すきだとかだからとか 好きだから傍にいたいし傍にいて欲しい。 好きだから触れたいし触れて欲しい。 そう思うのっておかしいのか? 望むのは我儘か? てゆうか望んでばっかりなんて何だかいやだ。 だけど、そんなん初めての気持ちだからおれにはどうしたらいいのか分からない。 少しでも傍にいたくて、夜食を強請りにキッチンに行くのはいつものこと。 サンジはいつも遅くまでキッチンいて明日の朝の仕込みとかしてる。 皆が寝てからも、一人でキッチンにいる。 だからこの時間はサンジと二人きりになれる数少ない時なんだ。 「また夜食でも強請りに来たのか」 「しし!今日は何を作ってくれるんだ?」 夜遅くにキッチンの扉を開けると、手を休めることなくこっちを見ないままおれに声をかけるサンジ。 本当は見てほしいんだけど、見なくてもおれだってゆうのが分かってるのも嬉しいことだからいいんだ。 いつも決まった席に座って、麦わら帽子も頭から外す。 サンジはふうと少しだけため息をつくみたいに煙草の煙を吐いて、今やっていた作業を中断させると、用意されていたかのように手の届くところに置かれていた人参とか玉ねぎに手を伸ばし、それから冷蔵庫から肉を出した。 あっとゆう間にいい匂いがキッチンに広がって、じゅうじゅう聞こえてた音が止むと、コトンて目の前に湯気を立てる美味しいものが置かれる。 「ほらよ」 そう言って少しだけおれを見ると、またさっきまでやっていた作業に戻る。 ちょっとくらい一緒に向かい合って座るとかすればいいのに。 この時間の飯はいつもよりゆっくり食べる。 そうすればこのキッチンに長くいる理由理ができるから。 それでもサンジの飯は美味いからあっとゆう間に食べ終って、おれの目の前のは真っ白な皿が残る。 それをサンジに持って行くと、おれを見た目が少し細められて口元が優しく弧を描く。それがおれは大好きだ。 「ごちそうさま」 「どういたしまして」 それからまた、椅子に座ってサンジのことを眺める。これもいつものこと。 黙って座って、じっと見ていてもサンジは何も言わない。 もちろんこっちも見ない。 暫くして忙しなく動いていたサンジの動きが止まって、きゅっと小さな音が響くと今まで聞こえていた水音が止んだ。それから、よし、とサンジが呟くのが聞こえて。 「いつまでいるんだ?もう何も出ねぇぞ」 「うん。いいんだ」 そう言ったおれをじっと見るサンジ。さっきここに来てから初めてだ。そんなにじっと見られるのは。 静かな靴音を響かせておれの方にやって来たと思ったら頭に手を置かれた。 優しく、温かい手。その温かさが頭のてっぺんから全身に広がって自分の体温も上がった気がする。 サンジの顔をみれば頭に置かれた手みたいに優しく暖かい顔をしていた。 だけど、何も言わないサンジ。 だからおれは思っていることを口にした。 「なあサンジ」 「うん?」 サンジはやっぱり優しい声で応えてくれて。 「おれっておかしいのかな」 「何で」 「傍にいたいとか、いて欲しいとか」 「うん」 「触れたいとか、触れて欲しいとか」 「うん」 「おれ、望んでばっかりだ」 サンジに対して。 そう言い終えると、頭に置かれていた手が離れたと思った瞬間にはぎゅうと力いっぱい抱きしめられていた。 「う、サンジ!?苦しい…」 急にそんな風に力を入れられたら流石のおれだって苦しい。 サンジの背中をパンパンと軽く叩くけれど解放なんてされなくて。 抱きしめられてるってゆう事態にも少しパニックだったけれど。 「サンジってば、ちょっとまじで…」 「おれも」 「え?」 囁かれる言葉に耳を傾ける。 「おれも同じ」 「…?」 「おれも望んでばっかりだよ、ルフィ」 「サンジも?」 言われていることがよく分からない。 サンジも望んでばっかりなのか? 何に対して?誰に対して? ぐるぐるそんなことを考えていたら。 「ルフィ。お前に対して」 サンジがそう言った時には目の前にサンジの綺麗な顔があって、視界がぼやけるくらいに近くなって。 おれの唇にサンジの唇が優しく触れて、ちゅっ、て啄ばまれた。 だけどそれはすぐに離れて、サンジの顔もちゃんと見えるようになると、そのサンジときたら今まで見たこともないような赤い顔してぐるぐる眉毛は更に巻いているし、眉間に皺まで寄ってる。 でも碧の目だけはおれをしっかり見ていて。 「お前のことが好きだから」 そうはっきり言った。 お前っておれか? え?サンジ?好きっておれが? 確認したくて「おれって、おれのことか」て聞いたら、他に誰がいるんだ!って頭叩かれて、そのまま抱え込まれるようにまた抱きしめられた。それから。 「好きだ、ルフィ。わかったか?」 そう今度は小さく耳元で囁かれて、びり、と体が痺れた。 「好きだから、お前に…ルフィに望んじまうんだよ」 サンジも? サンジもおれと同じ? じっとサンジが囁くことに耳を傾ける。 「傍にいたいとか、いて欲しいとか」 「…おう」 「触れたいとか、触れて欲しいとか」 「…おう」 「おれも、望んでばっかりだ」 ルフィに対して。 サンジがそう言い終えるとおれは抱きしめられっぱなしで、でもどこにやっていいか分からなかった腕をサンジの背中に回して目一杯に抱きしめ返した。 だって嬉しかったから。サンジもそうなんだって分かったから。 そうしたらサンジは一瞬息を詰めて「クソ馬鹿力」て言いながらも。さらにぎゅうと抱きしめてくれた。 「ルフィは?」 「え?」 「ルフィは何でおれに望んでばっかりなんだ?」 小さく、けれどもひどく耳の奥にまで響く声でそう聞かれたら、発そうとする声が途切れ途切れになって震えてしまうのは仕方がないと思う。 だけど伝えたくて喉の奥から声を絞り出した。 「…っサン、ジが」 「おれが…?」 「サンジが…、好き、だか、ら…っ」 やっと伝えた言葉はやっぱり震えていたけれど、しっかりとサンジの耳に届いていたみたいで。 「おれと同じだな」 そう言って、少し照れくさそうに、嬉しそうに笑った。 サンジも一緒なんだって。 おれと同じ気持ちなんだって。 望んでばっかりなのは好きだからだって。 同じだ。本当におれと同じなんだサンジのやつ! 少しでも傍にいたくて、夜食を強請りにキッチンに行くのはいつものこと。 サンジはいつも遅くまでキッチンいて明日の朝の仕込みとかしてる。 皆が寝てからも、一人でキッチンにいる。 だからこの時間はサンジと二人きりになれる数少ない時なんだ。 そしてそれは、おれたち二人が望んで傍にいて、望んで触れたり触れ合ったりする時間。 好きだから。大好きだから。 こうやって今日も傍にいるんだ。 望んでばっかりなんていやだけど。望んでばっかりじゃ駄目だなんてのは分かってるけど。 でも、この時だけはいいかななんて思ってる。 だって、サンジも同じ気持ちなのが分かるから。 END |