星に願いを3*完 風呂場に着き、ルフィを服の着たままお湯のはっていない浴槽に入れさせる。その時になって漸くルフィはサンジの首から腕を解いた。 サンジは濡れて纏わりつくシャツを脱ぎながらシャワーの湯を調節し、湯の温度が適温になったところでルフィに湯ががかかる様にする。それから同じく濡れて纏わりついている赤いベスト脱がせようとボタンに手をかけた。 「サンジ…」 名前を呼んで、その手をきゅうと握るルフィに目をやれば、ありがとうと力無く言ってうっすらと笑っている。 「ったく。泳げねぇくせに海にダイブするなんて馬鹿かお前は」 ごつんと軽く頭を小突いて、服を脱がし終わる頃には湯はちょうど良いくらいに溜まっていた。 サンジは自分も頭からシャワーを浴びて冷えた体を温める。 その間、二人は何も話さずにいて。シャワーと排水溝にお湯の流れる音、そして時折ルフィの動きによって湯船の湯がが揺れる音だけが二人の耳に届いていた。 暫くして、もう温まっただろうとルフィを見たサンジはどきりとした。 ルフィの真剣な眼差しと目が合ったからだ。 「あ…、もう温まったろ?体は変なところないか?」 労う言葉は、その目を逸らしてから出た。 「大丈夫だ」 「そうか。じゃあそろそろ出て…」 皆のところに行くか、と続けて言おうとしたが言葉は途中で飲み込まれた。サンジはルフィに聞きたいこと…確かめたいことがあったから。 「…なぁルフィ」 「なんだ?」 目はまだ見れない。 きゅ、とシャワーを止める音が響いた。 「短冊、見たぜ」 「…!」 ルフィが息を飲むのをサンジは感じた。けれど、そのままルフィを見ずに言葉を続ける。 「お前が掴もうとしたあれ、書いたのもお前だよな?」 「……」 「あの願いごと、本気か…?」 サンジはそこまで言うとルフィの方を見た。 ルフィはサンジを見ていた。しかしその顔は赤く染まり、眉は下がっていて今にも泣き出しそうだった。 「ル…」 「そうだよ、サンジ」 ぽつりとルフィが発する。 「おれが書いた。おれがあの願いごとをしたんだ」 泣きそうながらも、真剣な眼差しでサンジを見て。 「本気だ」 力強く言う。 ぱしゃりと水音が響いたときには、ルフィはサンジの腕の中にいた。 「サ、ン…」 ルフィからサンジの表情は見えなくて、また、急に腕に包まれ、胸上の辺りに顔を押しつけている形になっていることがひどく動揺を誘った。 「や…、サンジ何して…」 「願い事…」 「…は?」 「願い事、おれも同じだった」 サンジはそう言うと腕の力を弱めてルフィを見る。その顔は先程のルフィの様に赤く染まり、眉が下がっていて。そしてやはり今にも泣き出しそうな。 「え…?サンジ…?」 「教えてやろうか?」 おれの本当の願い事。と言ってから、耳元でそっと囁く。 「ルフィがおれに夢中になりますように」 囁かれた言葉にルフィはさらに顔を赤くし、おれのと違ぇ、そんなの嘘だと喚いたが、その唇はサンジのそれによって塞がれてそれ以上何も言えず。 解放された頃にはくたりとサンジに寄りかかるだけになっていた。 「…まじ願ってみるもんだな」 サンジがぽつりと言えば。 「そんなん願わなくてもおれはサンジに夢中だったぞ」 ルフィがそんなことを言うから、またしても抱きしめられて熱い唇でその口を塞いでしまう。 「おれもとっくの昔からその気持ちだったぜ」 と伝えてから。 星に願わなくても月に祈らなくても、二人は近いうちにこうなっていただろう。と、二人肩を並べて天の川見つめる姿を遠くから見つめながら他のクルーは思っていた。 今回のものは、ただのきっかけだろうと。踏み出せず伝えられずにいた互いの想い。 しかしその背中を押したのは、もしかしたら…? 一面に広がる星空。 それを見つめる二人は時折顔を見合わせて微笑み合う。 それは他の誰も見たことのないもの。ただ、二人だけの。 「一年に一度しか会えないなんて寂しいし絶対にいやだ」 「おれもだ。毎日、毎朝毎晩一緒にいたい」 うげぇくせぇ台詞!なんて言いながらもルフィは幸せそうに目を細める。 そしてサンジも。 てるてる坊主だらけの笹の葉はゆらゆらと大海原を旅をする。大量のてるてる坊主と皆の願いと共に。 そしてサンジのスーツの胸ポケットにはひとつの短冊。 字は特徴的な上に滲んでいるけれど微かに読めるそれ。 青い字でただ一言。 『サンジの一番の好きになれますように』 自分で願いを叶えてきた、これからもそうするであろうルフィのただひとつの秘めた願い。 それは二人だけが。いや天の川で愛を紡ぐ二人も知っている、ルフィのただひとつの願い事。 END |