「……あら?」

不審の声をもらしたのはシホだった。

「今度はお前が視線でも感じたのか?」

立ち止まるシホへ、イザークが呆れ気味に声をかける。
二人が止まったので、自然とディアッカの足も止まった。

「いえ、たださっきの店……」
「店?」
「ほら、あんたが、視線がどーの言ってた時にあった店」
「……ああ」

つい数分前の記憶を掘り起こし――そんなに時間を要せず、ディアッカはシホの指す「店」を頭に描き出した。
そう言われてみればあの時、小さいながらも店があった。女性向けアンティークを取り扱っているような、それらしい店が。

「母が、コペルニクスに行くことがあったら、寄ってきてと言ってたお店だったような……」
「そーゆーことは、見つけた瞬間思い出せよ」
「隊長、戻って確かめたいんですけど、一緒に来てもらっても良いですか?」
「無視かい」

綺麗なスルーっぷりに、ディアッカは――いつもの事ながら、顔をしかめる。

「別に構わないが……ディアッカ、お前はどうする?」
「そりゃもちろん――」

あんな店に興味は無いし、別行動を取る――と言いかけて、気付いてしまった。
――シホの企みに。
彼女はただ、イザークと二人っきりになりたいだけなんだと。母親云々の話も、でっち上げの可能性が高い。

目が訴えている。


ついて来たら殺す――と。


殺されたくはないが、このままシホの思い通りに事が運ぶのも面白くない。
となれば、

「――隊長にお供するさ」

勝ち誇った微笑をディアッカはシホに向けた。彼女は、心の底から悔しそうな顔をするものの、イザークの手前、それを表に出し切ることが出来ない。
こうして三人は、あの店に戻ることになった。

はっきり言ってシホは、アンティークになど興味は無い。
そして、出来れば母艦まで殴り帰してやりたい「おまけ」までついてきている。
店の前にやって来た時、彼女は頭を下げる道を選んだ。

「……すみません、隊長。記憶違いでした」
「謝ることはない。間違いなど誰にだってある」
「隊長……っ」

目を輝かせるシホを見るディアッカは、完全に呆れていた。


――勝手にやってくれ――


本気でそう考えた時だ。がちゃり、と店の扉が開いたのは。
出てきた二人組に、驚愕の眼差しを送ったのは――

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