「……ミリィちゃんは……」

小さく、チャンドラは声を出した。
思ってもみない大チャンスである。
傷心の彼女を慰める……つけ入る様で心は痛むが、彼はこの機会を逃したくは無かった。

彼女の肩に手を置き、優しく。


「あいつのこと……まだ、好きなの?」


言って――愕然としてしまう。
何を言っているんだ? そんな事を言いたい訳じゃないだろ?
もっとこう……あるじゃないか、色々と。

伝えたい思いはある。しかしそれは脳にとどまり、代わりに口をつくのは、思いとは正反対の言葉。

「でも、ディアッカは……」
「あいつは良いんだ。ミリィちゃんが、あいつのこと、どう思ってるのか」


<――って、何訊いてんだよ、俺!!>


そんな事訊いたって、答えは目に見えている。
絶対に、ミリアリアの口から聞きたくない答えが。
万に一つの奇跡を願っても、全くもって、ありえない。


「……すき……みたい」


小さくつぶやき、彼女は顔を伏せる。その姿がまた愛らしく、儚げで……チャンドラはやり切れない気持ちで一杯になった。

何故彼は、彼女を置いて、プラントに――ザフトに戻ってしまったのか。
いや、分かっている。どうしようもない現実があることを、チャンドラは知っている。


ミリアリアは、ナチュラルだから。
ナチュラルが平和に暮らせるほど、プラントの情勢は安定化していない。

連れて行けるはずも無い――


「ずっと……ずっと、好きで。でも、あいつのこと忘れなくちゃって……だから、自分が振ったんだ、って……あんな男、自分から見限ってやったんだって、そう、考えるようにして……」

瞳に涙を溜めながら、彼女はあざ笑った。

「……駄目だなぁ、私……そんな事したって、何が変わるわけでもないのに」


実際――想いは消えるどころか、膨らむ一方だ。


「どうしたら、忘れられるんだろう……」


遠いどこかを見やるミリアリアの瞳。
うつろで、哀しみのあふれる瞳。


「……なら、忘れなきゃ良いんだよ」


そんな彼女を見ながら、我知らず、チャンドラはつぶやいていた。

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