好きと好き


好きってなんだ?



冒険が好き

海が好き

飯が好き

肉が好き

仲間が好き


そうゆう好きなら分かる。
だけど…。

















夜中に腹が減って、夜食を強請りに夜中のキッチンへ行った。
いつも遅くまで起きているサンジ。やっぱり今日も起きていて、キッチンで煙草を吸っていた。
酒も飲んでいるみたいだ。

「サンジ!腹減った!」

「…だから?」

「だから飯作ってくれ!」

呆れたようにため息をつきつつ、サンジは立ち上がって冷蔵庫を覗いて何かを取り出した。
そしてそれを火にかけ、ジュウジュウと美味しそうな音をたてさせる。

おれは、それをじっと見ていたけど、見ていたのは焼かれている(炒められてる?なんだろ。とにかく美味しそうな匂いがする)ものではなくて。
サンジの手の動きや、腕を振る度に動く肩とか背中。そしてサラサラと揺れ動く金色の髪の毛から目が離せなかった。

「おいルフィ、でかい皿出せよ」

サンジが急にそう言うから、少しだけびくりとした。

「う、うん…」

言われた通りに皿を出して、サンジの元へ持って行く。

「そこに置け」

コトリと置いた皿に乗せられたのは大盛りチャーハン。すっげー美味そう。

「ほらよ。余りもので作ったけど味は保証するぜ」

差し出してくれたそれは本当に美味しそうで、ほかほかの湯気が出ていて、匂いも最高で。だから、あっとゆう間に全てを胃袋に納めてしまった。

「うまかったー!ごちそーさま!」

「そりゃよかった。じゃあもう寝ろ」

「え…」

素っ気なく言われて、おれは食器を流しに運ぶサンジを見つめた。何だか、そっけないその態度や言葉に堪らなく寂しくなって、サンジ、と名前を呼んだんだけど。

「何だよ」

振り向く事なく、今おれが使ってた食器を洗いながら、そう返してくるだけだ。
おれの耳には水音だけがよく聞こえてて。

「…サンジ」

「だから何だよ」

「サンジ」

「まだ足りねぇのかよ?」

「サンジ」

「寝る前なんだからそこら辺でやめとけ」

「サンジ!」

「飲み物か?それなら冷蔵庫に夕飯の…」

「違ぇよ!!」

自分でも驚く程でかい声で、サンジの言葉を遮った。
それから、きゅ、て水道から流れる水を止める音がして、キッチンは急に静かになる。
だけどサンジは振り向かない。

「なぁ…なんでおれを見ないんだ?」

「何言ってんだ船長。いつも見てるだろ」

「…さっきから、一度も見てねぇじゃん。今だって振り向かねーし」

そう。サンジはさっきから一度もおれを見ていない。目が合わないんだ。
気のせいかと思っていたけど、それはキッチンに入って来た時からで…。

おれの言葉の後に一瞬の間。それからサンジが体ごと振り向いた。

「ほらよ。んな事ねぇだろ」

いつもの様な、少し戯けた笑い方をしてそう言うけど、違う。絶対にいつもと違うんだ。

「違ぇ!」

「何が」

「分かんねーけど…。サンジいつもと違う…」

俯きながらそう言うと、サンジが溜め息をつくのが聞こえた。それからコツ…て聞き慣れた革靴の音が近づいて来て。
今度はおれがサンジを見ていなかったから、どうなってるのかは分からなかった。
ただ、近づいてきたのだけは分かって。

