この暖かい陽射しのなかで


「いー天気だ!」

「おぅ」

陽射しが穏やかな昼前。
停泊している小さな島は春島だ。

「いい天気だな!サンジ!」

「本当だな」

「天気がいいんだぞ!」

「そうだな。けど、だからってお前は島に下りられねぇけどな」

「うぅっ…」

そう。今、船に残っているのはルフィとサンジだけ。他のクルー達は、1時間程前に島に上陸している。
ルフィは船番で船に残されたのだ。
それは、くじ引きでの決定。抗議をしようとしたが、ナミの「何か文句でも?」と言っているような(実際口には出していないが)笑顔にそれもできなかった。

サンジはというと。
もちろん船を下り…ようとしたのだが、あまりにもルフィが悲しそうにしているので、「すぐ戻るから」と言ったウソップが船に戻るまでの間、ルフィといることにした。
それならば、ルフィが島に下りてもいいのでは…となるが、それはまた別問題。
我が儘ばかりを毎回聞いていたら、船での規律がなくなってしまう。
あくまで、船番はルフィであり、サンジはサンジの気分で船に残っているのだ。


「なぁルフィ」

「何だ?船番代わってくれるのか?」

「違ぇよ馬鹿」

「むむ。じゃあ何だよ」

馬鹿と言われ、頬を丸く膨らませせてサンジを見るルフィ。
サンジはにやりと笑うと言った。


「天気も良いし、気持ちいいことしねぇ?」

「…え」





















「オラ。もっと気合い入れやがれ」

サンジがルフィの怠慢な動きを見て、言う。

「もう疲れた!」

「んなこと言ってもまだ終わらねぇからな」

見ろよ、と言って指差したのは洗濯物の山。

「こんな天気の良い日に洗濯しなくて、いつするんだよ。汚ねぇのが溜まる一方だぜ?」

「うー。でも疲れた!力加減難しいし」

じゃぶじゃぶと、洗濯物を洗う手は一応止めずに口を尖らせる。
それを見て、サンジは柔らかく微笑んだ。

「洗濯が終わったら昼飯だぜ。今日は天気も良いから甲板で食おうな」

「飯!肉か!?」

「そーだなー。お前の頑張り次第?」

「よし!頑張るぞおれは!」





最後となったシーツをルフィが干し終えると、サンジがダイニングから昼食を持って出てきた。

「ご苦労さん。飯だぜ」

「やったー!飯だ飯!」

「今日はクラブハウスサンドだ。もちろん、お前の分は鶏のローストがたっぷり…」

サンジが言い終わる前に、いただきます!とルフィの手が伸びてきて、ぱくりと口に納めてしまう。

「お前なぁ…」

「うんめぇー!さすがサンジだな!」

満面の笑みでそう言われてしまえば、サンジは何も言うことが出来ず、苦笑いしながら、ルフィの隣に腰を下ろした。

ぽかぽかと暖かい陽射しに、はためく洗濯物。少しの風が心地良い。

「なぁルフィ。洗濯すると気持ちいいだろ?真っ白になったシーツとか最高だよなぁ」

「う?そーだな!」

ルフィはもぐもぐと口を動かしながら頷くが、ちらりと干された洗濯物を見ただけで、直ぐに目線は次に食べるものへ移し、手を伸ばす。
すでに用意された半分以上がなくなっていた。




程なく、最後のサンドを口に納め、アイスティーをごくりと飲み干すと、ルフィは満足そうに横になった。

「うまかったー!ごちそうさまでした!」

「お粗末様でした。そんだけ食ってくれりゃ料理人名利につきるってもんだ」

サンジも煙草をふかしながら、横になった。
そのまま二人は目を瞑りまどろむ。
静かな波音に、ぱたぱたと洗濯物が風にはためく音だけが聞こえていた。

暫くたった頃。


「おいルフィ」

「ん?」

「お前、気持ち良いことって聞いて、別のこと想像しただろ」

「!!!!」

がばりと起き上がり、サンジを見るルフィ。その顔は真っ赤に染まっている。

「な…」

「はは、やっぱりなぁ。嫌だねぇルフィちゃんはえっちで」

にやりと笑うサンジに更に顔を赤くし、ルフィは立ち上がる。

「何言ってんだサンジ!訳わかんねー!」

だっと走り出し、干されたシーツを潜り、元いた場所から反対側へと行ってしまう。
サンジは立ち上がり、呼び掛ける。

「おーいルフィ。戻ってこいよ。隣にいてくれなきゃ寂しいだろー」

「いやだ!ばかサンジ!」

「んなこと言うなよー。なぁルフィー」

「いーやーだ!」

「デザートあるんだけどなぁ」

「………」

シーツ一枚隔てて、迷う影がサンジから見える。

「ル・フィ・イ?」

…と。迷う影が動き、同時にシーツがばさりと音を立ててサンジに被さってきた。

「おわっ!」

どさりとそのまま倒れ、目の前には真っ白なシーツ。それから、体にかかるシーツではない重み。
体に馴染んだ、覚えのある重み。

「デザート…食べる…」

「はいよ」

ルフィはシーツごとサンジに抱き着き、小さい声で言った。そして、それに応えるサンジ。

「でもルフィ」

「何…」

「シーツでお前の顔が見えない。見たいんだけど?」

「……」

「見せて」

自分にかかったシーツをどけ、ルフィの顔を見る。見ることは拒まれなかった。

「可愛い。ルフィ」

ルフィの顔はまだほんのりと赤く、少し困ったような顔をしていて。

「可愛いとか嬉しくねぇし」

「褒めてんだよ」

手を伸ばし、ルフィの頬に触れる。その頬も熱い。
そして、どちらともなく、唇を寄せ、キスをした。

「ん…」

鼻に抜けるような甘い声。

静かな波音に、ぱたぱたと洗濯物が風にはためく音。


それから

「大好き」

囁くような声。


暖かな陽の中で、それらが静かに響いていた。











「シーツ洗い直しだな…」

「おぅ…」


END


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