船上のメトロノーム ぽつりと雨が頬に当たって 熱かったそこが少しだけ冷まされた気がした。 「ルフィ」 目の前の男が名前を呼んで 「困らせて悪かったな」 ぐるりと巻いた眉を下げて笑ってそう言った。 笑っていた 笑っていたけれど その笑顔はおれの胸を締め付けさせた。 おれは船長だから誰かのものにはなれない 誰かのものになってはいけない 頬が熱いのは本当は嬉しかったから。 だけれど同時に とても悲しくて 泣きたくて ぎゅうと歯を食いしばった。 そうしたら力を入れすぎて顔が更に熱くなった。 動けずに、言葉も発せず交わすこともせず。 ただ立ったままお互いの目を見て。 きっと男は気付いている。 おれの目を逸らさず真っ直ぐに見つめるこの男は。 雨は段々とおれたちを濡らしはじめ 髪の毛から落ちた雫が涙の様だななんて、ぼんやりと思った。 END |