2 チャンドラにとっては、千載一遇の大チャンスだった。 彼は――ミリアリアを気に入っている。もっと突っ込んだ言い方をすれば、彼女に好意を抱いているのだ。 二年経って、大人びた少女。 二年前には、他に心を寄せる男がいた少女。 二年前、とある男から言い寄られていた少女―― 現時点で最大のライバルと言える男はいない。 しかも彼は、コペルニクスには結構詳しいので、これは本当に――大チャンスだ。 「どこ行きたい? ミリィちゃん」 「買い物したいです、買い物! この頃、ショッピングとか楽しむ余裕、全然無かったから」 月に降り立ったミリアリアは生き生きとしていた。そんな姿を見ていると、こちらも嬉しくなってくる。 チャンドラは、精一杯の勇気を出した。 「ミリィちゃん!!」 「はい?」 「――こっちに、良いお店があるよ!!」 極力自然に振舞うよう気をつけながら、チャンドラは、ミリアリアの手をつかみ、歩き出した。 名目上は、店への案内。しかし彼の中での本題は、彼女と手を繋ぐこと。 そして、それは成功した。 「…………」 嫌がってはいないだろうか……心配になり、ちらっと後ろを見てみれば、ミリアリアは不思議そうにしながらも、拒絶するような素振りは見せていない。 <よし! イケる!!> 第一段階はクリアした。次はデート中にポイントを稼ぎ、「頼れるお兄さん」から「気になる男の人」への転換作業を推し進めなくては。 そう、こんなに緊張しなくても、手を繋ぎ会える仲になるために―― <頑張れ俺!!> 自分に活を入れるチャンドラ。そうこうしている内に、二人は目的の店にたどり着いた。アンティークを扱うお洒落なお店である。 「うわ〜、良い感じ〜」 ミリアリアは目を輝かせ、中に入っていった。チャンドラも続き、中に入ろうとしたのだが…… 「――?!」 チャンドラの視界の端っこで、何やら見覚えのある人影がちらついた。とても見覚えのある、ミリアリアと二人っきりの場面を見られたら、確実に邪魔してくること確実な男の姿が。 <いや、まさかそんな……> そんな偶然あるはずない。そう言い聞かせながらも、確率が高いことは分かっている。 ザフト所属の戦艦が一隻、コペルニクスに停泊している。 それが――彼の乗っている船であっても、おかしくはないのだ。 気付かれないよう、横目で「男」を見て。 姿をはっきり確認して。 チャンドラは店の中へと逃げ込んだ。 「男」の名は――ディアッカ・エルスマン。 |