眠る太陽


陽の当たる広い甲板。
そこに寝転がるこの船の船長は気持ちよさそうに寝息をたてている。

その、寝ている無防備な丸い額に口付けた。

一瞬。たったの一瞬だったけれど、自分の唇があいつに触れたのだと思うと、そこがひどく熱を持ったように感じる。

「思春期のガキかおれは…」

額にキスなんて大したことないじゃないか。
煙草に火を付け、落ち着け自分…と大きく煙を吸い込み、同じく吐き出す。煙草は深呼吸の代わりだ。

「クソ情けねぇ」

ちっと短く舌打ちをして大の字に転がるルフィに視線を戻した。

おや?

今まで無防備に寝ていたその顔は今は強張り、おまけにほんのりと赤い。

…もしかして

「起きてんの、ルフィ」

「……」

返事は、ない。

「じゃあもう一回キスしちまおうかな。こんなチャンス逃すのは勿体ねぇし」

ひとりそう呟くが、返事も反応もなく。

「…マジでしちまうぞ」

その、ものを言わない唇に己の唇を近付けた。
互いの吐息がかかるほど近くに。
あとほんの少し顔を動かせば、触れてしまうだろう距離。

「な、ルフィ…?」

小さく名前を呼び、そのせいで動いた唇が微かにルフィに触れた。そのときに。
ルフィの唇が軽く突き出され、ちゅ、と音が鳴る。

「…!」

驚いて顔を引こうとしたが、そのまま首に腕が絡まされ、引き寄せられた。
幸い両腕はしっかりと床につけられていたので、倒れ込むことはなかったが、必然的に顔を寄せることになり。

唇が密着していた。
ルフィのものと、おれのものが。

ほんの少し開いた唇が、おれを軽く啄む。
遠慮がちに、けれど求めるように。

「ル、フィ」

一瞬唇が離れたときに名前を呼べば、閉じていたルフィの瞳がゆっくりと開かれ、その曇りのない黒がおれを映す。

「サンジとちゅうしちゃった」

照れた様に、ししっと笑うルフィ。

「もっとしてもいいぞ。寝ててやるから」

そう言って大の字になり、再び目を閉じるルフィに眉根を寄せて「クソゴム」と一言。
それから、じゃあ遠慮なく…と額に頬に唇に何度も軽いキスを落とす。
クスクス笑いながらそれを受けるルフィに「寝てねぇじゃねえか」と頬をきゅうと摘んでやれば、「寝てるぞ」なんて子どもみたいなことを言う。

「じゃあもっと寝ててくれますかクソ船長」

耳元で息を吹き込むように問えば

「おぅ」

微かに体を震わせ、腕を首に絡めて返事をしてきた。

「寝相の悪い船長だな」


それからまた、唇を寄せ、何度も啄む。本音を言えば、もっと深くまで味わいたかったけれど、それはまた今度。


「起きて」いるときに。






END


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