたらいいのか分からなかったからずっと目を開いていたら、間近にある閉じられていたサンジの目がうっすら開いて触れていた唇から空気が漏れた。
ふ、と小さく笑う唇は少しだけ離れたけれどそこから漏れた息で空気が揺れるのを感じるほどの本当に近い距離で、サンジの漏らすその柔らかい空気の揺れに自然と体がふるりとひとつだけ震えた。

「そんなに見つめんなよ」

「そんなわけじゃねぇ」

内緒話でもするような小さな囁き。互いの息が混じりあう。

「今、お前の目にはおれしか写ってねぇんだな」

独り占めだ、とサンジは小さく笑ってまた唇を重ねてきた。
だから返事を返そうとしたおれの言葉はそのまま飲み込まれてしまって、そしてやっぱりおれは目を開けたままで。


近すぎてぼやける視界にあるのは確かにサンジだけだ。
そんなことを考えていたらもっとたくさんのサンジを感じたいと思って、だらりと垂らしていた両手をサンジの髪に、頭に、そっと触れるように伸ばしたらサンジが一瞬ぴくんと揺れた。
さらりとしたサンジの金色の髪はおれの手の中でも変わることなくさらさらと滑る。
おれの肩と、襟足辺りに置かれていたサンジの手にきゅっと力が込められたかと思うと、今までとは違う、深く食べられるようなキスに変わった。
温かいサンジの舌はぬるりと口の中を舐めたかと思うと、どうしていいか分からず動けずにいたおれの舌は絡め取られ啜られた。
サンジの舌は甘くて、おれはそれをもっと味わいたくて、サンジと同じように絡めて啜る。
もう目は開いていなくて、その分触れ合っているところ全部でサンジを感じてサンジでいっぱいだった。

目を開けば写るのはサンジで。
触れて感じる体温もサンジのもので。
聴こえる息遣いも匂いも味もサンジを感じでいて。

全部がサンジで満たされている。


唇が離れて、また目を開けたらサンジも目を開けておれを見ていた。
それから今まで触れていた唇が少しだけ弧を描いて耳許に寄せられる。そして。

「ルフィ」

名前を囁かれた。
好きだとか何だとか愛を囁かれたわけではない、たったそれだけのことなのに、体が痺れて胸の奥がきゅうっと音を立てた。


相変わらずキッチンはやけに静かで陽の光が優しく射しこんでいたけれど。大好きな陽の光だったけれど。

今は全部でサンジを感じていたから。もっと感じたいと思ったから。

おれはサンジの胸に顔を埋めて名前を呼んだ。





END


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