でも顔が上げられなくて、そのままでいたら、名前を呼ばれた。

「ルフィ…」て。

聞いたことないような、何だか囁くような、だけどびりって響くような声で。
おれは余計に顔が上げられなくて、俯きながら何故だか目をぎゅっと瞑った。

ふわりと香る煙草の匂い。それに少し甘い、だけど爽やかな匂い。いつものサンジの匂いだ。
…あと酒の匂いがする。サンジ結構飲んでるみてぇ。

そう思った途端に、耳元で囁かれた。
あの、びりってくる声で。


「なぁルフィ。おれはいつもお前を見てるよ…?」


途端、吐息が耳にかかり、ぞくぞくした。嫌悪とかではなく、背中から腰にかけてむず痒くなるような感覚。
思わず、一瞬、肩が小さく震えた。

「ルフィ…おれは我慢強い方じゃねぇし、忍耐強さも実は無いんだよ」

ぐっと腰を引き寄せられ、顎をがっしりと掴まれた。
それを振り払う間もなく、サンジの唇が、おれの唇に重なった。

「…!」

目を見開いたままのおれの視界には、サンジの綺麗な顔のアップ。つか近すぎてよく見えてないんだけど。
でもとにかく、サンジにキスされてるのが分かって、頭がパニックだ。

何も抵抗できないうちに、サンジがおれから唇を離した。
触れただけなのに、そこから熱くなったみたいに顔に熱さが広がった。

「な…何っ何するん、だ…よ!」

慌てて出た言葉は、すげー吃ってて、ちゃんと言えていない。
一方サンジはさらりと言う。

「何って…。キス」

「そりゃ分かってる!」

「知ってるんだ」

「当たり前だろ!馬鹿にすんなよ!」

馬鹿にされた気がして、キスをされたことよりも、そっちに腹が立って抗議をしたんだけど、サンジはふっと笑いながら聞いてきた。

「今までしたことある?」

「…ない、けど……」

「はは。やべ。今のが初めてかー。」

サンジは何故だかニヤニヤと笑っているし、訳が分からない。

「じゃあさ、ルフィ。別のキス、知ってるか?」

「…キスは今のだろ」

「だからな。別のがあるんだよ」


そう言ったかと思うと、サンジの手がおれの頬に触れて。
教えてやるよ、て顔を近づけてきた。
おれは逃げられなくて。
逃げようともしなくて。
むしろ教えてほしいなんて思ったから、そのままでいたんだ。


またさっきみたいに唇が重なって、今度はサンジの唇の柔らかさとかを凄い感じた。さっきはびっくりしすぎてよく分からなかったんだけど、サンジの唇は柔らかくて、マシュマロみたいだ。

そんなことを考えていたら、ぺろりと唇を軽く舐められた。
びっくりして少しだけ口を開けたら、ぬるりとした暖かいものが入ってきて、口の中を這い回りだした。

「んんっ…!」

びっくりして後ろに退こうとしたけど、後頭部を押さえられていて、退くことができない。
口の中に広がる煙草の匂い。
あぁ、これサンジの舌なんだって理解する。

そのうち、それは頬の裏側とか上顎とかを舐め出して、体がびくびくした。
しかも、おれの舌も絡めとられて、吸われて、もっとびくびくしてしまう。

なんかぼーっとしてきた…。

好き勝手に舐め回され、吸われ、やっと解放された時には、体中から力が抜けてて、サンジにもたれ掛かってしまった。

「どうだルフィ。これも、キス」

「…ふ…ぅ?よくわかんね…」

「なぁ。キスって、口にするだけじゃないんだぜ?」

そうサンジが言ったと思うと、首筋に、ちゅって吸い付かれ、ぴりって痛みが走った。

「…っ!」

「色んなとこにキス…、してもいい?」

そう掠れた声で囁かれたけど、なんだかやばそうな気がして、ぶんぶん首を横に振った。
駄目。駄目だよサンジ。
だってそんなことしたら、おれおかしくなっちまう。
だって、今だけでも心臓がドキドキしてるし、苦しいし、体に力入らないし、頭が回らないんだ。

