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ねえねえ聞いてよあつしくん



会話文のみ


「あつしくん聞いて!?トド松ってば一緒に買い物行っても全然アドバイスとか言ってくれないの!全部『可愛い服だね』とか『ああそのスカート流行ってるんだっけ』とかばっかで!あんたの意見が聞きたいんだってのに!似合ってるとか可愛いとか一言聞きたいだけなのこっちは!ひどいよね!」
「そうだね」

「あつしくん聞いてよ。名前とこないだ買い物行ったんだけど、試着ばっかでさあ。まあ僕は名前が着てたら何でも可愛いと思うし別にそれはかまわないんだけど、いいねって褒めてただけなのになんか勝手にあいつキレたんだよ!わけわかんなくない?!」
「そうだね」

「しかもねあつしくん!こうなったらトド松が可愛いって言うまで意地張って試着してやろうと思ったら、『まだ着るの?さっきのでいいじゃん』って言うんだよ!?私はただ一言可愛いねって言って欲しかっただけなのに!」
「大変だね」

「しかもさ、あつしくん!一番最初に試着した服が一番可愛かったのに、全然決断しないんだよ名前!何をそんなにぐだぐだ悩んでんのか訳わかんない!絶対絶対最初のやつが似合ってたのに!」
「大変だね」

「あつしくん、私ね。もうトド松のこと諦めようと思うんだあ……」
「急にどうしたの」
「だって絶対脈ないし、不毛な恋をしてるなあって思うの。こんなことなら、もう辛いし、やめちゃおうかなあって……」
「そう思ったけど諦められないから今僕に愚痴ってるんでしょ」
「うん……」

「ねーあつしくん、僕さあ、もう名前のこと諦めようと、」
「めんどくさいからもう押し倒しなよ」
「あつしくん!?あつしくん急に何言ってんの!?」
「いやもう相談乗るのめんどくさい。最初はちょっと面白かったけど連日同じ内容の話で呼び出されるこっちの身にもなってよ」
「何それなんの話!?」
「いいから押し倒せよって話」
「いやぜんっぜん説明になってないから! ていうかさあ、とりあえず聞いてよ」
「まあいいよ、話してみなよ」
「名前、僕といるとき全然楽しそうじゃないんだよね。イライラしたりつんけんしたりばっかで、すぐ拗ねるし顔そむけるし、笑顔なんか全然見せてくれないの。ほんと可愛くない」
「でも好きなんでしょ?」
「好きだよ!大好きだよ!だって仕方ないじゃん惚れちゃったんだもん!拗ねる顔とか可愛くてたまんないよ!振り向いてくれなくても諦めきれないよー!ねえあつしくんどうしたらいいかな僕!!」
「トド松くんさあ、今日けっこう酔ってるよね」
「だって飲まなきゃやってらんないよ」
「そうかもね。そんなに酔ってなかったら、僕がこうしてスマホを通話にしてるのにも気がついてただろうにね」
「は?」
「ねえトド松くん、この電話、誰に繋がってると思う?」
「待って、まさかとは思うけどさ、あつしくん」
「そのまさかだよ。あ、勿論スピーカーになってるよ、その辺抜かりないから僕」

『あ、あの、もしもし、トド松……? 今の話って、」

「……なんで通話終了させたの?告白するチャンスだったじゃん」
「あつしくん絶交」
「恩を仇で返すねトド松くんは」
「相談乗ってもらったのは有難いけど本人に聞かせるとかありえない……無理……もう名前と会えない……絶対キモがられた……」
「もうめんどうくさいなあー……」