チャンドラにとっては、千載一遇の大チャンスだった。
彼は――ミリアリアを気に入っている。もっと突っ込んだ言い方をすれば、彼女に好意を抱いているのだ。

二年経って、大人びた少女。
二年前には、他に心を寄せる男がいた少女。

二年前、とある男から言い寄られていた少女――

現時点で最大のライバルと言える男はいない。
しかも彼は、コペルニクスには結構詳しいので、これは本当に――大チャンスだ。

「どこ行きたい? ミリィちゃん」
「買い物したいです、買い物! この頃、ショッピングとか楽しむ余裕、全然無かったから」

月に降り立ったミリアリアは生き生きとしていた。そんな姿を見ていると、こちらも嬉しくなってくる。
チャンドラは、精一杯の勇気を出した。

「ミリィちゃん!!」
「はい?」
「――こっちに、良いお店があるよ!!」

極力自然に振舞うよう気をつけながら、チャンドラは、ミリアリアの手をつかみ、歩き出した。
名目上は、店への案内。しかし彼の中での本題は、彼女と手を繋ぐこと。
そして、それは成功した。

「…………」

嫌がってはいないだろうか……心配になり、ちらっと後ろを見てみれば、ミリアリアは不思議そうにしながらも、拒絶するような素振りは見せていない。


<よし! イケる!!>


第一段階はクリアした。次はデート中にポイントを稼ぎ、「頼れるお兄さん」から「気になる男の人」への転換作業を推し進めなくては。
そう、こんなに緊張しなくても、手を繋ぎ会える仲になるために――


<頑張れ俺!!>


自分に活を入れるチャンドラ。そうこうしている内に、二人は目的の店にたどり着いた。アンティークを扱うお洒落なお店である。

「うわ〜、良い感じ〜」

ミリアリアは目を輝かせ、中に入っていった。チャンドラも続き、中に入ろうとしたのだが……

「――?!」

チャンドラの視界の端っこで、何やら見覚えのある人影がちらついた。とても見覚えのある、ミリアリアと二人っきりの場面を見られたら、確実に邪魔してくること確実な男の姿が。


<いや、まさかそんな……>


そんな偶然あるはずない。そう言い聞かせながらも、確率が高いことは分かっている。
ザフト所属の戦艦が一隻、コペルニクスに停泊している。
それが――彼の乗っている船であっても、おかしくはないのだ。

気付かれないよう、横目で「男」を見て。
姿をはっきり確認して。

チャンドラは店の中へと逃げ込んだ。


「男」の名は――ディアッカ・エルスマン。

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