ぎゅうってサンジのスーツを握って、力が抜け切るのをなんとか堪えているおれ。
その手にサンジの手が触れてきた。
そして、聞かれた。

「キス、好き…?」

そんなこと聞かれても分からない。だって今初めてしたんだから。だから正直に答えた。

「わかんね…」

「おれは好き。ダイレクトに思いが伝わるだろ」

「思い…?」

「そう。相手を好きだって思いと、相手に好きだって思われてることが」

「好き…」

「そう。…『好き』の意味分かるか?」

「分かるぞ!また馬鹿にしてるな!」

サンジにもたれていた顔を上げて、抗議をすると、ぱち、と目が合う。
その目は優しくて、だけど何だか熱っぽくて、また心臓がどきんとした。

「おれね、ルフィが好き」

ゆっくり、はっきりそう言われた。

「おれもサンジのこと、好きだぞ?」

「はは。ありがとよ。でもな、きっと、おれとお前の『好き』は違うんだよ」

「違う…?」

よく分からなくて聞き返した。

「お前、ナミさん好きだろ?」

「うん」

「ロビンちゃんも、ウソップも」

「うん」

「チョッパーも、フランキーも、ブルックも好きだろ?」

「当然だ」

「…クソマリモも?」

「ゾロも好きだ。当たり前だろ?仲間はみんな好きだ!」

そう言い切るおれに、苦笑いしているサンジ。なんでだ?おれ変なこと言ったか?

「違うんだよルフィ。その好きとは違う」

「何が違うのかわかんねぇよ…」

「だろうな。あのな、おれの『好き』は、さっきみたいなキスをしたいとか、抱きしめたいとか、特別な『好き』なんだ」

ゆっくりと、諭すように言われて、おれは考えた。
特別な好き…。
特別……?
ぐるぐる考えているおれにサンジが聞いてきた。

「おれとキスするの嫌い?」

「……嫌いじゃない」

確かに嫌じゃなかった。
苦しかったけど、ドキドキして、ぞわぞわして…なんだか、もっとしたいとか思った。

「じゃあ、おれ以外のやつとキスしたいと思う?」

「…それは思わねぇかも……」

サンジの目がなんだか揺らいだ気がする。

「じゃあ、またしたい?」

「…………したい、かも……」

小さい声でそう伝えたら、ぎゅうって抱きしめられた。

「やべ。お前、おれどーすりゃいいんだよ」

「ちょっとサンジ!苦しいって…!」

顔はサンジの胸に押し付けられてるし、身動きは取れないし。
暫くそのままでいたら、ふと力が緩められて、解放された。
そして、じっと向き合う形になって。

「ルフィ…」

名前を呼ばれて、またドキドキが激しくなる。
どうしようどうしよう。目を合わせてるだけなのに、こんなに苦しい。さっきキスしてた時みたいだ。

あ。またサンジの顔が近づいてくる。
だから、キスされるんだなって思って…そうしたら自然に目を瞑ってた。

唇に触れるサンジの唇。
口の中に差し込まれるサンジの舌。
舐め回されて、吸われて、味わうみたいにされて…やっぱり嫌じゃない。


…好き

なのかな。

サンジとのキス。

だって、もっともっと、て思ってる。



唇を解放されて、サンジの顔を見ると、それはやっぱり優しくて。それになんだか満足そうで。

そんな顔を見たら、なんだか嬉しくなって、おれは笑った。















「ルフィ。またおいで。『好き』ってことがどうゆうことか少しずつ教えてやるから」

もう寝ろ、て言われてキッチンを出ようとしたときに、サンジがそう言って微笑んだ。


おれは『好き』が知りたくて。
またあのキスがしたくて…。

明日も明後日も、そのまた次の日の夜も、おれはキッチンに行くんだ。



だから、首筋に残された朱い跡は、いつまでも消えない。






END



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*補足
…だらだら文で分かりづらくてすみません。
ルフィの気持ちだけで書いたのですが、何とも。
ルフィはサンジ君が好きだけど、気付いてないのです。好きだから見てほしいし、見つめてまう。
サンジ君はルフィが自分に好意を抱いてることに気がつきましたね。お酒とルフィの真っ直ぐな思いに我慢してたものが弾けましたよw
またサンジ君サイド書きたいです。


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