弱虫ダーリン 今…なんて言ったんだ? 耳に届いたサンジの言葉が信じたくなくて、受け入れたくなくて、聞き返した。 いや、もう一度聞きたい訳ではなくて。ただ口から思わず出ていた。 「お前のことは、もう好きじゃない。だから今後おれに構うな」 なのに、おれの恋人は一語一句違わずに、同じ台詞を繰り返した。 「なんで…」 やっと絞り出したような震える小さな声で問い掛けた。 「おれは元々レディが好きなんだ。お前が好きだなんて間違ってた。勘違いだったんだよ。だから、これからはキスもしないしセックスなんてしたくもねぇ。…つまり普通の仲間に戻りたいんだけど?」 サンジは淡々と、きっぱりとそう言いきって。 そして、こう付け足したした。 「仲間に戻れないなら船を降りる」 とゆう夢を見たらしい、愛しき恋人ルフィ。 夜中、重みと暖かさを感じて目を開けた。 ルフィは寝ていたおれの胸に顔を埋め、手はシャツを力強く握っていた。そして目からは涙がとめどなく流れており、声を押し殺すようにしていた。 ボンクは重みできしりと音を立てて。 「どうした」と頭を撫でてやると、涙でぐちゃぐちゃな顔を上げ、自分の見た夢の話を聞かせてくれたんだが…。 「ばぁか」 「なっ…!おれ本当に悲しくて、夢でよかったと思ったんだぞ!」 おれの呆れた口調に、ルフィは口を尖らせた。目は泣きすぎて赤くなり、少し腫れている。 「悲しくて涙出てくるし、夢だって安心したらまた涙出るし、だけど本当に夢だったのかなってやっぱり不安で、サンジにくっつきたくて…」 文にしたら句読のないだろう言葉の羅列。しかも最後の方はゴニョゴニョと呟く様だったが、おれの耳にははっきりと届いている。 「本当にお前馬鹿」 そう呟いて、ルフィを抱きしめた。 一瞬驚いた様子だったが、背中に手を回し、ぎゅうっと抱き着いてくる。 「本当に夢でよかった」 ほぅっと安堵の息をつきながら呟き、心底安心したように背中に回した腕に力が込められる。 「あのなルフィ。おれはお前が大好きだし、愛しちゃってる訳だから、んなこと言うのは生涯有り得ねぇ。だから安心しろ」 そしておれも、ルフィを抱きしめている腕に力を込めた。 「おう!」 いつものように、ししっと笑う。もう泣いてもいないし、不安もないようだ。 「でもなルフィ」 「なんだ」 「お前がおれを好きじゃなくなったら…。恋人として見られなくなったら、おれを船から降ろしてくれよ?」 「…!!」 おれの言葉に心底驚いたように、抱き合っていた体をばっと離し、顔を見つめてきた。 目が合う。 いつも真っ直ぐなルフィの目。 今は驚きと戸惑いに揺れている。 「何言ってんだサンジ…」 「おれはお前に嫌われたら堪えられない。だからそうなったら、仲間としてなんていられない。一緒にはいられないんだよ」 おれが、と付け足し、ふと笑いながらそう告げる。 …と。 その途端に頬に衝撃があった。 ルフィに左頬を殴られたのだ。しかも本気で。 何も構えていなかったおれは、軽く壁まで吹っ飛び、たたき付けられた。 「ってぇ…」 頬を抑えながら、顔を上げると、怒りを露わにしたルフィの顔…その目と目が合った。 「何言ってんだよサンジ…」 怒りを含んだルフィの声。 「サンジ、んなこと考えてんのか?んなこと思ってたのか?」 「………」 「おれはサンジを絶対に船からは降ろさない」 ルフィが静かに。だが、きっぱりと言い切る。 「おれはサンジを嫌いにはならない。絶対にだ」 思わず目を見開いた。 「おれがいつかサンジを嫌いになると思っているのか?」 哀しそうにルフィの顔が歪んだ。 …そうゆう訳ではない。 いや、それを恐れているのは確かだ。だから、言葉が返せなかった。 「…なぁサンジ。おれはお前が好きだよ。それはずっと変わらない」 「…ルフィ」 「信じて?」 ルフィの顔や目からはからは怒りが消え、今は哀しさと切なさ…そして強い意志が見えた。 あぁ。おれは何て馬鹿なんだろう。何て臆病なんだろう。何て弱いんだろう。 しかしルフィが怒ったのは、おれの弱さではない。 ルフィを…愛するひとを信じていないことに対してだ。 「悪かった。二度とそんなこと言わねぇし考えねぇよ」 そう告げると、ルフィはししっと笑って抱き着いてきた。 「信じろよサンジ。おれもお前を信じてる」 さっきまで、顔をぐちゃぐちゃにして泣いていたとは思えない強い心を持ったおれの愛しいひと。 おれは彼を生涯愛するだろう。 「ただな。1つだけ。おれが降ろすのを決めるんじゃない。…サンジが船を降りるのを決めたときに降りろ」 そう言ったルフィに「有り得ねぇよ」と囁いて、その唇に自分の唇を寄せる。 あぁ今日が新年の始まりじゃなくてよかった。迷信なんて信じねぇけど、やっぱり気分のいいもんじゃない。 まぁ、んなもん関係ねぇけどな。 何たって、おれ達は愛し合っちゃってるんだから。 END |